第十二章 ― タイとは誰なのか
私は、そのクラスが暴力や殺人、その他の事柄で満ちていると思います。ですから、よく読んでください。または、暴力を嫌う人に注意してください。
魂が召喚の声に応えるよりも前。
遠い理の彼方、存在すら忘れ去られた虚無の深淵よりさらに前。
現在という現実が、彼という存在の重みに衝突するよりも以前――
そこには、沈黙が言語であり、忘却が神殿であった世界があった。
そしてその場所で、時すら記すことを恐れた一つの物語が始まる。
タイは、最初はただの子供だった。
世界中の子供と同じように、ささやかな夢を持つ、ありふれた子供。
しかし――現実というものは残酷だった。
タイが四歳になった頃。
その年齢の子供が決して経験するはずのない出来事が、彼の人生を静かに蝕み始める。
四歳の頃、母は毎晩こう言った。
「部屋に行って眠りなさい。
もしこの部屋からどんな音が聞こえても……ここには来てはいけない。」
だがある夜、好奇心が彼を動かした。
そして、好奇心とは時に――
運命よりも残酷な刃となる。
タイは静かに両親の寝室の扉を開けた。
その瞬間、彼は見てはいけないものを見てしまった。
母親が――
父親ではない男と、抱き合っていた。
タイは息をすることすらできなかった。
小さな胸が、空気を求めて震える。
呼吸が乱れ、喉が詰まり、世界が歪む。
ただの子供が。
たった四歳の子供が――
その光景を目撃してしまったのだ。
タイは震える足で立ち上がり、必死に自分の部屋へ戻った。
眠ろうとした。
だが眠れるはずがなかった。
頭の中には、さっき見た光景が焼き付いていた。
やがて男が帰った後、母は寝室の扉を見て呟いた。
「次からはちゃんと鍵を閉めないとね。」
――
翌日。
母は、自分が妊娠していることを知った。
母は喜び、父にそれを伝えた。
父もまた喜んだ。
そしてタイにも伝えた。
だが――タイ タイ笑わなかった。
彼の頭に浮かんだのは、たった一つの疑問だった。
(その子は……父の子なのか?
それとも……あの男の子なのか?)
タイは何も言わなかった。
それから一年後、母は女の子を産んだ。
タイは五歳になっていた。
しかし彼の心には、ずっと同じ疑問が残り続けていた。
(あの子は……本当に俺の妹なのか?
それとも……あの男の娘なのか?)
彼は父に何も言わなかった。
その秘密を、ただ一人で抱え続けた。
――そして時は流れた。
タイが十二歳になった頃。
ある日の夕食。
家族は食卓を囲んでいた。
だがタイだけは、料理に手を付けず、ただ黙っていた。
父はそれに気付き、笑いながら言った。
「タイ、お前はずいぶん大きくなったな。
気付かなかったよ……どうやら俺も歳を取ったらしい。」
父は少し寂しそうに笑った。
「いつか、お前とちゃんと話がしてみたい。
俺が死ぬ前に、な。」
そして尋ねた。
「何を考えてるんだ?」
だが――その時。
タイは父を見ていなかった。
食卓には、父と母、そして妹が座っている。
だがタイの目に映っていたのは、別の光景だった。
彼は、自分が裁判所に立っている姿を見ていた。
父は裁判官。
母は検察官。
父が軽く額を叩いた。
「タイ、聞いてるのか?
何を考えてる?」
その質問を――
彼はするべきではなかった。
タイは静かに言った。
「八年間……同じ男が家に来てる。」
食卓が凍りついた。
父は最初、それを冗談だと思った。
母は冷静に言った。
「この子にはまだ、そういうことは理解できないの。」
だがその瞬間――
タイは泣きながらシャツを脱いだ。
父の表情が一瞬で変わった。
彼の体には――
無数の痣と傷があった。
タイは叫んだ。
「父さんは知らないんだ!!
夜遅くに知らない男が家に来てることを!!」
「父さんが愛してる母さんが……嘘つきだってことを!!」
「母さんは父さんを裏切ってる!!
その男と一緒に……俺を殴ってるんだ!!」
タイは五歳の頃から――
母とその男に虐待され続けていた。
その言葉を聞いた父は、怒りに震えた。
そして言った。
「離婚だ。」
「お前を不倫で訴える。
この結婚は終わりだ。」
母は冷たく言った。
「証拠は?」
父は答えた。
「俺の息子だ。」
そして静かに続けた。
「それに……その子も俺の子じゃない。
DNA検査をする。」
――その夜。
父は家にいなかった。
母は怒りをタイにぶつけた。
殴り始めた。
タイは逃げた。
キッチンへ。
母が追いかけてくる。
タイは包丁を掴み、震える声で言った。
「これ以上近づいたら……刺す。」
母は笑った。
「あなたが? 無理よ。」
彼女は近づいた。
そして――
タイの包丁が、母の腹に突き刺さった。
母はその場に崩れ落ちた。
タイは震える手を見つめた。
血がついていた。
母は地面で言った。
「殺してやる……このガキ……」
タイは家を飛び出した。
そして――
あの男とぶつかった。
男は笑った。
タイは殴りかかった。
だが男は手首を捻り、鼻を殴り、地面に叩きつけた。
タイは震える手でキッチンを指差した。
男は血に気付いた。
母を見つけ、抱え上げた。
そして出ていく途中――
タイの肩を踏みつけた。
そのまま去った。
家には誰もいない。
タイはその場で気を失った。
――
父が帰宅した。
ドアが開いていた。
父は家に飛び込んだ。
倒れているタイを見つけた。
血を見た。
キッチンを見た。
そして――
タイを抱えて病院へ向かった。
――
三日後。
タイは裁判所に呼ばれた。
DNA検査の結果が出ていた。
妹だけではない。
タイも――父の子ではなかった。
それでも父は言った。
「タイは俺が育てる。」
「小さい頃から育ててきた。
あいつをお前のところに戻すわけにはいかない。」
離婚が成立した。
裁判所の外。
父はタバコを吸いながら言った。
「血が繋がってなくても……」
そして笑った。
「俺はお前の父親だ。」
タイの目から涙が落ちた。
「ごめん……全部俺のせいだ。」
父は頭を撫でた。
「お前は何も悪くない。」
――それが。
タイが父から聞いた、最後の言葉だった。
――
二週間後。
タイは学校から帰ってきた。
夕焼けの時間だった。
家に入り、着替え、風呂に入り、夕食を作った。
そして呼んだ。
「父さん。」
返事はなかった。
もう一度呼んだ。
声は空虚に返ってきた。
家の静けさが――
捕食者のような沈黙に変わる。
タイは外へ出た。
建物の角を曲がった。
その瞬間。
時間が止まった。
そこには――
父が吊られていた。
首がなかった。
風に揺れる死体。
世界が壊れた。
タイの中で、何かが音もなく爆発した。
彼は笑った。
「父さん、夕飯できたよ。」
食事を持ってきた。
死体の前に置いた。
「どうぞ。」
涙が落ちた。
皿を壁に投げた。
そして――崩れ落ちた。
――
その夜。
タイは再び裁判所に立っていた。
判決は冷たかった。
「父親が死亡したため、
今後は母親がタイを養育する。」
タイは叫んだ。
「犯人は!?
まだ捕まってない!!」
誰も答えなかった。
タイは理解した。
この世界には――
正義など存在しない。
彼は最後に思った。
(覚えておけ。)
(いつか……)
(お前たちの死で裁判を開いてやる。)
――
一年後。
十三歳。
タイは家を追い出された。
雨の夜。
男は笑って言った。
「もしかしたら…俺かもしれないな。」
タイの目が変わった。
そして彼は静かに言った。
「お前は幸せに生きられない。」
男は笑った。
タイは言った。
「俺が終わらせる。」
「ゆっくり……確実に。」
雨の中。
タイは空を見上げた。
その時。
声が聞こえた。
「弱いな。」
「壊れてるな。」
「だが――それが力になる。」
「復讐はどうだ?」
タイは囁いた。
「誰が敵でもいい。」
「俺は復讐する。」
「そして証明する。」
「俺を捨てた奴らが……間違っていたと。」
――
第十二章 終了




