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犠牲
触手の動きが見える。
心臓の鼓動が聞こえる。
今なら分かる。
刹那、四方八方から触手が心臓を目掛けて飛来する。
腕に傷を付けながら飛来するそれらを弾く。
いける…
怪物の心臓は常に動き続けている。
もう壁の中には無い。
木を隠すなら森の中とはよく言った物だ。
触手を片っ端からしらみ潰しに切り落とす。
心臓は既に触手の中に移転した。
触手が心臓を狙い、触手の心臓を狙う。
壁、床、天井から伸びた触手は鋭利に飛来し、皮膚を掠めながら床に突き刺さる。
間合いの中で触手が暴れる。
鼓動は…まだ遠い
暴れる触手を去なすように鎮める。
徐々に鼓動がはっきりと聞こえ始める。
幾千もの飛来する触手を振り払いながら鼓動のする方へと歩みを進める。
痛む足から血を流しながら、震える腕で触手を振り払いながら、
一本、また一本と間合いに触手が入り込む。
鼓動がまた少し近くなる。
間合いの触手を薙ぎ払い、鼓動に向かう。
また無数の触手が間合いを囲む。
避けきるのは無理だ。
だからせめて心臓だけでも、
……!
一瞬、耳元を通り過ぎた触手から鼓動が聞こえた。
一瞬だった。
その一瞬に気を取られてしまった。
「行って」
背後から血の雫が溢れる音が聞こえる。
「振り返らないで、絶対に、」
不自然に途切れた声の後に倒れ込むような音がした。
目で追った触手を切り落とした。




