独奏
リーダーが、取り込まれた、
先程より肥大化した怪物が目の前まで迫る。
『アイツはどこに、』
頭の中にハルトの声が響く、
先程まで視線を釘付けにしていた蝶の羽が見当たらない。
『アルタ!前!』
ッ……!
一瞬遅れた
右腕から血が滴る。
刹那、無数の触手が右腕目掛けて飛び出す。
構えようと体制を立て直すと同時に傷口が悲鳴を上げる。
『おい!大丈夫か!』
滲む視界の中、静かにゆっくりと触手が飛び込む。
ゆっくりと、ゆっくりと、時が流れる。
ハルトの声も右腕の悲鳴もどれも脳に届かない。
最初に鼓膜を震わせたのは静かな水の音だった。
腕から垂れる一滴の血が水溜まりを濁らせる。
滲む世界から目を覚ますと、
触手の残骸が乱雑に散らばっていた。
これは戦争だと告げる。
ハルトでも誰でもない声が、
未だ波紋は水溜まりを揺らし濁らせる。
『なんだ、今の、』
「ハルト、行くよ」
守りたい、失わせたくない、死なせたくない、
そんな言葉では無い
「復讐に」
再び触手が動き出す。
脈を打ちながら、
今はその脈がうるさかった。
だから、潰した。
千切れる触手の感触が左手の先に残る。
今はそれが心地よかった。
独りでなければこうはなれなかった。
ああ、また自分だけ生き残ってしまう。
左腕を見つめる。
まだ、足りない、
飛来する触手を蹴り落とし、踏み潰す。
本体を、
足にいつも通り力を入れて前に進む。
世界がゆっくりと流れる。
足元の水溜まりを蹴る。
迫る触手がうるさい。
流れる空気がうるさい。
足元を刎ねる水溜まりがうるさい。
この鼓動がうるさい。
ふと、雨が降る。
暖かいはずなのに冷たかった。
また知らない振りをして触手を振り落とす。
呼吸すらもうるさかった。
『……タ』
頭の奥で微かに声が聞こえる。
『ア……!二……!』
触手を振り落とした自分の右腕を見た。
『アルタ!逃げろ!』
世界が静かになった




