羽化
遅れてしまい申し訳ございません。
今後ともこのようなことはあるかもしれませんが、皆様が楽しんで頂ける作品を作れるように精進して行きます。
崩れるビルの音も街を侵食する怪物の音も今は遠くで響いている。
地にずさんに落ちた糸が、目の前の繭に吸われる。
触れることすら躊躇ってしまう程に、
「キョウさん。指示を」
我に返る。
「……攻撃を続けるんだ、」
破れた穴に糸が伸び、その口を塞ぐ。
「でも…」
他のチームですら歯が立たない。
「壊し切らなくてもいい。内側に潜り込めれば、」
「そんな、相手のことも繭のことも分かっていないのに、リスクが大きすぎます。」
「承知の上だ。」
「……分かりました。その代わり、俺もついて行きます。だから絶対に死なないで下さい。」
「分かっている。」
塞がる穴に拳を突っ込む。
きっとリーダーなら、
拳を振り繭に穴を開ける。
深く、もっと深くに、
開いた穴はまるで水の様にすぐに塞がる。
何もなかったかの様に、
先程までと同じ大きな繭が鎮座している。
糸が唸り始める。
力が駄目なら、
「アルタ。セツが開けた穴に攻撃を仕掛けてくれ。」
「分かりました。」
静寂の中にセツの拳の音が響く。
アルタの拳に合わせて少しずつ穴が広がる。
それに比例する様に糸の唸る音も大きくなる。
水が干上がるように消えてゆく。
繭の穴が渦の様に広がる。
糸が音の鋭さを変える。
そして、
渦が飲み込むように、
風が吹き荒れるように、
轟音を立てた糸が暴れ出す。
全てを切り捨てるように。
暴れる糸が皮膚を刺し、
痛みを感じるより先に血が指先を流れる。
渦は少しずつ小さくなり、波紋のように揺れる。
波紋は広がることなく小さく消えてゆく。
大雨のように吹き荒れる糸の中で、水飛沫が跳ねる。
一つ、二つ、数えきれない程の糸が静かに跳ねる。
どこか儚くて寂しげで、
嵐の中で幾つも伸びる雨の中で、
皮膚を刺す糸の中で、
美しくはなかった。
死に物狂いで、
藁に縋るような思いで、
その糸口を見失わないように、
一瞬の豪雨の中で、
その糸に触れた
その一瞬だけ、遠くの何かを見た気がした
途端、
繭が静かに轟音を立て
消えた。
繭の中で目を閉じた少女が蛾の様な羽を広げ、立ち上がった。
ゆっくりと目を開き、手のひらで落ちてゆく糸を受け止める。
「負けちゃったか。」
暴れていた糸は嘘だったかの様に姿を消していた。
「きみたちの所為?」
羽をぎこちなく羽ばたかせて地から足を離す。
小さな風が吹く。
_______近くで怪物の音が聞こえた。




