絡繰
糸を振り解き、能力者を足止めする。
絶対に行かせない
「はぁ、」
能力者がため息を吐き、再び糸が暴れ始める。
「仕方ない。直接殺すか。」
身体を無理矢理動かし、猛攻を避ける。
周囲のビルが倒壊し始めた。
ビルや糸の間を掻い潜りながら距離を詰める。
だが、どれほど近づいてもそれ以上のスピードで距離を取られる。
暴れる糸がこちらに集中する。
今はただ避ける。
更に攻撃は激化する。
まだだ、まだ早い。
徐々に距離を詰めながら攻撃を避ける。
能力者の位置をしっかりと捉えて、
……今なら行ける。
こちらに飛来する糸を何本か掴み取る。
糸の動きが変わった。
…ここしか無い。
手の中にある糸の配線を見切り、能力者の足を拘束する。
「また面倒なことを、」
糸の攻撃が緩くなる。
この一瞬を待っていた。
まだ拘束は解けない。
だから手元にある糸を使い、
糸を暴れさせた。
猛攻が止み、砂埃が晴れた奥には、傷だらけの能力者がこちらを睨んでいた。
瞬間、能力者が一瞬にして距離を詰める。
こちらもそれに呼応するように距離を詰めに行く。
互いの足音が交差する瞬間、
能力者の胸元に手を伸ばす。
「……っ」
やはり持っていたか、
解毒薬を
「返せ」
より一層血相を変えて能力者がこちらに近づく。
それに応じて糸も周りで暴れ始める。
今はまだ使うべきではない。
一点目掛けて走る。
歩を進める度に視界が揺らぐ。
腕を振る度に音が聞こえなくなる。
ゆっくりな世界で無限にも思える程永い永い時間をかけて、遂にその一点に倒れ込む様に辿り着く。
能力者もしっかりと着いてきている。
暴れる糸を引き連れて。
崩れかけているビルの下で、ただその時を待つ、
這う様にしながら少しずつ逃げるように見せる。
…いや、もう立ち上がれない。
毒が完全に身体を蝕む。
遠のく意識をギリギリで保ちながら、ただその瞬間を待つ。
チャンスは一回だけ、
失敗すれば死ぬ。
その一歩一歩が待ち遠しい、
糸がしっかりと張り詰める。
ビルは少しずつ傾き始める。
そして、最期の足音が聞こえた。
今だ。
解毒薬を能力者よりも遠くの方へ投げる。
その一瞬で、能力者は視線を逸らす。
僕は放っておけば死ぬ。
だから、能力者は薬に釣られてこちらに背を向けた。
手の中にずっとあった糸から力を抜くようにして手を離す。
糸はどこかへ飛ぶ。
タイミングは完璧だった。
瞬間、轟音が鳴り響く。
振り返ると、能力者が崩れたビルの下敷きになっていた、
風の匂いが漂う。
崩れたビルに這い寄る。
歪んだ視界で、解毒薬を求めて、
その時に一筋の光が目に入ってしまった。
暴れた一本の糸くずが、崩れたビルのガラス片が、
その光が、僕の死を宣告した。




