酔心
「僕が知っていることなんて組織が公に出している情報だけですよ。」
夜はまだ長い。
「……分かった、」
その言葉に続く言葉は出てこなかった。
ベランダに出て夜風に当たる。
「兄さんは昔から隠し事が苦手なんですよ。でも何を隠しているのかは兄さんが隠すのを辞めない限り聞けないんですよ。」
さっきまでの雑談のトーンで昔話をする。
「ナイとは随分仲良くやっているようだな。」
ガルドさんもベランダの柵にもたれかかる。
「はい。あの人のことは本当の兄のように慕っています。」
窓の外にはポツリと星の光が見える。
「ガルドさんはいつもこの時間は何しているんですか?」
「ん?俺はまぁ、相方と雑談したり少し酒を飲んだりしているな。」
未成年の自分には少し早い話が出てきた。
「お酒っておいしいんですか?」
「興味あるのか?だが、俺は酒の味はあんまり好きじゃないんだ。」
なんというか意外だった。
「そんなに意外だったか?」
「え?すみません。声に出てましたか?」
「声というより顔に出てたな。」
ガルドさんが笑いながら答える。
「いや、だが意外に思うのもそうだろうな。」
顔を変えて話し始める。
「酒なんて苦いし喉は焼けるし、最初は酒の良さなんて分からなかった。けどな、仕事終わりに一杯飲むと、少し肩の力が抜けるんだ。誰かと飲む時は味なんてどうにでもなる。まぁ、それでもまだ苦いがな。俺から言わせてもらえばあれは飲み物じゃねぇ。」
一拍置いてガルドさんは続ける。
「その瞬間を噛み締める為に飲んでいる。そういうもんさ。」
「奥が深いんですね。」
「まぁな。大人になった時の楽しみにしておけ。その時は奢ってやる。」
「それじゃあその時はありがたく奢られますね。」
その日の夜風だけは涼しいと感じられた。
「さて、そろそろ戻るぞ。虫が入ったりしたらシオンが怖がるからな。」
あの人虫苦手なんだ。
そう思いながらガルドさんに着いていくように室内に戻ろうとした時に、ふと背中に少しだけ暖かさを感じた。
振り返ると遠くの空から星が消え始めていた。
「そろそろ朝か、そういえば朝は研究所に行くんだろ?一緒に行くか?」
「はい。よろしければ是非ご一緒させてください。」
日が昇る前に色々と準備をしておく。
「ガルドさんは本日はどちらに?」
「いつも通り闘技場に行く。その後どこか近くで昼も摂るつもりだ。」
「そうですか。じゃあ一緒にいられるのは行きだけになりそうです。」
「そうか。まぁ気をつけていけよ。」
「勿論です。」
他愛のない雑談と朝日の香りが部屋を包んだ。




