帰宅
「あの、ナイさん。頼みたいことってなんですか?」
新人は少し警戒した様子で尋ねてくる。
「私たちチームLの拠点を一時的に研究所に移転する。そこで移転の為の準備を手伝って欲しい。」
というのは建前だが、彼に本当の目的を教える必要性は感じない。
「何で僕を選んだのですか?」
少し無理がある建前だったか。
「他の3人には別の仕事をしてもらっている。それ故に手の空いている君を選んだ。あと、単純に君の実力をこの目で確認したいからね。」
態々隠す必要も無い。
私がこの子を研究所に連れて行くのはただの興味本位だ。
別にこの子は特別強い訳ではない。
だが、リーダーとしてチームメイトの力量は把握しておきたい。
それに、少しの凌ぎにはなれるだろうからね。
「アルタ君。君は本物の能力者と戦ったことはあるかい?」
「試験当日に出現した分身の能力者とは手合わせしましたが、それ以外の実戦経験は、」
「そうか、君に少し有益な情報を教えよう。」
まだ警戒は解けない様子の新人に顔を合わせる。
「近いうちに危険度4が出現する可能性がとても高い。」
新人は目を見開いて息を飲む。
「きっとその時はこの近辺のチームが全員戦いに駆り出されるだろうね。」
「勝てるんですか?」
「勝つしかないさ。」
少し怖がらせてしまった。
そんな会話をしながら私たちは研究所に戻った。
***
研究仲間を避難させた後、僕は無事を祈りながら兄さんの帰りを待った。
兄さんのあの言葉を頭の中で反芻する。
力を使いすぎるな。
あの言葉が答えだろう。
昔から兄さんはそうだった。
なんで全部を背負おうとするのか。
今回の能力者の情報に目を通す。
今回の能力者はとても危険だ。
街に及ぼす被害は危険度3の能力者よりは劣るが、討伐となれば話は別。
きっと兄さんはまた力を使っただろう。
兄さんの身体はもう限界が近いはずだ。
限界になったらどうなるかは誰にも分からない。
そんな思考を巡らせていると遠くに兄さんともう1人、アルタさんの影が見えた。
僕はすぐに兄さんの方に駆け寄った。
「ただいま」
兄さんは服を血まみれにして帰ってきていた。
「おかえり。無事?」
「この通り無傷で帰って来たさ。あ、紹介が遅れたね。この人はアルタ。私のチームメイトだ。」
「こんにちは。アルタさん。」
「お久しぶりですね。」
何故チームメイトを1人だけ連れてきたのかは聞かなかった。
「それじゃあ研究を再開するぞ。」
「あの、僕は何をしていればいいですか?」
「うん?そうだね、じゃあ先に私と部屋の方に行こうか。アークたちは先に研究をしておいてくれ。」
「分かった。じゃあいってらっしゃい。」
「いってきます。」
出会ってすぐ別れてしまったから兄さんと話すことができなかった。
あの人の背中を少し目で追った後に研究の準備を始めた。




