第8話 「はじめてのコンビニ」
怖くなってノートをぱたりと閉じた後、俺は机に突っ伏して動けなかった。
この数時間で怒涛の情報量が頭を巡ってぐちゃぐちゃになってきている。
まさか雨宮莉本人が『入れ替わり』を知っていただなんて。それノートの内容から察するにその『入れ替わり』は何度も繰り返しているらしい。当の本人は時間制限つきで俺の身体に憑依しているものだと推測していたが、ノートにて本人は意識が『配信中突然意識が沈む』と記載していた事から察するに、今雨宮莉の中身は何処かで気絶していると考えるのが筋だろう。
それはそれで心配になるがある程度の推測を踏まえると謎に安心したのか、心臓の音がやっと落ち着いてきた。
と、思ったら今度は腹が鳴る。
……情けないけど、空腹は誤魔化せない。
棚を探しても、食べかけの袋菓子しかない。中身はスッカラカン。
――つまり、買い出し必須。
……女の子の体で。夜の街に。
***
外に出ると、夜風が頬を撫でる。
視界がやたらと低い。建物が妙に大きく感じる。
人通りは少ないのに、誰かにずっと見られている気がした。
「……俺は女の子に見えてるはず。怪しまれる理由はない」
そう自分に言い聞かせるのに、歩くたび足取りがぎこちない。
***
コンビニの自動ドアが「ウィーン」と開く。
店内の蛍光灯の光がやけに眩しい。
お菓子コーナーに足を向けると――見慣れたパッケージ。
雨宮莉が配信で好きだと言っていたスナック菓子。
それを手に取った瞬間、背筋がぞわりとする。
「……あのときの彼女は、もうここにいないんだよな」
中身が俺に入れ替わっている以上、“本当の雨宮莉”は消えている。
――そう考えた途端、手が震えた。
***
レジ。
「袋いりますか?」
店員の問いかけに、裏返った声で「は、はいぃ!」と答えてしまう。
店員は怪訝そうに俺を見て、それ以上は何も言わない。
でも、その「間」が妙に長く感じた。
――俺の正体に気づいていたんじゃないか?
会計のとき、小銭を取り出そうとして床に落とした。慌ててしゃがみ込むと、パジャマの裾がふわりと広がって――
「わ、わぁぁ……っ!」
余計にドタバタする俺。
店員は「大丈夫ですか?」としか言わず、手伝ってくれなかった。
***
袋を抱えて帰路につく。
夜風が肌に触れるたび、違和感が増す。
「……俺はほんとに大丈夫なのか?」
胸の奥が重くなる。
このまま“彼女”の生活を借りて歩いていたら、いつか絶対にバレる。
学校で、友達に、家族に。
そのとき、俺はどうなる?
“俺”として存在できるのか?
それとも、“雨宮莉”として自分自身をも騙しながら生き続けるしかないのか――。




