第6話 「覗いてはいけないノート」
壁には吸音材、そして机の上には部屋を反射するモニターにマイク、これらは雨宮莉の標準装備である。ついさっきまで俺が配信していた実感が未だに湧かない。非現実的で、でも確かに現実がそこにはあった。
横には喉スプレーとハチミツ瓶。夕方過ぎから深夜までの長期配信が多かった彼女。喉が擦り切れないか心配だったがやはり人気配信者、自己管理も怠っていない。
本棚に目をやると、背表紙に並ぶのは分厚い専門書ばかり。
『経済学の基礎』、『統計でわかる経済学』、『社会思想史』……。
少なくとも高校の教科書じゃないよな。俺は中退してるから詳しくはわからんけど……。
「これって、大学とかで使う本なんじゃ……」
なんとなく、そうとしか思えなかった。
ページの端には付箋がびっしり貼られていて、本をめくると、ところどころ折り目もついていて、中身は三色くらいのマーカーで彩られていた。
「……勉強ちゃんとしてんだな」
ベッド脇には漫画の山。しかもジャンルばらばら。流行りの恋愛ものもあれば、渋い文学作品も混じってる。配信では絶対に触れない領域に俺はかすかな興奮を覚える。
「俺の好きな漫画もある……ってやってることストーカーだろ」
クローゼットを少し開けると、カジュアルでラフな普段着が隣り合って並んでいた。……普段のきらきらした配信舞台からは想像できない、普通の、本当に普通の女の子なのだろう。
机の隅に、小さな写真立て。いわゆる家族写真が並んでいる。家族か……配信で「みんな家族だよ」なんて笑って言ってたけど、彼女にはちゃんと“日常”があるんだ。
そして、その横にぽつんと置かれたノートがあった。鍵もかかっていない、シンプルな無地のノート。きちんと整頓された本棚やクローゼットの服を見てからだと、無造作に置かれたノートがやけに気になってしまう。
タイトルもなくて、開いたら絶対に“覗いちゃいけないもの”が書かれている気がした。気づけば俺はそのノートに手を伸ばしていた。




