第5話 「弱者俺、女子の部屋で名探偵気取り」
部屋をぐるりと見渡す。
そこは俺の六畳ワンルームとはまるで別世界だった。
壁一面には防音パネル。机の上には二台のモニター、マイクは銀色に輝いていて、スタンドライトが柔らかく白光を放っている。足元のカーペットはふわふわで、座っただけで沈み込む。甘い柔軟剤の匂いが漂っていて、湿気とカビ臭さにまみれた俺の部屋とは正反対だ。
そして何より……鏡。全身を映す姿見が壁際に立てかけてある。
そこに映るのは、配信のアバターとは違う配信のアバターとは違う――
現実の"雨宮莉の中身”。
艶のある黒髪を肩で揺らし、ぱっちりした目は少し眠そう。小柄なのに華奢で、白いパジャマの裾からは細い足首が覗く。
……可愛い。俺なんかが入ってていいのか疑うレベルで可愛い。
「えっと……まずは冷静に、状況整理……」
机の椅子に座り直し、膝に手を置く。
落ち着こうとするけど、鏡に映ったその姿が視界の端で動くたびに心臓が跳ねる。
……やめろ俺。ニヤけてる場合じゃない。
モニターには、さっきまでの配信ソフトがまだ最小化されて残っていた。カーソルを合わせるだけで指先が震える。細くて白い指がマウスを包み込み、クリックするたびに「カチッ」と軽やかな音が響く。
画面を閉じると、静けさが戻ってきた。ホッとする。
同時に、今度は自分の呼吸音がやたら大きく聞こえてしまう。
「……よし、配信は止まった。次は――戻る方法」
ペン立てに手を伸ばすと、指先がすべすべしたキャラクターのボールペンを掴む。メモ帳を開くと、可愛い丸字で予定が書かれていた。
『配信スケジュール 21:00~』『歌練習』『テスト勉強』
……やっぱり普通の学生生活してるんだ、この子。
「ごめん、ちょっとの間だけ借りる……!」
心の中で土下座しながら、俺はそのメモ帳に震える手で書き始める。
……条件整理。
気づいたら憑依。
トリガーは“俺の絶望”。
戻る方法は……不明。
「不明ってなんだよ…」と呟きながら、頭を抱える。
「落ち着け。深呼吸、深呼吸……」
椅子の上で背筋を伸ばし、スーハーと呼吸を整える。
だけどそのたびに、胸元が上下して――って俺、何見てんだよ!?
実際、小柄な体型とは対照的に胸だけはちゃんと主張してて。パジャマの布地がふわっと膨らんで、微妙に形を描いてしまっている。
ダメだ、冷静になれない。最低にはなれるけど。でも、冷静にならなきゃ戻れない気がするんだ。
……弱者の俺、ここで本気の推理タイム突入。
可愛い女の子の体で、必死に元に戻る手段を探す。




