第12話 「見つけた」
コメント欄はいつも通りにぎやかだ。
【莉ちゃん今日も可愛い~】
【このテンション久々じゃない?w】
【声の調子よさそう!】
俺も少しずつ慣れてきて、昨日より自然に笑えていた。カメラに向かって手を振ったり、コメントに返したり――まるで自分が本当に“雨宮莉”になったみたいで、怖さより楽しさが勝っていく。
「えへへ……今日は、ちょっとだけおしゃべり多めにしよっかな」
【いいぞいいぞ】
【もっと喋って~】
【テンション神回ww】
……そうだ、楽しい。
この瞬間だけは、俺も弱者じゃない。
だが――次の瞬間。
アバターが、かすかに震えた。
俺はマウスに触れていない。キャリブレーションも狂っていない。
それなのに、画面の中の莉は、ガタガタとノイズのようにぶれ、顔の角度がカクカクと有り得ない方向へと折れ曲がった。
普通の首かしげ……じゃない。角度は45度を超え、60度、80度……最終的に肩に顎が突き刺さるほど、骨の構造を無視して折れ曲がっていく。
【え、なにこれ】
【動き壊れてる】
【でもトラッキングじゃなくない?】
俺は必死に操作を試みるが、アバターは止まらない。首が真後ろにまでねじれ、ぱきん、と骨の折れる音がスピーカーから響いた気がした。
そして――笑った。
俺が声を出していないのに、画面の莉が勝手に口を開き、音声トラックには「ざ……ざ……」というノイズ混じりの笑い声が乗る。
【……は?】
【今、勝手に喋ったよな】
【れいちゃん??】
「ち、違う! 俺じゃない、これ俺操作してない!」
視聴者のコメントが悲鳴で埋まる。
その間もアバターは不自然な角度で首を回転させ、ぐるん、と一周して俺の方を見た。
“俺”じゃない、勝手に動く“莉”が、にちゃ、と歪んだ笑みを浮かべる。
その瞬間、モニターのスピーカーから、ざらついた声が漏れた。
俺の声ではなく、莉の声でもない。
別の何かが、俺たち全員を嘲笑うように――。
【やめろやめろやめろ】
【これ配信でやるやつじゃねえ】
【演技……じゃないよな?】
「やめろ……やめろって……!」
俺は必死にマウスを連打するもアバターは止まらない。裂けた笑顔のまま、口からは「ひひひひひ……」と異様な声を垂れ流し続ける。
【運営はやく!】
【バグだよね!?】
【え、これ演出?】
コメント欄がパニックに染まった、その瞬間。
――プツッ。
イヤホンが焼き切れたみたいに、音が全部消えた。モニターの中の莉の顔も、ふっと闇に飲まれるように消え失せる。
残ったのは、真っ黒な配信ソフトの画面と、無音。
……配信が、強制的に切断された。
心臓が耳の奥でドクドク鳴る。
俺は息を殺して画面を見つめる。
チャットのざわめきも、コメントの洪水も、もうどこにもない。
――ただ、モニターの黒い画面に。
自分じゃない“視線”が、まだこちらを見返している気がした。




