第310話 「旋風を巻き起こしますわ」
……それは、一瞬の出来事だった。
敗れ去った青牛鬼王の目には、ラミス姫が一体何をしたのかすら見えていなかった事だろう。
それ程までにラミス姫の技は速く、そして凄まじい威力だった。
──プリンセス神拳最終奥義百八式、プリンセス"暴風"。
この技は人狼王第四形態〈獣神モード〉を討つ為に、ラミス姫が編み出した"最終奥義"である。
……百八ある内の全ての技に於いて、ラミス姫の最強かつ最後の奥義なのである。
この奥義はラミス姫の速度を一瞬だけ極限まで上昇させ、戦場に凄まじい"暴風"を巻き起こす。
その凄まじい速さの前に、たとえ"王の名を持つ獣"であろうとも、ラミス姫の動きを捉える事すら出来ず敗れ去る事だろう。
「…………。」
青牛鬼王をプリンセス"暴風"で捩じ伏せ、次なる標的である赤牛鬼王の姿を睨み付ける"拳神"ラミス。
ラミス姫は遂に、"拳神"の称号を手に入れるまで成長を遂げていた。
……しかし、ラミス姫は理解していた。この技では、まだ赤牛鬼王を倒せない事を───。
……それは、この奥義がまだ未完成の技だからである。
「私も、まだまだですわね……。」
──ギリッ。
ラミス姫は拳を強く握り締め、悔しさに体を震わせた。
「……必ず、私の手で完成させてみせますわ。」
……そう心に、強く誓うラミス。
そしてラミス姫が、この技を完成させた時───。
全ての"王の名を持つ獣"を打ち倒し、ヘルニア帝国を打倒する日が訪れる事だろう。
──ドゴォ!!
「ぐうっ!?」
牛鬼王の刃により、激しく吹き飛ばされる"白虎の巫女"リン。
「お姉様っ!?まっ、不味いですわ……。」
「ううっ……。」
牛鬼王の直撃を喰らい、致命傷を負う姉リン。
「お姉様ー!」
すぐに神々の力"治癒の力"で回復させるミルフィーだが……。既に魔力が切れ"浄化の力"を使用する事が出来ず、"治癒の力"を僅かに使える程度しか魔力が残されてはいなかった。
「ブモォォォオオオ!!」
"白虎の巫女""青龍の巫女"そして人鳥女王の三人掛かりですら全く歯が立たない、"王の名を持つ獣"赤牛鬼王〈レッドミノタウルスキング〉。
それは正に圧倒的な強さを誇る、真の化け物だった。
ミルフィーの魔力が尽き、絶望的な状況へと追い込まれるラミス姫達。
……ラミス姫には分かっていた。
たとえ四人掛かりで戦ったとしても、青牛鬼王をも打ち破る最終奥義を使ったとしても───。
赤牛鬼王を倒す事など決して敵わない事を、ラミスは理解していた。
既に限界の三人と一匹。このままでは後数分……。いや数秒すら持たず、ラミス姫達は赤牛鬼王の前に敗れ去る事だろう。
「お姉様、"あれ"を使いますわ!!」
だが、もう一つの奥義なら話は別である。
「分かったわ、ラミス!貴女に賭けるわ!!」
ラミス姫は勝利を掴む為に、二つ目の方法を試みる。
「お姉様!ミルフィー!後、七秒だけ耐えて下さいませ!」
「七秒ね、了解よラミス!必ず、耐え凌いでみせるわ!!」
「分かりました!きっと耐えてみせますわ、お姉様!」
──だっ!
そしてラミスは、勝利に向かって走り出した。




