第286話 「難しい話は私〈わたくし〉には分かりませんわ」
フォーゲル王子は、確かに王子の数は七人だと言っていた。……それなのにも関わらずヘルニア帝国に第八王子が居るとは、一体どういう事なのだろうか?
フォーゲル王子は側近であり、またヘルニア帝国の第八王子でもあるアベルについて、ラミス姫達に説明を始めた。
古の怪物達を呼び出すクリスタルは、ヘルニア帝国の王族にしか使えない様に封印が施されている。
その為、今回の犯人は必然的に残りの三人の王子であると考えるのだが……。
しかしフォーゲル王子は直前まで、ヘルニア帝国に滞在していたのである。
他の王子達が軍を動かし、ツインデール公国に攻め込むとなれば、何かしらの情報がフォーゲル王子の耳に届く筈なのだ。
しかしそれらの痕跡が何も見当たらないのであれば、三人の王子が軍を動かした可能性は極めて低い事だろう。……その為、今回の犯人は三人の王子以外であるとフォーゲルは考えた。
そして、一人だけ───。
三人の王子とヘルニア皇帝以外にも、たった一人だけクリスタルを扱える人物が存在するのである。
その人物は側近としてラミス姫達に近付き、フォーゲル王子と共に何食わぬ顔でツインデール城へと入り込んだ、ヘルニア皇帝第八王子───。
「側近のアベルは、本当はヘルニア帝国の第八王子なんだ……。」
フォーゲルは寂しそうに瞳を潤ませながら、そうラミスに告げた。
今回の犯人が同じ兄弟であるアベルだった事を、フォーゲルは信じたくはなかった。……しかし所在の知れない黄色のクリスタルや、様々な状況証拠がアベルが犯人であると指し示していた。
「もしアベルが、父から黄色のクリスタルを渡されていたのなら……。」
フォーゲル王子は、犯人がアベルでは無いと信じたかった。……他の三人の王子が侵攻してきたのだと考えたかった。
しかしどう考えても条件に当てはまるのが、アベル一人しか存在しないのである。
「えっ……。ヘルニア帝国の第八王子!?」
フォーゲル王子の話に驚きが隠せないラミス姫とメイドのロクサーヌ。
フォーゲル王子の話によると、第八王子であるアベルはフォーゲル王子と同様に、兄達に何度も毒を盛られ殺害されそうになった過去があるらしい。
瀕死の状態になり、生死をさ迷ったアベル王子はある理由もあり、どうせ兄達に命を狙われるならと王族の身分を破棄したのである。
そしてアベルは王子の中で唯一仲が良かった、フォーゲルの元で働く事を決意した。
同じ市井の出の母を持つ、フォーゲル王子とアベル王子。そんな二人の王子への風当たりは強く、二人は特に他の王子達から嫌われていた。
同じ境遇を持つアベル王子の事を、フォーゲルは本当の兄弟であると信じて疑わなかった。どんなに辛い状況であっても、二人は互いに手を取り合い励まし合ってきたのだから───。
「お願いだ、ラミス姫……。もう一度、アベルと話をさせて欲しい。」
フォーゲルは目に涙を浮かべ、小さく体を震わせていた。
何かの間違いなのかも知れない。……たとえ自分が殺されたとしても、フォーゲルはアベルが犯人だとは信じたくは無かったのだ。




