七月十四日(金) 午後七時半 部室
「――いいかい、至宝は一度盗られる。ワタシたちがやらないといけないのは、そこからどうやって犯人を捜しだすかを考えることだ」
手紙を机の中心に置いて、子どもたちだけの作戦会議が始まった。姉も簡単に何が起こっているかを駿英から説明してもらったから、話についてこれるだろう。
さっきの海瞳さんと雪瓜の会話を聞いてたら、二人はなにかつかめたみたいだった。ぼくたちは二人がどんなことを言うか待っていた。といっても、この作戦会議、『大富豪』をしながら始めたからなんとも緊張感がない。
「なんで至宝が盗られるんだ? 盗られる前にそいつを捕まえる手段はないのかよ……ほれ、上がりだ」
手持ちのカードを捨てながら山本先輩が海瞳さんの方を向いてそう言った。おかげで、となりの雪瓜がすごい形相でにらみつけていることに気付かない。変なところで運がいいな、この先輩。
「ホンッとムカつくわね……でも彼の意見はわかるわ。お姉ちゃん、そんなに慎重に考えないといけないの? あれってあたしたちが神楽舞台で受け取るまで、ほとんど拝殿に置いてあるんでしょ? そんなの、怪しい動きをしている人がいればすぐにわかるじゃん」
雪瓜の言うことも一理ある。皆がお祭りを楽しみに来ている状況で、一人だけ変な動きをしている人物がいればすぐに見分けがつくだろう。だけど海瞳さんの顔は険しい。
「出来るならそれに越したことはないがそうはいかない。当日は多くの出店が並ぶしお客さんも老若男女問わず来る。そのなかに溶け込んで行動されたらもうお手上げさ。もし捕まえた人物がただのお客さんだったら別の問題が起こるしね。だったら盗んだ瞬間に手っ取り早く捕まえることが最善策になるとワタシは考えるよ。
第一、なんでこの手紙を送ってきたのかもわからない。ワタシたちに存在を認知させることでなにか理になることがあるのか?
盗むだけなら声明なんて出さずに犯行に及んだ方がいいだろう。だけどこの人物はご丁寧に何を盗むかまで記している。ここまでするならよっぽど自信があるんだろう」
確かにそうだ。犯人はこんな手紙を送ってきて何がしたいんだろう。うーんと考えている間にも海瞳さんは話を続ける。
「だから、二つの至宝を父にはそのまま持ってきてもらう。もちろん何が起こるかは知らせない。私たちの舞の最後に神楽舞台に至宝を投げ入れてもらうんだが――」
海瞳さんから二人が行う舞について聞いてぼくはビックリした。それと同時にみんなはうんうんと頷いているだけで舞の内容について知っていたことにも驚いた。投げ入れるって……そんなことしていいんだ。
「まあ、祭りの醍醐味だしな。舞が始まったら屋台のおっちゃんおばちゃんも全員、神楽舞台まで来るからな」
「そのおかげでこっちはプレッシャーで押しつぶされそうなのよ。まぁ地元なのに、その歳まで見てない貴方はおかしいと思うわ」
同級生たちからもさんざんな言われようだ。
「とにかく、この瞬間が一番至宝が奪うのに適しているだろう。舞を一番前で見ている観客たちが手を伸ばしたら届きそうな位置だからね」
「舞が始まったら俺たちは最前列にいた方がよさそうだな」
山本先輩の言うことに海瞳さんはこくりと頷いた。
「そこでだ。キミと響クンには祭りのときに不審な動きをしている人物がいないか見回りをしてもらいたい。もちろん、友人たちと来るだろうからそれの邪魔にならない程度でいい」
「わかりました!」
「おう」
ふたりは同時に返事をした。海瞳さんは満足そうにうなずくと、次にぼくの方を向いた。
「椿クンは事が起こるまで待機だ」
待機……? いったいどんなことをするんだろうか。
「ことが起こったらどうすれば……」
ぼくが疑問を口に出すと彼女はやさしく微笑んでこう言った。
「キミはキミがやりたいように動けばいい。キミなら大丈夫だよ」
「は、はい!」
それって結局どういうことなんですか……、って聞き返そうとしたけど海瞳さんのことだからこれ以上は教えてくれないだろう。自分で考えるしかない。
「ワタシと妹は何かが起こった際に、神楽舞台で鈴を鳴らしているよ。あの格好だと素早く動くことはできないし、他の観客たちがパニックにならないように努めないといけないからね。実行委員たちも祭りで事件が起きてほしくないだろうから、協力させるさ。なにかあったら彼らを頼ってくれ」
雪瓜は次に捨てるトランプのカードを考えているようで顔はうつむきかけているが、口が少し緩んでいる。きっと姉に頼りにされてうれしいんだろうな。とにかくこれで各々、当日に行う役割が決まった。
……あれ、誰か忘れてるような?
「……ねぇ、私はどうすればいいの」
「また負けたんだけどっ!?」
姉が残ったカードを捨てながら不満そうに言った。ついで駿英の絶叫。壮絶な泥仕合を繰り広げていた二人だったけど軍配は姉に上がった。海瞳さんは一瞬キョトンとした顔をしたけどすぐに笑顔になった。
「楓は当日は楽しんでればいいよ」
「……それだけ?」
「ああ、それだけだ」
「……ちぇっ。今回も面白いことに参加できると思ってたんだけどなー」
彼女が笑顔で答えると、姉はしぶしぶといった様子で引き下がった。姉は場に出たトランプを集めてシャッフルし始めた。……一戦したら帰るんじゃなかったのか。順位が相当不服だったらしい。皆にカードを配っていく。
(『今回も』って一体どんなことをやってたんだろう……。)
ぼくは断言できる。この二人が関わることなんて絶対にろくなことが起こらないことを。
「おい。本当にいいのか? こいつがいてくれた方がだいぶ楽になると思うんだが。――それ、『革命』だ」
山本先輩は持っていたカードを出しながら言う。なんで一番勝ってる人が率先して場をかき乱すのっ!?
そんな彼を信じられないという顔で見ている少女が一人。……またすごい形相で彼のことをにらんでる。作戦が裏目に出てしまったようだ。
「いや……これでいいのさ。今回はきっとこの少年たちが解決してくれるから」
ぼくと駿英を交互に見て海瞳さんが言う。ぼくたちにそんなことが出来るんだろうか……。
「やってやろうぜ。おれとお前なら絶対やれるよ!」
駿英がぼくの肩をバシッと叩きながら言った。目がキラキラしている、自信満々なようだ。ぼくも彼のように自信を持てたらいいんだけど……。
「じゃあ、当日は頼むよ」
海瞳さんがそう言って話を締めくくると、ぼくたちは『大富豪』に熱中した。最後はついに駿英が最下位を脱出したけど代わりに姉が負けて、ぼくに二週間の風呂掃除を命令してきた。
……とっばちりが過ぎる!
そのあとぼくたちは片づけをして、お祭りの装飾手伝いに来ていた、年配の実行委員の方たちに挨拶をしてそれぞれ帰路についた。




