七月十五日(土) 午後六時四十五分 ××××
――昨日部室で確認したことを思い出し、これからぼくたちが何をするべきなのか思考を巡らす。暗闇に目が慣れ現在の状況を整理する。どうやら神社一帯の電気が落ちたようだ。
それにしてもすごい煙の量だ。上の方からは二人の鈴の音が聞こえてくる。舞を見ていた時も思ったけど鈴の音は心を落ち着かせてくれる。海瞳さんが言った通り最初は観客たちの間で混乱が起きていけど、次第に『これも演出の一環かもしれない』といった声が出始め、みんながその場にとどまっている。ぼくと駿英は今すぐここから出て回りを調べたいんだけど大丈夫かな。
「ここは俺が見ている。不審な奴がいたらお前の姉を呼ぶから安心しろ。まだだれも舞から離れていないこの間に、境内を回ってこい」
ぼくの存在に気付いたのか、近づいてきた山本先輩にそう言われぼくは駿英を連れて、参道に出ることにした。そのあいだに煙はなくなっていく。これは目くらましのつもりだろうな。
「――ここまでは海瞳さんの予想通りになったな……なにか手掛かりはあるか?」
境内から拝殿までの道を二人で歩く。今は参拝客もおらず閑散としている。それどころか屋台を出店している人たちもみんな舞を見に行ったようで誰一人いない。駿英が言っていた通りだ。隣で辺りをキョロキョロと見回しながら歩いているけど、手掛かりになりそうなものは落ちてないみたいだ。
ぼくも何か変わったところがないかを注意深く観察する。至宝が盗まれたんだからもっと神社の中は荒れると思っていたけど、意外とそうでもないみたいだ。
唯一の出口である鳥居前に来てみたけど、ここまで特に変わっているところはない。階段を下りて、左右一人ずつ立っている役員の人に話を聞いてみたけど舞が始まってからここを通った人はいないようだ。
犯人はまだ神社のなかにいる、ということだ。もう一度参道を通っていると、観客は全員神楽舞台に夢中になっている。どうやら二人が即興で舞を踊り混乱を収めたようだ。咄嗟に機転を利かせたのは海瞳さんだろうが、それにすぐに合わせれる雪瓜も見事だ。……彼女らが頑張っている間に何とかして見つけ出さないと。
「おれ、あの中にはいないと思うぜ。だって盗んだ奴が舞をじっくり見ているのは考えにくいからな」
ぼくが舞の方を見ていたからだろうか。駿英がこう言ってきた。
「ぼくもそう思う。停電と煙幕を使ってまで境内に残るとは思えない。神社裏の山の中から逃げたとも考えられない。だって、こっちが警察に通報して山の中に警察を配備していたらすぐにバレちゃうしね。だから、きっと犯人は人がいないところに隠れているんじゃない……そうか!」
ぼくはひらめいた自分の考えがあっているかを確かめるためにあるところに急いだ。
「おい、つばき! どこに行くんだ!?」
駿英と話をしながら考えているとある可能性が思い浮かんだ。
拝殿から神楽舞台へ至宝を投げ入れるとき、誰も中に入れないように拝殿の扉は閉められる。拝殿に隠れていたと考えるのは難しい。となれば、人が密集していた神楽舞台の近くから神主に襲い掛かって至宝を奪い取ったと考えるのが妥当だ。
じゃあそのあと、犯人はどうする?
煙幕を焚いて明りを消して自分が優位に立った中で山の中に逃げ込んだり、人がいないところになんて隠れるだろうか?
手紙や目くらましまで用意した人物だ。慎重に行動するはずだ。そして、祭りの関係者以外が触ることがない場所が一か所だけある。
ぼくたちはできるだけ人に見つからないように拝殿や本殿をぐるりと大回りして向かう。
「おい……、ほんとにこんなところにいるのかよ?」
「間違いないよ。他の場所よりもリスクが高くいこんな場所、探さないと思ってるんじゃないかな?」
ふたりで少しずつ近づいていく。近づくにつれて緊張とバレちゃいけない気持ちから、声は震えて小さくなる。ここは神楽舞台の裏側。そして神楽舞台のほとんど真下。神楽舞台の真下は昨日の段階では骨組みだけで幕で覆われてなかった。そのときに見ることが出来たけどここは、神主や巫女が準備をするスペースがある。人が隠れるには十分な場所だ。
「つばき、昨日言われたとおりにいくぜ。『もし複数人いた場合は、逃げてもいい』。忘れんなよ」
「わかってるよ」
海瞳さんと雪瓜の考えだと、犯行に及ぶ人物は多くても二人だという。でもこれはあくまでも予想だ。相手がどんなものを持っているかわからない状況だから慎重に行くしかない。犯人が複数人いた場合の対処法も考えてあるらしいから、まずは目の前のことに集中だ。
「それじゃあ、中に入るよ。もし、犯人が出てくるとしても人が多い正面からは出ないはず。こっち側以外ありえない。だから駿英は少し後ろで待機しててくれ」
「……つばきはどうするんだよ?」
「ぼくがここを開ける。安心して、中には入らないから」
そう言ってぼくは幕のはしっこをそっと持ち上げる。中には祭りで使う提灯や飾りつけに使う小道具が乱雑に置かれている。そして――、
「駿英!」
「まかせろ!!」
「チッ! クソッタレが!!」
内側にいた何かに弾き飛ばされて、しりもちをついてしまった。飛び出してきたそいつは三十代くらいの男だった。身長の割には細長くひょろっとしている。目の下のクマが広く顔つきも病的だ。明らかに祭りの関係者じゃない。駿英がそいつの進路をふさぐように立つ。
「つばき! 気をつけろ!! なにか持ってるぞ!」
「わかってる!」
相手は至宝を持っているはず。ぼくはゆっくりと立ち上がり駿英とソイツを挟むように立った。
「……ヘヘッ。ビビらせやがって、ガキ二人しかいねーじゃねーか」
男は少し慌てた様子だったが他に誰も来ないことを確認すると急に気味の悪い笑みを浮かべた。そして持っていたセカンドバッグからナイフを取り出した。
――ぼくたちが子どもだからって油断してると痛い目見るぞ。
神楽の上の二人も異変を感じ取ったのか、ぼくたちの声が観客の方まで聞こえないよう、鈴だけじゃなく太鼓や笛などの音も聞こえてくる。
「オラッ! 気を付けねーと怪我するぜっ!!」
相手とにらみ合うこと数秒、先に相手が動いた。右手に持っているナイフを振りかぶってこっちに突進してくる。ぼくは相手の動きに合わせて一歩後ろに下がり、攻撃を避ける。
「ガキをなめんなよっ…なぁ!!」
同時に、駿英が転がっていたこぶし大の石を思いっきり蹴った。石は男めがけて飛んでいく。
「うっ!?」
よけることはできず背中に思いきり当たったようで、うめき声を上げながらうつ伏せに倒れた。男が持っていたセカンドバッグから二つの至宝が出てきた。




