七月十四日(金) 午後六時五十分 部室
「――やあ楓。キミも『大富豪』をやらない? さっきからそこのサッカー少年が負け続けててかわいそうに思えてきたんだ」
「そ、そんな言い方ないじゃないっスか!?」
「あっ、楓ちゃんだ」
「まー次も勝つのは無理だろうな」
「……ねえ、椿。このために私を呼んだの? 返答次第ではぶっ飛ばすわよ」
がやがやとしだす海瞳さんたちを横目に入ってきた姉にものすごくにらまれる。ぼくだってこんなことになるなんて思ってなかった。
明日が祭りなのに打つ手がないってなって、打開策として人脈が広い姉を呼んでみよう、と海瞳さんに言われ、そのあとやっぱり来なくてもいいんじゃないかと雪瓜が言い、じゃあみんなで『大富豪』でもするかと山本先輩が引き出しからトランプをだし駿英がぼこぼこにされている。『大富豪』は人狼ゲームを知らないボクでもやったことがある有名なゲームだ。直前のゲームで一位だった人が強いカードを再開の人からもらうから、一見順位変動が少ないように見えるんだけど……だれにでも一発逆転のチャンスがある楽しいトランプ遊びだ。やるのは良いけど、せっかくごはん前の上機嫌な姉をよんだのに、ぼくへのヘイトだけがたまっていくのが目に見える。……一週間お風呂掃除変わったら許してもらえるかな。
「はぁ、まあいいわ。これがおわったら一緒に帰るからね。お母さんのご飯が冷めちゃうのヤダもん」
そういってぼくの隣に座ってくる姉。山本先輩がトランプをシャッフルしてみんなに配っているときも、トランプが置かれている机の上から目を離さない。なんだろう、この妙なプレッシャーは。
「先輩。今度は負けないっスよ!」
「はっはー! 俺に勝てるとでも思っているのか! 」
山本先輩、さっきからずっと勝ってるからかわからないけど、なんかキャラが変だぞ。でもこの人にこんな特技があったなんて…。先輩たちに挟まれている雪瓜もすごい目で彼をにらんでいる。
「……どうにかして蹴落とさないと」
言葉が怖い。偶然の饗宴もこの試合でおしまい。最終戦の勝者となるためいざ勝負っ……!
と、部屋の盛り上がりが最高潮になったとき、小屋の扉がノックする音がした。一番席に近かった駿英が、ドアを開けると、そこには――誰もいなかった。
「いま、確かに誰かがノックした音が聞こえったスよね?」
駿英の問いかけにぼくら全員が頷いた。
「一度その扉を閉めて、こっちに戻ってくるといい」
海瞳さんがそう言うと、姉を除いた全員に緊張が走る。五分くらい待っていたけど、もう外から物音は聞こえてこなかった。
「すこし慎重になりすぎたか……。いま、この神社には二十人くらいが祭りの手伝いで来ている。そのなかでことを大きくすることは恐れたのかもな」
「じゃあ、わたしが見てくるよ。なにが起こってるかはわからないけど、いざってときは走ればいいし」
横に座っていた姉が立ち上がり、入り口の前まで歩いてく。
「キミがそういうならかまわないよ。でも十分注意するんだぞ」
「オッケー!」
慎重に扉を開けて周囲を確認している。どうやら周りに怪しい人物はいないみたいだ。姉の方をドキドキしながら見ていると、雪瓜から話しかけられる。
「ねぇ……、なんであなたのお姉さんはあんなに自信満々なの?」
あー、そういうことか。確かに、この状況でいきなり扉を開けに行ける姉の胆力はスゴイけど、それ以前に――。
「姉は陸上部で全国大会に出場したことがあるんだよ。長距離走の選手でね」
「楓のすごいところは、弱音を吐かないし、威張りもしないことだ。あそこまで上位の選手だったら、ひがまれることや、ねたまれることがあるかもしれないが、そんな素振りを一切見せたことがない。ワタシが尊敬する数少ない人物のうちの一人さ」
「まぁ……家では、というかぼくには威張ってきますけどね」
ぼくの言葉にみんな思わず吹き出している。緊張した雰囲気がほぐれていく。よかったよかった。
「ねぇー、これって最初からあったかな~!」
なんて談笑していたら、姉が戻ってきた。戻ってきた姉は手に何か持っている。黒い……封筒?
なんだか不吉だな。
姉はそれを机の上に置いて、海瞳さんの判断を仰ぐ。
海瞳さんはそれを手に取り、仕掛けがされていないか慎重に確認していた。やがて、その作業が終わって、海瞳さんが封筒を開けて、中から一枚の紙を取り出す。
「……読んでみるか。『これまでの演出。気に入っていただけたでしょうか? 私は【魑魅魍魎の主】です。山の中に罠を巡らせたのも、図書館で騒がれている人影もすべて私が行ったものです。さて、皆様はそろそろ私の存在に気付いた頃でしょう。明日行われる祭りでは、貴方たちの神社が所有している、二つの至宝【瑠璃の櫛】と【紅玉の簪】を盗ませていただきます。せいぜい盗まれないように策を張り巡らせてくださいね。楽しみにしています』……ふん、随分と上から目線で言ってくるじゃないか」
「じゃあさっき、扉をノックしたのってその【魑魅魍魎の主】って奴か!?」
山本先輩が海瞳さんに聞く。それにやれやれといった感じで雪瓜が返答した。
「たしかに、この手紙が本当なら、その可能性もでてくるでしょうけど……。わざわざ自分で持ってくるとは考えにくいわ」
「雪瓜の言う通りだ。自分のことを【魑魅魍魎の主】と称しているから、きっと何かしらのグループの親玉だろう。それが直々にここまで来るのは考えられないな」
二人とも、いきなり現れた手紙にも動じてないのは流石だ。山本先輩は二人の話を聞いて納得した様子だった。
(あの図書館にいたのは【魑魅魍魎の主】……。きっと、あのあと異臭がした扉の中に――。)
「まったく、楓が来てから、考え事が増えたじゃないか」
姉に向かって海瞳さんはそう言うけど、どこか楽しそうだ。対象的に姉は困惑している。それはそうだ。いきなり呼ばれて『大富豪』が始まるかと思えば、扉をノックされて、もってきた手紙の内容にみんな納得している。……うん、今回ばかりは姉が不憫だと思うな。
「お姉ちゃん、これについてどう考える?」
「わざわざ向こうから知らせてくれたんだ。徹底的におもてなしをしてやろう」
ニヤリと海瞳さんは口角をあげているけど、目は全く笑っていない。こっ、こわい……。
「……わたしも解決の糸口が見えてきたわ」
姉妹は自分に配られた手札をみながら会話をしている。どうやら、もうこの手紙に興味がないようだ。
「お姉ちゃん、このことはあたしたちだけの秘密にしましょ? あたしたち、子どもたちだけで解決して、大人たちをあっと言わせるのよ!!」




