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七月十四日(金) 午後六時半 リビング

 「――それで、そんなにテンションが高いんですね。てっきり彼氏でもできたんじゃないかなって思いました」


電話越しに聞こえる彼女の声はいつも通りだった。いろんなことを教えたけど、平然としている。なんとも思ってないのだろう。


「よけーなお世話よ。まったく、誰に似てそんな毒を吐くようになったのかなぁ。むかしはおねーさん、おねーさんって、そりゃあもうかわいかったのに」


「ん~、スーさんかな。授業中、いつも面白い話をしてくれるからそれが染みついたみたい」


「……そのひと、大丈夫なの?」


他愛もない会話を続けていると時間はあっという間に過ぎていった。あーあ、私が大人だったらいくらでも電話を続けられるんだけどなー。


「それじゃあ、今日はこれくらいにしとこうか。望峰(もね)、そっちも元気でね」


「えー、もうおしまいですかー? ……ほんと、お姉さんと話してると時間の進みが早いなー」


名残惜しそうな声が携帯電話越しに伝わってくる。ごめん……私に財力があれば!


「あっ、じゃあ最後に一ついいですか?」


少し早口で彼女は言う。迷惑をかけないように気をつけているみたいだ。口ではあれこれいってくるけど、実際は相手の心を思いやれる優しい子だ。


「いいよー。なんでも言いな」


私が言うと彼女はすぅっと息を吸ってこう言った。


「……負けるつもりはないですよ」


おっと、これは意外だった。てっきりまた遊びましょうとか、電話楽しみにしてますとか言われると思ってたらまさか……宣戦布告とは。


「私はね、これは、だれか一人の立場から一緒になってなにかするってことはできない。だからせめて、応援だけはさせて! 頑張って!」


「もちろんです。ずるをしているって思われるかもですし……楓さんも、いっしょに恋愛しましょ?」


「だから! 余計なお世話っ……てもう電話切っちゃたのね」


言いたいことだけ言って切っちゃったみたい。まったく…でも、そんなところが彼女のかわいらしい魅力ともいえる。たくさんの人と関わってきたけど、望峰みたいな子は珍しい。自信家だけど影ではものすごい努力をする、そんなタイプだ。


 先日、部活がない放課後に裏山で自主トレーニングをしていた。ここ最近は、物騒なことが多いけど、近くには友達がいる神社があるからなんとかなると思っていた。走り込みが終わって、神社に参拝してから帰ろうと鳥居をくぐったら、ばったり海瞳と遭遇した。あいかわらず私の男運はサイアクだと指をさされて言われた。ひどい話だ。それで、個人的にやりとりをしていた花梨ちゃんのことを聞かれた。最初はどうして? って思ったけど、先週の彼女を見たら理解できた。椿のことをお祭りにも誘えたみたいだしよかった。望峰と花梨ちゃん、どっちも素敵な女の子だ。あー、自分の弟が憎らしいわ。


自分の弟に嫉妬してしまう。だめだめ、ここは【シープ社】の最新作をチェックでもして気分転換しなきゃ。スマホをポチポチして、【シープ社】のホームページへアクセスする。『夢の中でも香る素敵な香水』がキャッチコピーのこの会社。ここの香水は容器のデザインがかわいらしいもの多くて好きだ。これを使ったら私もモテモテに……なんてね。


「ねー、ママァ? 私、香水が欲しいなぁ~」


「そうねぇ……じゃあテストの点数でつばきに勝ったら買ってあげるわよ」


「……けち」


テスト終わりにそんなこと言われてもどうしようもできないじゃん!

まぁ、普段から勉強してる弟には、一カ月あってもかなわないだろう。いいもん、夏休みになったら友達と買いに行くし……。


「それにしても、つばき今日も遅いわ。あの子がこんな時間まで外に出るなんて昔は考えられなかったのに…」


台所からママのぼやきが聞こえてくる。夕飯のいい匂いがただよい、もうおなかもペコペコだ。


「駿英が一緒だから大丈夫でしょ。あんまり遅かったら私がガツンと言うからママは安心して」


「じゃあ、お願いしちゃう!」


ママとパパはつばきとの接し方が少しぎこちない。まああんなことがあったから無理もないんだけどね……。

また、シープのホームページをスクロールしはじめると電話がかかってきた。弟からだった。


「もしもし~? 椿、ママが早く帰ってきてって言ってたよ。えっ、いま? もうそろそろ晩ごはんだけど……。それよりも今どこに…はぁ神社!? それに今から来いって……あんたねぇ。……この借りは高くつくわよ。わかった、なるべく早く行くから待ってて」


電話をきり深いため息をつく。こんど、アイツのお小遣いで香水買ってやろう。


「今の電話、つばきから? あの子なんて言ってたの」


ママが顔をひょこっとだす。ごめんママ、どうやら今このことは言えないみたい。


「ちょっと道に迷っちゃったんだって、私、あいつらのこと迎えに行くから少し出かけてくるね!」


母の返事を待たずに、家を飛び出す。せっかくお風呂にも入ったのに…なんで裏山にいるのよ!? しかもどうやら駿英以外にも人がたくさんいる様子だった。


(まったく……面白そうなことになってるわね!)


部活終わりのしんどい身体も気にならない。椿の冒険心は私が育ててやったんだから、そりゃあね、私だって気になるよ。そんな心を弾ませながら、神社へと急いだ。

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