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七月十四日(金) 午後六時二十分 もう一つの建物

「――つまり、俺を攻撃した人物はユウリじゃなくて他にいる…そういうことでいいんだな」


二人の話を聞き終えた山本先輩が口を開いた。その言葉には驚きや安堵の感情がみえる。


「その認識でいい。ただ、攻撃してきた人物に関しては全く心当たりがない。ただ図書館での騒動や噂を考えるとおそらく、この神社に対して敵意を持っている人物だと考える」


「……それで、犯人の目星はついているのか?」


「いや、これだけだ。今のところは全く」


「そうか……」


先輩は少しの間考え込むように黙り込んだあと、わかった、と呟いた。何がわかったんだろうか?

ぼくが不思議に思っていると、先輩は再び口を開く。


「お前らが嘘を言っているとは思えないし、きっとそうなんだろ。それに、俺も気になることはあるからな」


「気になること?」


「ああ、俺が怪我をする直前に、斜面の上の方から、誰かが見ていた気がするんだ」


「それってどんな奴ですか!?」


「そんときはもうだいぶ暗かったからなぁ……少しちいさなシルエットだったことくらいしかわからなかったな」


「それはいつの話だ?」


「うーん、そうだなあ……。十七時は過ぎていたと思うぞ。本当なら十六時半にはこの神社についている予定だったんだけどな。道に迷いまくって、町の方まで一回戻っていたみたいだし。」


山本先輩の言葉を聞いた海瞳さんは難しい顔をしながら何かを考え込んでいるようだった。ぼくはその表情を見て思わず息を飲む。なぜならそこには普段の先輩からは想像できないような冷たい眼差しがあったからだ。まるで氷のような冷徹さを秘めた目つきだった。


「お姉ちゃん、その時間って……」


「ああ。祭りの関係者は全員、社務所の中で明日あさっての準備をしていたから、まず違うだろうな」


そうか、この小屋に来るまでに見た法被を着たおじいさんやおばあさんはお手伝いの人だったんだ。


「雪瓜が昨日この山で見た人影もこんな特徴だったのかい?」


「うん。間違いないよ」


「そうか……」


「……ねえ、あたしからも質問があるんだけどいい? そっちのふたりに、なんだけど」


海瞳さんが手を顎につき考え込む。

今度は雪瓜がぼくたちに()いてきた。


「おっなんだ?」


「そっちの二人は、さ、あたしがやったこと、怒らないの? さっきも話を黙って聞いてるだけで何も言ってこなかったけど……」


雪瓜が今回のことを申し訳なさそうに話したときぼくは驚いた。あれだけのことをやってきたんだから、人の話を無視して殴りかかってくるくらいはしてくると思っていた。だけどそんなことはなかった。海瞳さんにうながされて会話を進めているときは少し人見知りなふつうの女の子って感じだった。


「ああ、オレたちは別に怒ってはいないぞ」


「どうしてよ! 普通なら怒って当然じゃない!」


「たしかに、度が過ぎることをやってたかもしれない。でも、なんか安心したんだ」


「……安心?」


雪瓜は意味がわからず首を傾げていた。


「学校だと誰ともかかわってるところを見たことがなかったけど今はこうして話してくれてるし。なんか、こう、嬉しいんだ」


「はぁ~~!?」


ぼくの言葉に彼女は大きな声で反応する。そのまま、


「……変なの」


そう言いながら、雪瓜は顔を背けてしまった。頬が少し赤くなっているように見える。照れ隠しなんだろう。その様子を横で見ている海瞳さんは嬉しそうに笑った。


「おれたちは何とも思ってねーよ。だから、もう二度とあんなことすんな」


「……わかったわ」


「お、じゃあ俺もこれで安心ってことで」


このままこの小屋に来ていたら、劇薬を飲まされるところだったこともあり山本先輩もほっとしている。


「今まであたしがしてきたことは間違いだったと思うわ。でも必要以上にお姉ちゃんに近づいたら――わかってるよね?」


あれ、最後の方だけ目つきが変わったぞ。山本先輩は必死に弁明してるけど、雪瓜は聞く耳を持っていない。少し騒がしいけど、ここにいる人たちの仲が縮まったような感じがしてなんだか落ち着く。本来ならここで一件落着なのだが……。


「――それで、これからどうする?」


海瞳さんがこちらを向いて口を開いた。その言葉を聞いてみんな押し黙ってしまった。誰も答えられないようだ。


「お姉ちゃん。はっきり言うけど、まだ、何もわかってないの。今日明日で何か変わるとは思えないんだけど」


雪瓜が言う。だけど妹の言葉を聞いても彼女の表情は硬いままだ。


「ワタシの力を使うとね、何が起こるかわかるんだよ。――明日は、祭りの安全が脅かされることが起こる」


海瞳さんは重い口を開いてそう言った。


「それってどういうことだ?」


「言った通りの意味だよ。でも、具体的にどんな被害が出るのかは、わからない。ここにいる全員の未来を覗こうとしたが、誰のを見ても途中で真っ黒になるんだ」


「なるほどな。それは確かに不気味だ。でもお前だって占いを外すことはあるだろ? 最近色々と動いてたから、疲れがでてるんだよ」


「あの…色々ってなんですか?」


ぼくは思わず聞いてしまった。先輩が続けて答えてくれる。


「こいつら姉妹は祭りがおこなわれる二日間、夕方の六時から夜の八時まで神楽を舞うことになってるんだ。それで、俺と一緒に変なことやってる以外は真面目に舞の練習をしてたんだよ」


なるほどな。じゃあ図書室から雪瓜がいなくなったのもなんとなくわかる。

……多分だけど、窓から出たんだろうな。あのとき聞いた物音は、ぼくが図書室に来て、見つからないように雪瓜が窓から出ていったときのものだ。あの時間はまだそんなに人がいないから人目にもつかない。その証拠にぼくが図書室にはいったとき、カーテンを風が揺らしていた。そして祭りの準備や姉の手伝いで疲れていた雪瓜はどこかで休んでいて遅刻した。うん、きっとこんな感じだろうな。


「……さっき小屋の外で話してたときも気になったんだが、ツバキってここの祭りに来たことないのか?」


「実はそうなんです……」


「つばきとは小学校のとき、予定があわなくって行けなかったんだよな」


「それもあるけど、父さんから、この裏山は神隠しが起こる、って言われてて行かせてくれなかったんだ。今年はさすがに行けると思うけど……」


「神隠し……か、本当にあるかもしれないな。あと、占いの精度についてだが、明日が満月なんだ。つまり、今のワタシの占いはかなり当たるぞ」


「ほんと……どうしよう?」

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