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七月十四日(金) 午後六時 小屋の外

小屋から出て、外の空気を吸う。酸素が体の中をめぐり頭をすっきりさせてくれる。体の中に溜まっていた、さっきまでの緊張感が抜けていく。神社の中はぼくたちが来たときより賑やかだ。おじいさんやおばあさんがこんな時間に神社に多いけど……なにかあるのかな?


「あの二人……とっても似てたな」


小屋の壁にもたれかかりながら駿英がつぶやく。駿英の言う通り、髪の長さや瞳の色は違えど、顔の作りはそっくりだった。山本先輩がびっくりしたと言っていたのにも納得できる。普段、同じ教室にいても関わりがなかったからじっくりと見る機会なんてなかったけど、二人そろったときは顔を交互に見ていた。


「最初会ったときはもう……海瞳に脅され教室でアイツのことを待ってたら、顔は同じなのに態度は全然違うユウリが現れて、二人してしゃべってきて……。なにが起こっているのかわからなくなりそうだったよ」


うんうんと頷きながら山本先輩が言う。怪我はもう大丈夫なのだろうか。


「海瞳に手当をしてもらっているときに傷口を見たが、出血はだいぶ収まってた。まぁ、痛いことに変わりはないんだがな」


そう言って彼は右腕を上げてみせた。表情は少しゆがんだけど、包帯で固定されているし軽い運動ならできそうだった。


「なあ、ふたりはあいつと何を話したんだ。怪文のこととか、聞けたか?」


ぼくと駿英は、山本先輩に先ほどあったことを話した。


「――なるほどね。ユウリに好かれていないとは思ったけどそんなこともしていたのか。あとツバキ、鈍感すぎ。ここまでされたら、俺でもさすがに気付くぞ……」


最後の方は独り言のようにぶつぶつ言っていたのでよく聞こえなかった。


「じゃあ、こんどは質問に俺が答えよう。まだまだ聞きたいこともあるんじゃないか? 時間つぶしには悪くないだろ」


たしかに、まだ小屋の中では話し合いがはじまったばかりだ。ぼくは聞きたいことを考える。


「つばきが思いつかないんだったら……じゃあ、オレから。海瞳先輩とはどうやって知りあったんスか?」


「うわぁ、それ聞くかぁ~。思い出しただけで胃が痛くなった。いいか、あんまり思い出したくないから一回しか言わないぞ。……あいつと知り合ったのは五月の終わり。放課後、部室に行こうとした俺の向かいから歩いてきたあいつに腕をつかまれ、そのまま人気のない女子トイレまで連れていかれたんだ。そのときに脅されて……。『言うことを聞かなかったら女子トイレに入ったヘンタイとして噂を広める』ってな。そっから、あいつのやることをしぶしぶ手伝い始めたんだ」


「えぇ……」


「お疲れ様です……」


「ありがとう……」


海瞳さんと初めて出会ったときの彼の心情が思い浮かぶ。ぼくなら泣いて逃げ出していたかもしれない。まさか一カ月以上も海瞳さんのやっていることに付き合ってるなんて、思いもしなかった。


「次、ぼくいいですか。ぼくと初めて公園で会ったとき、あれも海瞳さんが力を使っていたんですか?」


「ああ、そうだよ。あいつが指定した場所に行っただけだ。もし怪文に対して興味を持ってなさそうだったら、あの紙を渡して来いってな。実際、俺はあいつが言うことをこなしていただけだから、何が起こっているのかはあまり把握していない。いま、ようやく全体像を理解したよ。だから正直、あいつと出会う前の俺なんて、ほとんど使い物にならない。勉強がちょっとできて、顔もちょっといいだけのフツウの受験生だよ」


言葉の言い回しや、表現がところどころ海瞳さんと似てる、って本人には言わない方がいいんだろうな……。


「でも、海瞳さんの力って、話した限りだと、その人のことを詳しく知らないとできなさそうなんだけど。つばき会ったことあったっけ?」


たしかにそうだ。でも、あれだけ特徴がある人を忘れるだろうか。必死に思い出してみる。


「あっ! そうだ、図書室にいたんだ!」


怪文を見つけた日の朝、図書室にいたのはまちがいなく海瞳さんだった。そのことに気付いた瞬間、真弓さんが雪瓜を探しに来たことや窓が開いていた理由がわかった。


きっと、姉のために、図書室のカギを真弓さんから雪瓜が借りてそのままだったんだろう。

気になった真弓さんは図書室まで来たけど、彼女の姿はなかった。どうしてかはわからないけどね。

それで真弓さんは図書室にいたぼくに雪瓜のことを聞いてきたんだろう。

海瞳さん自身が図書室を開けなかったのは、カギを借りられなかったからだろう。あの人は図書室の本をそのまま持って行ってしまう人だ。そんな人に図書室のカギなんて任せられるわけがない。だから妹に頼んだんだろうな。


「図書室でも会ってるし、依頼人からも写真くらい見せてもらってるだろう」


「あーなるほど。それでわかったのか」


「……えっ?」


「もうそろそろ、依頼人が誰かわかってもいいと思うんだけどな」


「全く同感ッス。少しあいつが気の毒になってきましたよ……」


ぼくは二人から冷たい視線を向けられている。なんで…?

依頼人はぼくに関係があるみたいだけど…誰なんだ?

これまでの会話を頭の中で整理する。


(弁当の中に砂糖を入れてそれをふるまって、祭りに行く約束も取り付けた……。さらに、写真まで持っているとすると仲がいい人? あれ、もしかしてそれって……。)


「ところで、先輩は明日ここで行われる祭りって誰かと来るんですか?」


考え込んでるぼくを挟んで二人は会話を始める。……祭り、明日あるんだ。おもむろにカバンからスマートフォンを取り出し、メッセージアプリをひらく。そこには花梨から『明日は楽しみだね!』とメッセージが来ていた。裏山にいつ行くかをお互いどうしようと悩んでいたら、彼女からテストが終わった週末にしよう、と言われてそのまま何も考えずいいよ、と返信したけど、まさか…まさか……。


「友達たちと約束はしてるけど……あいつから何か言われたらそっちに着いて行こうと思ってるよ。そういうお前は?」


「おれは部活の友人たちと来ます。……どうやらつばきも何かわかったみたいだし。ふたりのジャマはしたくないッス」


「なるほどな。俺の友達はみーんな、今年から増える巫女さんの踊りを楽しみにしてるんだけど、俺はもうあいつらの性格を知ってるからな……。屋台の食い物を楽しみにしてるよ」


「あー思い出した。なんか、友達も言ってたな。『お前のクラスで今年、神楽を舞うやつがいるんだ』って。それがあいつだったなんて。でも、いくら神主の娘でもセンパイにけがをさせたんだから、傷害事件とかにならないんですかね?」


「そのことなんだけどな……」


駿英の質問に少し言いよどむ先輩。顔をあげ、先輩をみると複雑そうな顔をしていた。


「俺は、あの子がここまでするとは思えないんだよな……。力づくで物事を解決するような少女じゃないと思っていたんだが」


「じゃあ、いったい誰がやったと――」


瞬間、図書館の地下でみた人影を思い出した。


(でも、図書館の地下がどうなってるかは少なくとも月曜日までわからないし、確かめようがない。)


「まあ、二人の話しあいがおわるのをまとう。まだまだ、謎は残っているようだしな」


「――全くその通りだ。さて、キミたちにも小屋の中に入ってもらおうかな」


「海瞳さん!」


「姉妹喧嘩は終わったのか?」


にやりと山本先輩が聞く。いつも不憫な扱いをうけているからここぞとばかりで仕返しをしている。


「あぁ、終わったとも。妹にはこれからキミに対して罰があったみたいだけどね」


「なっ!?」


おっと、海瞳さんの反撃だ。驚いた顔でこれを言い返せない。山本先輩、あっという間に撃沈。


「安心したまえ。罰は捨てたからもうないよ。誰かに怪我を負わされた人間に攻撃するほど、ワタシの妹は鬼畜ではなかったよ」


彼女の言葉にぼくたちは驚いた。


「つまりそれって……」


「ああそうだ。犯人は別にいるということだ。雪瓜も待ってるから、後は小屋で話そう」


そう言って、海瞳さんは小屋へと戻っていく。それに続いてぼくたちも小屋の中へと入り二人と向き合う形で三人掛けのソファに腰かけた。

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