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酔いたいあたしは今日を穿つ

「――さぁて、と。そろそろお姉ちゃんたちにもバレちゃったかな?」


暗い部屋の中で少女の声だけが響く。椅子に座っている少女はじっと天井を見つめている。その瞳には狂気が滲み出ており、口元は薄っすらと歪んでいた。少女は手にしていた一枚の写真を懐から取り出す。そこに写っているのは、澄んだ青空とひまわり畑を背に、麦わら帽子をかぶり、白いワンピースを着た二人の少女だった。少女はそれをやさしい目でじっと見つめる。大切なものを壊さないかのように、ゆっくりとした動作で机に置いた。

ずっと二人の世界が続くと思っていた。二人でなんだってできると思っていた。それなのに――。数日前に現れた男が頭の中に浮かぶ。


(なんであたしたちの邪魔をするのかなぁ? 姉妹の中を引き裂くなんて……許さないっ! 絶対させない!)


ドンっと大きな音を立てて壁に短剣を突き立てる。すると壁には大きく亀裂が入り、破片が飛び散る。そして少女の目つきはさらに鋭くなり、次の瞬間、顔からは表情が消え去る。まるで仮面を被ったかのように。少女にとって、一番大切なことは姉と一緒にいることだ。その時間を奪うモノはたとえ姉が選んだ人でも許せない。だから絶対に排除する。たとえどんな手を使ってでも……。



 幼いころ全部に絶望した。いま思い返せば、『そんなこと』で片付けられるものだったが、小さいときの自身の世界はとても狭い。周りの人間は自分の敵だと認識してしまえばもうそれだけで十分だった。


あたしたちは神主の娘ということもあり、昔から祭りの日が近づくと親の手伝いで忙しかった。いっぱい動いたら周りの大人たちがほめてくれるから多少の無理もした。でもあるとき荷物を両手いっぱいに抱え、足元すら見えない状況で足を滑らせて、山の斜面を滑り落ち腕を十針近く縫う大けがをしてしまい、皆の手を煩わせてしまった。もちろん無理をした自分が悪いんだけど責める母、足手まといだという父、手伝いに来た人たちにも冷たい目で見られたことは当時のあたしにとっては苦痛で仕方なかった。今までやさしく接してくれた人たちに侮蔑されたときの孤独感……みんな敵にしか見えなかった。

そんなとき、ずっとそばいてくれたのはお姉ちゃんだった。手伝いがないときは私の部屋に来て絵本の読み聞かせやおままごとに付き合ってくれた。それがほんとうにうれしかった。あたしのことを見てくれる人がそばにいるという安心感は何物にも代えられなかった。お姉ちゃんは遊びの最中に言ってくれた。


「おとうさんもおかあさんも、みんな、おまつりでいそがしいだけだから。おまつりがおわれば、また、ゆーりのことをたいせつにおもうから」


と。きっとそうだとその言葉を信じ、当日も境内にある社務所の中でお祭りが早く終わることを願っていた。でも、日常は帰ってこなかった。祭りの最終日、母は祭りの最中に忽然と姿を消した。それだけでなく、父の性格や態度も変わってしまった。今までは少し厳しいところもあったけど、やさしかった父。お酒の量が増え、朝になっても起きず、食事は外で済ませてくると言って家に帰らない日もあった。たまに夜中に帰ってくるとお酒を飲んでいた。そして決まって、酔っぱらうと私に向かって暴言を吐いた。そのあとは決まって父の暴力が始まった。最初こそ痛くて泣いていたが、次第に泣くのは無駄なことだと思うようになった。泣けば泣くほど殴られ続けたからだ。どんなにつらくても、お姉ちゃんに迷惑をかけたくない。でも、お姉ちゃんはあたしを守るために何度も父に立ち向かっていった。そのたびにケガをして血を流していた。そのあときまって、お姉ちゃんは大丈夫だから、と言うのだ。


そのときのお姉ちゃんの顔を見て胸が張り裂けそうになった。なんでお姉ちゃんばかりがこんな目に遭わなければならないのか、私が何をしたというのだろうか?

どうして神様は私たちを助けてくれないのだろう?

お姉ちゃんにこれ以上負担をかけたくなくて、二人で父から離れようと提案したこともあった。だけどお姉ちゃんは首を縦にはふらなかった。二つ年上の彼女は、生きていくことの難しさを理解していたのだろう。あとになってからそのことに気付き、あたしを一番に考えてくれていることが分かった。だからこそ、余計につらかった。


母がいなくなってから、一年、二年と経つうちに父の機嫌が悪くなることは少なくなっていった。これはお姉ちゃんやお手伝いの人たちの説得があったのも一因だろう。小学校で上級生になる頃にはあたしたちに対して過去の暴力を謝りすごく優しくなった。笑顔も見せるようになった。きっと周りから見れば仲のいい親子だろう。父もお姉ちゃんも昔の話をするときは気まずそうにしているが表情は穏やかだ。

でもあたしは父親がいまでも苦手、周りの大人がも嫌いだ。


それは昔から変わらない。そして、この先も変わることはないだろう。でもお姉ちゃんだけは違う。つらいときもずっと守ってきたお姉ちゃんはあたしにとっての光だ。彼女だけは特別だ。だから、これからも二人で仲良く暮らしていくはずだった。ずっとずっと――。


 そのとき、キィィ――と、扉が開き西日が部屋に差し込んだ。ここに来たのは午後四時くらいだったはず。どうやら、かなり長い時間物思いにふけっていたようだ。立ち上がり、そこにいる人物にどのような仕打ちをするか考えながら、開いた扉の方へ向く。しかし扉の先、そこには――思いもしない人物が立っていた。山本翔。彼には、今日ここに来るように仕掛けを施していた。そんな彼の姿はあるのだが、それ以外にもクラスメイトかな、見覚えのある男子が二人。そして彼らの先頭に立ち、あたしと向かい合っているのは――まったく目が笑っていないお姉ちゃんだった。

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