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七月十四日(金) 午後五時十分 部室

 小屋のドアを開けられて中に入るように促される。中に入ると、柑橘系の甘い香りが漂ってきた。六畳ほどの空間の真ん中には机が横向きに並べられ、二脚ずつ向かい合って座れるように学校とおなじ木製の椅子がある。それとは別に、窓際には勉強机が設置され、その上にはいろんな書類やタロットカードが乱雑に置かれていて、棚には古い本や占いに関する本がびっしりと詰め込まれている。どうやら外から見ただけでは気づかなかったけど、かなり奥行きがあるらしい。駿英と一緒に彼女に勧められるまま椅子に座った。


「ようこそ、ワタシの部室(へや)へ。いま、おもてなしの準備をするから、椅子に座って待っていたまえ」


そう言うと彼女は奥にある小さなキッチンへと向かい、コンロでお湯を沸かし始める。どうやら電気、ガス、水道は通っているようだ。


「この建物っていったい……? 玄関に占い研究会って書いてあったけど」


隣に座っている駿英に聞いてみる。彼は机の上に置かれているノートに興味津々のようで、中を見て、へぇーこの人も、ほー先生まで、とか言っている。どんな内容が書かれているんだろう?


「おれ、聞いたことがある。部室が学校外にある部活のこと。ひょっとしてここがそうなのか」


ノートから顔をあげてしゃべったかと思えば、またペラペラとページをめくり夢中になっている。すると彼女がカップをふたつ持ってこちらにやってきた。


「ああ、その通り。ここはごく限られた人しかたどり着くことが出来ない秘密の部屋。謎をここまで解いたキミたちには特別にもてなすことを決めていたのさ。――それとそのノートの内容は他言無用だ」


「わかってますよ……。これをだれかに言いふらすほどバカじゃないっすよ」


「なら安心した。さすが、花梨クンの友人なだけあるな」


どうして、この人が花梨の名前を知っているんだろうって、一瞬思ったけど、彼女のことだ。きっとどこかで会って親しくなったんだろうな。

女の人は両手に持っていたティーカップをぼくたちの前に置いてくれた。カップから立ち上ってくる香りはとても心地よいもので、思わず鼻腔が広がり深く息をする。玄関を開けた際に飛んできた香りはこのハーブティーの材料のようだ。彼女はぼくたちにハーブティの入ったカップを渡すとそのまま対面の席へとついた。


一礼してからハーブティを口に運ぶ。少しだけ舌の上に置いてから喉へ通すと爽やかな苦味のあとにすっきりとした甘さが広がった。こんなおいしい飲み物ははじめてだ。


駿英を見ると、彼には熱かったのか、ちびちびと少しずつ飲もうとしていた。猪突猛進なんだけど意外なところでギャップがあるっていうか……そうこうしているうちに彼女から切り出してきた。


「さて、なにから聞きたいかな」


夜の図書館のことから聞こうと思ったのだが、ややこしくなりそうなので順を追って説明をしてもらうことにした。


「ふむ、そうだな。それじゃあワタシの部活から説明するかな」


そう言って彼女はぼくたちの向かい側の席に座った。


「ここには勉強や運動、恋愛など様々な悩みを抱えている学生がやってくる。なぜだかわかるかい?

そんな悩みを解決するきっかけをつかむために占われたいのだよ。わけあってワタシはかなり当たる占いが出来る。これは元からあった力じゃなくて後天的なものでね。亡霊の設定よりは信じてもらえるかな? 特に、タロットカードを使った占いはよく当たるんだ。それで占い研究会を発足させた。……ワタシの占いは満月に近いときほど精度が高くなる。だからこれはいったいどうしてなのかと研究するためのワタシだけの部活だ。まあ今はそれよりも悩み相談の方が楽しいからそっちばかりやっているが」


ぼくにとって亡霊も占いも同じくらいうさんくさいものなんですけど……、彼女はお構いなしに話を続ける。


「七月に入ったころ、ある少女がここに来たんだ。さっきも言ったが特別に招待したキミたち以外は中学校に所属している者でもここを知っている人物はかなり限られている。それは、この部活は半ば非公認だからなんだけどな。申請をしてもなかなか通してくれない学校連中にちょっかいをかけるために職員会議に乗り込み、強引に可決させたんだ。だから一応カタチとしては存在しているが、引き換えに他の部員の勧誘を禁止されてね。ワタシのためだけの部活ができたのさ」


……えっ?

この人もしかしてやばい人なの?

教師相手に無理を通した?

なんのために?

いや、それ以前にどうやって……。様々な疑問が浮かんでは消える。しかし、とりあえず最後まで聞くのが先決だと判断し黙ってうなずく。

それにしてもこの人、やっぱりただの変な人なんかじゃなくてとんでもなく変な人だ。彼女は話を続ける。


「珍しい客人である彼女の、好きな人と結ばれたいという真摯な願いを聞いてかなえてあげようと思ってね。好きな人にお弁当を作って、この白い粉を入れるんだって言ってあげたのさ」


そう言うと懐から小さな袋を取り出した。ファスナーがついている透明なその袋の中にはたしかに話で出てきた白い粉が入っている。

白い粉……ってまさか――背筋に寒気が走る。もし、それが事実ならこの人が犯した罪を暴くことがとても容易になってしまう。もしそうだとするなら……この人はとんでもない悪人だ!

ぼくが心配そうな顔をしてると駿英が声をあげた。


「その粉って、危ないもんじゃねー……ですよね?」


先輩だから敬語を使おうとしているけど変な日本語になってるぞ。

でも、ちょっと気持ちはわかる。変なことは言ってるし髪は乱れているけど、均整の取れた顔立ちにドキッとしてしまう。


「ああ、安心したまえ。これはただの調味料だ。人間、思い込みの力で意外となんとかなるんだ。でもあんなにうまくいくとは思ってなかったよ。なにせ、調味料が混ざったふつうのお弁当を食べて三人ともぐっすり眠っていたんだからね」


そんなことあるんだ……。もしかしてそれで眠ったのって、ただおなかいっぱいになっただけなんじゃないかな。そんな能天気な人たちがいるんだ……なんて思いつつぼくはハーブティーを口に運ぶ。


「ちなみにその飲み物の中にも少し入れてるよ」


ぶっ、と口の中のモノを吹き出す。

そして激しくせき込んだ。そんなぼくの様子を見て彼女は手をたたき腹を抱えて大爆笑している。

ポケットの中に入っていたティッシュで飛び散った飛沫を吹き、部屋のごみ箱に入れる。まあそれは置いておいて。ぼくは彼女に尋ねた。


「――で、いったいこの粉の正体はいったい何なんですか?」


「砂糖さ」


あっけらかんと言う。


「はぁ。それで、その女子の願いはかなったんですか?」


「いーや、まだまだ時間がかかりそうだね。あの文章が解かれたとはいえ、相手の男子は全くカノジョの恋心に気付かないでいるときた。しかも、ワタシの占いによるとその子が想い人と結ばれるには時間もかかるし、困難も降りかかるとのことだ。まあ、明日から二日間ここで開かれる祭りに二人で来るみたいだし、気長に待つさ」


「えっそうなんですか?! それは叶うといいですね!」


ボクがそういうと、彼女の笑顔が珍しく一瞬ひきつったような気がした。途中からノートを見るのに夢中になっていた駿英は、ノートを閉じてぼくたち二人を交互に見てしばらくしてから、あーあ、と小声でぼやいた。

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