九十一.余計なことはいわない
かくして劉備は袁紹の心をなだめることに成功した。
そしてそのまま軍議の座に加わり、敗戦挽回の策を講じ始めた。
しばらく軍議が進むと、諸将の間から一名が前へと進みでた。
顔良の弟である『文醜』である。
額に怒りのマーク、上下の歯が砕けんばかりに噛み合わさり、握った拳は血が出んばかりに絞められていた。
彼は激オコであった、プンプンであった、カム着火インフェルノォォォォオオウ!であった。
「弟の仇は俺が取る!!」
そう彼は叫び、先陣を望み出たのである。
―――これはまさしく死亡フラグである。結果が丸わかりの死亡フラグである。
しかし、この望みを聞いて袁紹は感動し、
「よし!君に決めた!!」
と、彼を激励して、兵十万を与えて黄河へと向かわせた。
そしてまたこの時、劉備も敵の関羽が『本物の関羽か否か』を確かめるべく、同伴して戦場へと向かったのであった。
場面は変わって曹操陣営でござんすよ。
黄河の対岸まで兵を進めていた曹操の下に『文醜が黄河を渡って延津までやって来た』との一報が入った。
報を聞いて彼は慌てない。
まずは民の安全の確保である。
行政官をその地に先に派遣して、百姓たちを安全な地へと移させた。
「―――では、次に我らがするべき行動だが・・・全ての輜重隊を先へ進ませる。戦闘部隊はその後だ」
※輜重=前線に輸送、補給するべき兵糧、被服、武器、弾薬などの軍需品の総称のこと。
実に変な行軍である。
(戦闘部隊ではない輜重隊を先頭にすると、真っ先に敵にやられてしまうのでは?)
皆がそう思ったが、ともかく大将の曹操を信じて彼の命令通りに輜重隊を先頭に軍を進ませた。
するとどうなったか?
皆が想像した通り、輜重隊はあっという間に敵に蹴散らされてしまった。
「案ずるに及ばん」
曹操は騒ぐ味方を静め、冷静に次なる指示を下す。
「兵糧は捨て置き、一隊は北へ向かい、黄河に沿って敵の背後に回れ。―――また、もう一隊は南へ向かい、丘の上へと駆け登るのだ」
今度は軍の散開であった。
兵を一ヶ所に集めて置くのではなく、バラしてしまい、軍を広げる形をとったのである。
当然、兵圧は薄くなる。
「この機を逃すな!!」
と、文醜率いる大軍は曹操軍に攻め入った。
暴れる暴れる暴れる君。
わー!っと兵糧も武器も捨てて悠々と丘の上へと逃げて行った曹操の部下たちも、さすがに大将の指揮に疑念を抱いた。
「このままじゃ、ここも危ないぞ・・・」
逃げ腰になりかける将兵たち。
すると、軍師の荀攸が物陰から、
「これで良いのだ!案ずるなかれ!!」
と、あたりの者へと怒鳴った。
が、
これがいけなかった。
荀攸の瞳の端に曹操の姿が映った瞬間、彼は即座に片手で口を押え、さらなる物陰へと身を移してしまった。
曹操が味方を鼓舞する荀攸を、白眼(=横目で冷たくにらむような目つき)で見ていたのであった。




