九十.上には上がいるモノである
顔良亡き後、張遼、許褚がさんざんに働き、数日の敗戦の鬱憤を晴らすかのように河北軍を撃退した。
関羽は西方の山へと戻って来ていた。
「貴公は鬼神であるな」
曹操は舌を巻き、ただ関羽を褒めることしかできなかった。
しかし、関羽は言う。
「いえいえ、拙者の働きは言うに及びませぬ。拙者の義弟の張飛であれば、もっと早く顔良を仕留めたでしょう」
彼の言に嘘は見えなかった。
人を計る術を持つ曹操も、この時ばかりは肝を冷やした。
「皆もそういう超人的な猛者にあったら、ゆめゆめ軽々しく戦うな」
彼は冗談半分、左右の者たちに言うしかないのであった。
場面が変わります。変わるんです。
『顔良討たれる』の報は袁紹に動揺を与えていた。
「一体何者が顔良を討ったか?」ざわざわ・・・
彼は袁紹軍でも一、二を争う武の持ち主であった。
そんな彼が一太刀で討たれた。
その衝撃は計り知れない。
そして、袁紹からの問いに、報を知らせに来たパシリは答える。
「顔良様を討った者は『関羽』と名乗っていたとのことであります!」
聞いて袁紹は眼を見開き、その驚きを顔で示した。
「なにっ!? 関羽とな? それは間違いであろう?」
「いえ、確かに関羽と名乗ったとのことです!顔に立派な髭も蓄えていたとも!」
「むむむ・・・劉備を呼べ!!」
彼の怒りの言葉に諸士たちは争って劉備の部屋へ押し入り、彼を拉致するかの如く、袁紹の面前へと連れて来た。
「この恩知らず!曹操と内応して我が将の一角を討たせるとは恥を知れ!!」
罵倒一閃。
頭から罵り、「首を斬る!」と脅しさえ与えた。
しかし、劉備は動じない。内心では驚いていたが、その驚きを相手には見せなかった。
「お待ち下され。それは真に関羽雲長でしょうか?」
「しらばっくれる気か?」
「しらばくれますとも。―――では、証拠はおありですか?」
「兵たち皆が『関羽』の名乗りを聞いたとある!!」
「それはその者がわざと『関羽』と名乗ったのではないのでしょうか?」
「むっ!?」
「曹操はかねてより、この『劉備玄徳』を殺そうと企んでおります。なんでその曹操を助け、自分の不利を袁紹殿に示さねばなりませんでしょうか?」
「むむむ!?」
「また、その者は赤面髭面筋肉達磨の武者だったそうですが、関羽に似た大将が世間にいないとも限りません。わざとそういう者を探し出し、味方(=袁紹軍)を混乱させようとしたのかも知れません。―――いずれにせよ、私はこう言いたい。『私は無罪だ』と」
このご時世、今とは違い、スマホでパシャッ!と撮影し、ツ〇ッターで、
『顔良さん、関羽にあっさり斬られたwwwww マジで笑えるwwwww』
などと世間の皆様に報告出来ない。
『目撃者の報告のみ』
これだけでは、ちと劉備に罪を問うには軽すぎる。
袁紹も劉備の言い分を聞いて「う~む」と頷き、
「貴公の言葉も一理ある。わしが早計であった」
と、彼の心はなだめられてしまったのであった。




