【5話目】家庭の事情と海斗の話、そして珠里が戻ってきた
俺は海斗への宣言通り、日曜日だけ、ファミレスでバイトを始めた。
同じバイトの先輩、大学生の咲良さんと仲良くなった。
いわゆる指導係なんだけどさ、親切に教えてくれるから、懐いてみたんだ。
「咲良さんと結婚したら佐倉咲良になるから、俺が婿にはいるね!」
「はいはい、いいからそれ、運んで」
いいアイデアなのに、咲良さんからはまったく相手にされなかった。
バイト先で会う以外、LINEも教えてくれないし、ちょっとつついたりしてみても、全然反応してくれねーんだ。
「高校生、ちゃんと仕事して」
「えー、咲良ぁ、つきあおうよ、つきあって」
「無理」
甘えるようにお願いしてみても無反応で冷たいんだ。
何考えてるかまったくわかんね。
「俺さ、学校でモテるんだよ、そんなモテ男とつきあえたら嬉しいよね?」
「そんなモテるなら、学校の女の子とつきあえばいいじゃないの」
「てか、咲良って彼氏いるの?」
「いないけど」
「じゃあさ、とりあえずでいいから、つきあって! 今日早速、送ってく!」
めちゃくちゃ強引だったけど、なんとか送ってく約束をして、バイト終わりに一緒に帰ることになったんだけどさ。
「咲良って、一人暮らし?」
歩きながら聞いたら、ううん違う、二人暮らしって言われた。
咲良の気持ち、全然わかんない。
まあ、つきあってないからな。
結局、二人暮らしの「同居人の男」がちょうど帰って来てバッタリ。
「あれ、咲良? え、お友達?」
その男から言われたんだけど、そこはな「え、彼氏?」とか言ってよ。
やっぱ男に見えなかったとか?
「あ、ごめん、バイトの後輩なんだけど、ついてきちゃって」
早く帰りなさいって、咲良に追い返された。
その後、咲良から
「まだつきあってないけど、好きなの」
とその同居人って男のことが好きだと言われた。
あーあ、つきあう前に、失恋しちゃった。
「海斗、俺バイトクビなった」
最近いつも、俺んちに入り浸ってる海斗。
部屋は余ってるからいいんだけどさ、家賃少し払ってくんね―かな?
「なんで、クビ?」
「仕事サボってばっかだから?」
ついでに、咲良さんからフラれた話もしておいた。
「やっぱ年上はだめだな、子ども扱いされるし、なにより名前が良くない」
さくらさくら、さくら散りゆく。
次、探そう。
「こんな、かわいいのに、陸をふるなんて、見る目のない女の子だな」
よしよし、と海斗が頭を撫でてくる。
「てめーまた女の子扱いしたな!」
そんなことするなら、帰れよ!
「海斗も彼女つくれば?」
「え、俺はいいよ、まだいらないかな、陸より可愛い子がいれば、考えてもいいかな」
そか、イケメンの無駄遣いだな。
もったいねーな。
でも、ここにいてくれると海斗って便利。
料理作ってくれるし、掃除もやってくれるから、俺の万年床も片付くし、リビングもそう、きれい。
うち、2LDKあるんだけど、一部屋を海斗に貸してるわけで、そこもちゃんときれいにしてある。
「な、陸、俺いい嫁になれそうだろ?」
とか、アホな妄想語ってくるのは相変わらずキモい。
「おまえ、男なんだから、早く思い出せ!」
あとさ、変な寝言うるせんだけど?
「え、俺なんか言ってんの?」
「うん、陸を縛りたいとかゆってた」
そしたら海斗、ハッとして口を手で押さえてんの。
いま押さえたってだめだろ、寝言なんだからさ。
「それってさ、変なプレイ? それとも精神的束縛願望?」
どっちにしても、ヤバいことには、間違いないけど、ほんとに海斗、大丈夫なのか?
このまま、一緒にいてもいいんだろうかと、ときどき不安はよぎる。
俺のせいで、海斗の人生を狂わせてしまったんじゃないかなって。
あのとき、女装なんかして会わなきゃ良かったんじゃないかなって。
だからさ、責任とってつきあうは無理だけど、遊んでやるくらいはできるから、こうしているんだけど、ほんとにこれ、合ってる?
「ところで海斗、うちに帰らなくていいの?」
親、心配するんじゃね?
「いいんだ、ちゃんと許可取ってる。陸だってひとりでさみしいだろうからって」
「んー、そりゃひとりよりかさみしくないけどさ」
「俺、聞いてなかったけど、陸ってなんでひとりで住んでんの? 親とかなにしてる?」
あー、気になるよな、そうだよな、高校生だもんな。
「父親が再婚したんだ、それで新しい母親って人となんか合わなくて。で、姉ちゃんとここ借りて住んでた」
「お姉さん、いまどこいんの?」
「嫁に行った、海外いる」
「そんな年離れてんだ?」
「うん、8歳かな? いまも姉ちゃんが、ここの家賃払ってくれてる、てゆーか、仕送りとか、してもらってて」
「そうなんだ、すげーな姉ちゃん。親は?」
「知らね、何してんだろ?」
そう言ったら、なんか暗い雰囲気になった。
家庭が複雑だからか?
海斗んち、仲良さそうだったもんな?
いや、こうゆうの慣れてるし。
珠里だって弘人んちに家出してるようなもんだし、親が放任なのって、そんな珍しくないけどな。
「親はいなくても子は育つらしい」
明るく俺は言ったんだけど、まだ海斗が暗いまま。
言わなきゃ良かった?
話を変えよう。
「海斗は? 兄弟とかいるの?」
「あーうん、妹がひとりいる」
「え! 妹? かわいい? 紹介して」
「いや、妹はな、拓みたいな男っぽい男がタイプなんだよな」
「えー拓って、あの乱暴なやな奴?」
野獣っぽかったよ、こわいよ?
「あのときはごめんな、拓もどうかしてたんだよな、いつもはそんな奴じゃないんだけど」
ほんとごめん、と海斗が謝ってる。
「まあ、海斗と親友ってくらいだもんな、そんな嫌な奴を海斗が選ぶのもおかしいな」
話がズレてしまって、海斗の妹紹介してって、もう言えなくなっちゃったな。
残念。
「あのさ、陸」
またも海斗が暗い神妙な顔つきして、俺のこと見てくる。
なんだ? 今度は何を言う?
「彼女とかって、探すもんなのか? 出会うんじゃないかなって思うんだけど」
あ、手当たり次第にやろうとしてんのバレた?
と、そのとき、玄関が開いて、誰か入ってきた
鍵、かけてたよな?
って思ってたら
「陸、ただいまー」
珠里が帰ってきた!
荷物持ってるぞ、あ、弘人と別れた?




