【4話目】いきなりそんなことするなんて、女の子だったらヤバかったぞ
あまりに不気味だったから、逃げて帰ってきた。
男が男を好き、性的欲求を感じるってさ、ないとは言い切れないのは知ってるんだけど、俺にはそういう欲求はない。
だってさ、かわいいものをかわいいって思う気持ちはわかっても、かっこいいな、たくましい男らしいって思って「男が男を」好きになるってのはわからない。
憧れる気持ちと、恋愛感情は別だろ?
抱きたいとか抱かれたいとか意味わかんね。
「あーくそ、海斗にキスされちゃった」
ファーストキスじゃなかったのが、せめてもの救いか。
気持ち悪いんだって、わかんねーのかな?
そういう性癖のひとを否定してんじゃないんだけど、俺には無理ってば。
全女性が恋愛対象にならないのと、同じだよ。
好きだと言われたからって、好きになれるとは限らないんだ。
それから2週間くらいたったとき、布団でごろごろ転がって暇してたんだけど、ふと玄関のチャイムが鳴ったから、めんどくさかったけど出てみたんだ。
知らない男女が立ってた。
「あ、急にすみません、佐倉陸さん?」
男の方が俺を見て聞いた。
「だれ?」
先に名乗りやがれってんだ。
「海斗の友人で、拓って言います」
「わたしは和泉です、珠里とバイトが一緒の」
「あーども」
なんとなく名前は聞いてたけど、顔見るのは初めましてだ。
こいつらが海斗を珠里に紹介したやつら。
「なんの用っすか?」
「ああ、海斗のことで」
「それ、もう終わったことなんで」
言ってからドアを閉めようとした。
「いや、ちょっと待って」
けれど拓が、ドアのすきまに足をいれてきた。
「話あるんだよ、こっちはさ」
ぐいーって力づくでドアを開けられ、ドアノブに手をかけたままだった俺は、バランスを崩し、拓に倒れかかってしまった。
「おっ…っと」
抱きとめられる格好になり、ちらっと視界のすみに、和泉のムッとしたような顔が見えた。
俺のせいじゃない、無理やりドアを開けた拓が悪い。
拓から離れたが、拓が俺のこと、まじまじと全身見まわすんだ。
「なんだよ、何じろじろ見てんだよ」
「あーごめん」
拓は謝ったけど、まだじろじろ見てる。
俺は視線を外して、うつむいた。
「いや、ほんとに男の子なのかなーと思ってさ」
「は?」
何言ってんのこいつ、と顔をあげて見た。
「いまさ、抱きしめちゃって感じたんだけど、体、華奢だよね?」
「わ、悪かったな」
海斗も大きいけど、この拓って男はもっとでかい。
しかも海斗と違って、なんか野獣っぽい風貌だ。
こんなやつから見れば、俺なんか。
そこにいる和泉って女よりたぶん俺のほうが背が低いし、軽いかもって思う。
「あ、おまえさ、本当は女の子なんじゃねーの?」
責められるならまだしも、からかわれてんのか?
こんな風に言われる筋合いないだろ。
俺って海斗にそんなひどいことしたわけ?
「ちょっと拓、やめなよ」
和泉が拓を止めた。
「いいじゃん、もともと珠里ちゃんにだってバカにされたようなもんだろ、海斗。ぎっくり腰なんて嘘つかれて、しかも男なんかよこして。女装でだまして海斗は遊ばれたんだ」
拓は俺の両手をつかみ、玄関横の壁に押し付けてくる。
「痛ってーな、乱暴すんなよ」
「おまえのせいで海斗はな、食いもんもろくに食えねーし、精神的にまいってんだよ。自分のしたことわかってんのか!」
「は、離せよっ!」
すごまれたって、どうしろってゆーんだ。
だましてたことは謝ったし、それに反省もした。
海斗を受け入れられなくって断ったことで海斗がダメージ受けてんのは心配だって思う。思うけど責められたってどうすればいい?
「拓、やめて! 目的が違うよ、そんなこと今いうことじゃないじゃん」
自分の彼氏が、目の前でほかのやつを絞めあげてんの見るの、嫌だよな。
和泉の気持ちもわかるけど、拓の怒りも、なんとなくわかる。
でもな、だからと言っておとなしくされるがままってのも、なんか違う。
「和泉は黙ってろ!」
拓は和泉に一喝すると、
「ちょ…なにす…」
拓がトレーナーの裾から手を突っ込んできた!
「なんだ、やっぱ男だったか」
「やだー拓ったら、やめてあげなよ」
ふたりして笑ってんの。なんだよバカにされてんの? いじめ?
「でも、顔だけ見るなら、普通にやれそうだな」
「は、何言ってんだ、離せってば」
そのとき、玄関の入り口のほうで音がした。
見ると、海斗が立ってる。
「拓っ! 陸から離れろ!」
海斗が拓のことを怒鳴りつけるみたいに言って、こっちに来る。
マンガだったらさ、頭から体中からメラメラ炎が上がってる図、みたいな感じでさ、めちゃ怒ってた。
その瞬間、拓の体が引きはがされたって思ったら、鈍い音とともに拓が床に倒れた。
海斗が手を固く握りしめ、拓を見下ろしてる。
「ご、ごめん悪かった海斗」
「うるせー何やってんだおまえ! 信じらんねー!!」
今度は足で蹴りつけてる。
「もういい、やめて海斗くん」
和泉が拓をかばうように、海斗との間に割り込む。
俺もハッとして海斗に言った。
「海斗、俺、大丈夫だから、男かどうかって確認されただけで何もねーし、変なことされたわけじゃないからさ」
「は? 陸にいまにもキスしそうなくらい、顔近づけてたじゃん!」
「そ、それはさ」
言い訳しようと拓が口を開いたんだけど
「もういい、和泉。拓つれて帰って」
海斗は俺から目をそらさずふたりに言った。
「珠里ちゃんから連絡もらって、あいつらがここにきてるって」
嫌な予感して、来てみたんだって。
「まあ、ここじゃあれだから、中はいれば?」
海斗を部屋にいれた。
「焦ってきちゃったけど、俺さ陸にもうフラれてんだよな、忘れてた」
言われて初めて、あ、そうだった忘れてたと気づく。
「まあ、無事だったならよかった、じゃ帰るね」
「あ、待って海斗」
とっさに引きとめたけど、どうすんだよ。
「あ、あのさ、今度焼き肉でも食い行こうよ」
ものには順番ってあるよな。
まずは、仲直りしようとか、友達からやり直そうとか、言うんじゃね?
なのに、焼き肉だなんて、食うことしか考えてないみたい。
「それって、友達でいようってことだよな?」
怪訝な目で海斗が見てる。
「あ、だめ?」
「いや、だめってわけでもないかな」
離れてた間、海斗はいろいろ考えてたんだって。
そもそも、海斗は俺のこと、女の子だと思ってたから恋愛感情を持ったけど、男だとわかってからは、それが恋愛感情なのかわからなくなった。
でも、そばにいたいとか一緒にいたいとか、思ったんだって。
「俺さ、まだ高校一年生じゃん? いまはまだ子どもっぽいし女みたいかもしれないけど、今後どうすんだよ、成長しておっさん化するかもだろ? そんとききっと後悔するって思うけどな」
恋愛じゃないって、気づく日が来るんじゃん?
顔だって、身長だって、たぶん骨格とかだって、変わると思う。
もともとお互い、女の子が恋愛対象だったわけだし、一時的な気の迷いって思うんだけどな。
そんなこんなで、海斗とも和解して、俺たち親友になった。
たぶん、なったはずなんだけど、まだときどき海斗が俺のことを見つめる視線が、やっぱり好きな女の子を見つめるときの「あれ」なんだよ。
「顔が問題なら、俺、丸坊主にしたらいいんじゃね?」
って海斗に言ったら
「いや、それはやめてくれ、いいじゃん見るくらい目の保養っていうか、かわいいものは愛でたいと思うもんだろ」
減るもんじゃねーし、見せてくれって言われちゃう。
「今度さ、女子の制服を着てみて欲しいんだ。女の子とデート気分が味わいたい」
って海斗が言うんだけど、それなら本物の女の子とデートしたい願望があるってことだろうがよ。
でも、面白そうなので、珠里から制服を借りて、やってみた。
放課後の制服デートしてる気分になんだろ?
でもなんか、海斗ばっか楽しんでずるいって思った。
楽しいかなって思ったけど、全然楽しくない。
俺も女の子と歩きたい。
「俺、彼女つくる」
唐突に俺は海斗に宣言して、バイトすることにした。
バイト先で彼女見つけよう作戦。
学校じゃモテないからな。




