【20話目】海斗を迎えに行ったのに、逃げた~好きと大切ってどう違う?
お盆の時期が終わってから、翠が
「珠里のこと迎え行ってくる」
って出かけてった。
珠里は親から無理やり、夏期講習の合宿ってやつに参加させられてたらしい。
それがそろそろ終わった頃だって言ってた。
翠が今後は珠里の勉強を見るって言ってて、それを珠里の親に伝えるんだってさ。
「もしダメって言われたらどーすんの?」
翠に聞いたら
「ダメって言わせないように説得するんだよ」
って言ってた。
なんかかっこいいな。
翠だったら、難しい理屈とか並べて、相手に有無を言わさないってイメージあるもんな。
俺は海斗の親から、逆に怒られたし言い訳もまともにさせてもらえなかった。
そして宣言してた通り、翠は珠里と一緒に帰ってきたんだ。
「陸、久しぶり~さみしかった?」
珠里が駆け寄ってきて、俺にぎゅーって抱きついてきた。
「わわ、珠里、ちょっと…」
翠が見てるのに!
「あれ、陸、背が伸びた?」
ちょっと離れて珠里がまじまじと見てくる。
「珠里、小さくなった!!」
目線が違う、確かに変わった。
「やったじゃん陸、きっと160センチ以上になってるよ」
「あーやっとか」
でもまだ、男にしては小さいけどな。
珠里は自分の荷物を部屋に片付けてから、またリビングに出てきた。
「あれ、海斗は?」
リビングに敷いてるラグをぺらっとめくって、探すふりしてる。
そんなとこにいるか!
ってつっこみ待ちかなって思ったけど、そんな気分じゃない。
「まだ実家に行ったきりなんだ」
「そうなんだ、実家ってうざいよね、わたしもめっちゃ迷惑した、大変だったんだからー」
でも翠のおかげで脱出できた、って言いながら翠に抱きついてる。
珠里って人との距離感近いよな。
珠里みたいに、もっと体中で好きを表現できたらいいのに。
「ん? 好き?」
いま、海斗の顔が浮かんでしまった。
あれ、なんで?
海斗に会えなくってさみしい。
海斗のご飯が食べられなくなって、悲しい。
海斗は、大切な人って思う。
大切と好きは、違うよな??
いや、好きは好きなんだよ、いいやつだし友達だし、俺のことも大事にしてくれるし、話を聞いてくれて勉強も教えてくれるだろ、それから……。
「俺も海斗のこと、迎え行ってみよっかな」
翠も珠里も部屋に引きこもったんで、ここには誰もいないんだけど、ひとりごとつぶやいた。
「でもさ、珠里の親と違って、海斗の親に俺って嫌われてしまったよな?」
少なくとも好印象じゃなくなってる気がする。
そんなやつが、いきなり行ってもな。
説得なんかも、良くわかんないしな。
翠だったらなんていうか、考えてみた。
「自分で考えろ、そして、行きたいなら行けよ」
まあこんなとこかな。
いっか、当たって砕けろだ。
「翠、珠里、ちょっと海斗んち行ってくる」
ドア越しに声をかけてから、返事待たずに出てきちゃった。
海斗の家の玄関で、ピンポン鳴らした。
親が出てくるって覚悟してたら、海斗が出てきた。
「あ、久しぶり海斗」
嬉しかったのになんか照れくさくて、そっけない感じで言っちゃった。
「陸、おまえ…」
海斗びっくりしてる。
「ご飯作る権、海斗ちゃんと守らなきゃダメじゃん」
海斗がいないと不便なんだよって言ってやった。
「そうだったな、ちゃんと作るよ」
海斗はふっと笑ってからそういった。
なんていうか、こう劇的な再会を想像してたんだけど、わりと普通だ。
遊ぼうって家にきて、ああいいよって答えてるみたいな?
「いまさ、親も美海も出かけてていないんだ」
「あーそっか、だから海斗が出てきたんだ」
ナイスタイミングだったな。
ん? ナイスなのか?
「一緒に帰ろ、海斗。俺さ、迎えきたんだ」
待ってたらいつになるかわからなかったしって伝えた。
「宿題めちゃ残してるから、手伝ってくれ」
うちの高校、宿題提出しなくても、そんなに怒られることはない。
だって、ほぼみんな提出しない。
でも、それを理由にしたっていいじゃん、このさい。
荷物だって、置きっぱなし。
特に持っていくものもないし、そのままでいいじゃん。
「ねえ、帰ろうよ海斗」
「あ、でもいま親いなくて」
「……うん、じゃあどうすればいい?」
帰ってくるまで、動けねーってこと?
「えっとさ、親父には昨日話したんだ。で、キャンプのときのことはもう、誤解は解けてるし、問題はそこじゃなくて」
「別の問題があるってこと? それって俺のこと?」
「実は美海が、美海も陸のとこに行きたがっててさ、俺だけ行くのはずるいっていうんだ、親も美海が行くのは反対してて…それで…」
海斗自身はいますぐでも戻れるけどって言ってる。
でも美海のこと考えたらちょっと気持ちが踏みとどまるって。
外暑くてさ、歩いてきたから、汗かいてて。
玄関先で、部屋の中からは涼しい風こそ、少し吹いてくるって言うか流れてくるんだけど、やっぱり暑くてぼーっとしてきた。
なんかさ、考えるのめんどくさくなってきた。
もっと喜んでくれるかって思ってたのに、海斗は親のほうが大事で、美海のほうが大事で、俺なんかその次。
「もういいや、海斗。俺帰る、バイバイ」
「え、陸? ちょっと」
海斗がなんか言ってるけどもう知らねーって思って、振り返らずそのまま走って、逃げたみたいになっちゃった。
少し走ってから振り返ったけど、追いかけてきてくれて…ないか。
暑いから途中にあったコンビニに入って、アイス買った。
炎天下だし「ICEBOX」なら溶けても飲めるなって思って。
食べながら歩いて帰った。
玄関開けたら、誰もいないけどエアコンはついてた。
翠も珠里もまだ部屋にいるのかな?
ドア開けたら怒られるかな?
取り込み中だったらヤバいし。
自分の部屋は暑いしって思って、そのままリビングの床に寝転んだ。
「あー涼しい、快適快適」
眠くもなかったけど、そのままぎゅっと目をつぶって無理やり寝た。




