【19話目】海斗視点~人の心ってそんなに単純じゃない
【海斗視点】
親からの誤解は一応解けたらしい。
ただ、だからと言ってすぐ、陸のところへ戻っていいかっていうと、まだ許可が下りないんだよな。
なぜかって聞いても、親父はだめだとしか言わない。
自分らが連れて帰ってきた手前、そう簡単に引けないんだろう。
わからないけど、そう思ってた。
陸とはLINEもするし、翠からも陸の様子は聞いてる。
「別にこっちに戻れないからって、陸と会えないってことじゃないよ」
翠はそういうし、会いたいなら会えばいいのにと。
もちろん会いたい気持ちはあるし、会おうと思えば会える距離なんだからそうするに決まってるだろ。
それをあえてやらないのにも、俺自身の中の「なにかわからないけどなにか」があって、踏み出せない。
「なんなんだろ?」
翠に聞いても、あいつは答えてくれないってわかってんだ。
「なんだろうね?」
ほらな、自分で答え出せって考えなんだ、あいつは。
「前にさ、翠が俺に好きだって言ってきたよな?」
「言ったね」
「で、いまは珠里ちゃんとつきあってて、珠里ちゃんが好きなんだろ?」
「そうだね」
「それって、もう俺のこと好きじゃないってこと?」
「何言ってるかわからないな」
「え、好きか嫌いかじゃねーの?」
「海斗わかってないね、人間の心ってそんな単純じゃない」
「え、俺いつも単純だなって言われるけどな」
そう言ったら翠が、じゃああのとき、キャンプ場で寝たふりしてた理由と、いま陸に会わない理由をひとことで言えるのかって聞かれたんだけど、そう聞かれたら確かに、
「そか。そうだな、そんな単純じゃなかったかも」
言葉にできねーんだってば。
だから悩んでる。
「動けないのが理由じゃん、それが今の海斗の本音」
翠は、海斗が動けないならそれでしょうがない、俺が陸と仲良くしといてやるから、安心してそこにいて、と言われた。
安心、できるのか?
陸、ちゃんと食ってるかな?
あいつ自炊へたくそだもんな。
チャーハンにウインナ―いれてって頼んだら、ウインナーを手でちぎってたもんな。
「包丁こわいんだよ」
そう言ってたから、キッチンバサミを買ってやった。
「これ、工作みたいで面白いな」
いろんな食材をハサミで切ってたっけ。
懐かしい、なんかもうすごく昔のことみたいだ。
まだほんの数週間だろ?
数週間離れてるだけなのに、もう二度と会えないような焦燥感。
焦ってるのに、動けないのって、ほんとになんで?
親の許可待ち?
そっか、それはあるかもしれなかった。
珠里みたいに、親に反抗して家出するとか、翠みたいに親の言うことスルーして自由勝手にするとか、そんなの無理だって思ってる。
そう、美海からも以前、言われたことがあった。
「お兄ちゃんがいい子だから、わたしがいい子にできない」
それ聞いたとき、どういう意味かすぐにわからなかった。
美海だって、いい子にすればいいじゃんか。
そしたら
「いい子にしてたら、ほっとかれる」
ふたり同時に同じようには、親から褒められないんだって。
あれ、そしたら今、俺がここ飛び出してやれば、美海がいい子になる?
いや、美海はいい子なんだよ、もともとはたぶん。
親に認められたいとかほめられたいとかって、俺らがまだ「子どもだから」。
「あ」
翠がどこか大人っぽく見えるのって、そういう親からの承認なんかいらねーって感じだからかな。
「自由には責任感が必要でさ」
って言ってたっけ。
そっか、少しだけどわかったような気がした。
俺、親のこと説得する。
陸のところに戻りたいんだ、ってんじゃなくって「戻るから」って言えばいいのかもしれない。
ただ、そういうからには、責任が伴うってことじゃね?
たぶん、そうなんだと思った。
で、責任ってなんだ?
具体的にどうすればいい?
陸のそばにいること?
そしたら、陸の恋愛の邪魔にならないか?
女の子が好きだって言って、俺が不機嫌になって、そうやって無言の圧力を陸にかけてたことはなかったか?
ああ、なおさらわからなくなってきた。
どうすればいいんだろ?
考えてもわからないので、当たって砕けろだ。
今夜にでも、親父と話をしてみようと思った。




