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頭上にあるモニターに映し出されたスコアボードは、まさに凄惨の一言だった。
結衣が綺麗なフォームで9本倒したかと思えば、続く俺がカッコつけて無駄なスピンをかけガターを出してスペアを逃す。逆に、結衣がミスってガターを出した時に限って、俺も力んでボールを溝に叩き込んで華麗にダブルガターをキメる。
「紙一重……か……」
噛み合わないことこの上ない最悪のコンビネーションの結果、俺たちの1ゲーム目の最終スコアは『65』という、小学生のキッズボウラー未満の数字を叩き出していた。
(結衣が『ガターしてるだけじゃない!』とは言ってるような気がしなくもないけどペアの連帯責任だからオレだけが悪いわけじゃないはずだ)
画面の中で踊るピンのアニメーションすら、俺たちを嘲笑っているように見える。
特に俺以外の男子3人のスコアも、各々の女子に完全にメンタルを破壊されたせいで、もはやお陀仏としか言いようがない惨状だった。ボックス席は、まるでお通夜のような重苦しい空気に包まれている。
このままでは、モテるどころか全員の自己肯定感がマイナスに振り切れて死んでしまう。
「あ、あのさ……」
俺は震える声で、なんとか空気を変えるべく提案した。
「気分転換に……ペアチェンジ、しよっか?」
「大賛成だッッ!!!」
隣の席で体育座りをして完全に沈黙していた篠山が、弾かれたように立ち上がり、血走った目で激しく同意した。委員長(栞)の「さしすせそ」のサンドバッグにされていた彼にとって、これは命に関わる死活問題だったのだ。
女子たちも特に異論はないらしく、俺たちは逃げるようにあみだくじを引き直し、新たなペアを結成した。
【新ペア①:俺 & 白雪凛】
俺の新しいペアは、俺の絶対的ヒロインにして『氷の女王』、白雪凛だった。
先ほど氷室が彼女のド正論マジレスによって完全論破され、幼児退行して泣き崩れるのを見たばかりだ。俺はライダースやココアシガレットの無駄なアピールを諦め、いつもの音楽室にいる時のように、気ままに振る舞うことにした。
「……ボウリング、初めてって言ってたよな。大会近いんだよな……重い球投げて、指、痛めてないか?」
俺が周りに聞こえないトーンで尋ねると、白雪は少し驚いたように目を丸くし、自分の指先を見つめた。
「……ええ。少し重いけど、平気よ。結城くんこそ、あんな風にガターばかり連発して、指の感覚は無事なわけ?」
「うっ……あれは、その、ワイルドさの演出というか……。てか、俺のこと見ててくれたの?」
「ふふっ。だって面白かったんだもの」
白雪は少し照れたように視線を逸らしながら、小さく吹き出した。
「音楽室で熱心に指導してくれた時の結城くんとは、別人だったし……」
そこからは、自然と俺たちの「共通言語」であるピアノの話題になった。
「あれから、課題曲の『悲愴』第二楽章のペダルの踏み方、変えてみたの。結城くんのアドバイス通りに浅く踏むようにしたら、すごく音が澄んで……」
「おっ、マジか! あそこのフレーズ、指の独立が難しいからついペダルに頼りたくなるんだよな。でも手首を柔らかく使えば絶対にいけるから。……時間ないんだろ? 今度また音楽室で一緒に弾こうぜ。俺でよければ、いくらでも教えるし」
「本当? ……ふふ、嬉しいわ。結城くんのスパルタ指導、期待してるわね」
氷室や真須を相手にしていた時の『氷の女王』の仮面はそこにはなく、音楽の話に目を輝かせる年相応の少女の柔らかな表情があった。
「よし、俺の番だな。挽回しないと」
俺がボールを抱えて立ち上がると、後ろから白雪の透き通った声が聞こえた。
「結城くん、もっとリラックスしなさいよ! ピアノの時みたいに、肩の力を抜いて」
「……おう! 任せとけ!」
自然体でリラックスした状態のまま、俺はレーンに立ち、ボールを構えた。
無駄なスピンやエアタバコは必要ない。ピアノの鍵盤を叩く時のように、ただ正確に、リラックスして重力を利用するだけだ。
力みなく放たれたボールはレーン中央を真っ直ぐに転がり――10本のピンを完璧に弾き飛ばした。
パーンッ!! という快音と共に、モニターに『STRIKE』の文字が躍る。
「や、やった……!」
振り返ると、白雪が目を輝かせ、パッと花が咲いたような満面の笑みを見せていた。
「すごいっ! さっきのガターが嘘みたいね! 綺麗なフォームだったわ……!」
「へへっ、白雪さんのアドバイスのおかげだな! よし、次は白雪さんも続いて! 大丈夫、その調子で肩の力抜いていこうぜ!」
「え、ええ……!」
俺と交代してレーンに立った白雪は、少し緊張した面持ちでボールを構え、ゆっくりと助走をつけてボールを転がした。
重い球に持っていかれそうになりながらも、素直な軌道を描いたボールは、ポケットと呼ばれるストライクゾーンへ吸い込まれるようにヒットした。
パーンッ!!
なんと、まさかの連続ストライク。モニターに再び『STRIKE』の文字が輝く。
「えっ……う、嘘! 倒れた……!」
白雪が信じられないといった様子で目を見開く。
「すげえ!! やったな白雪!!」
「結城くん……っ! やった……!」
俺たちは自然な流れでお互いに歩み寄り、パチンッ! と勢いよくハイタッチを交わした。
(か、可愛すぎる……!! なんだこれ、俺たちベストコンビじゃねぇか!)
【新ペア②:篠山 & 結衣】
俺が氷の女王と奇跡の連続ストライクを決め、最高のラブコメフラグを立てていた頃。ふと隣のレーンに目をやると、そこには目を疑うような異様な光景が広がっていた。
「ちょっとカメラ男。喉渇いた。ドリンクバーでメロンソーダとジンジャーエール混ぜて持ってきなさいよ。割合は2:8ね、1ミリでも狂ったら許さないから。あと、私が投げる前に私のボール、ピカピカに拭いといて」
「はいっ、ただいまお持ちします! ボールも塵一つ残さず磨き上げておきますので!」
ボウリング場に不似合いなガチガチのテーラードジャケットを着込み、プロ意識と大人の余裕を気取っていたはずの篠山が、俺の幼馴染である結衣の『完全なる奴隷』と化して走り回っていたのだ。
数分後、額に汗を浮かべた篠山が、うやうやしくグラスを両手で差し出した。
結衣はソファーにふんぞり返ったままそれを受け取り、ストローで一口吸い上げる。
その瞬間、結衣の柳眉がピクリと吊り上がった。
「……ねえ。これ、メロンソーダの割合が少し多いわ。2.5:7.5くらいになってる。あんた耳ついてないの? それとも首から下げてるそのデカいカメラと同じで、脳みそもただの飾りなわけ?」
氷点下の声色と共に放たれた、容赦のないツンとゴミを見るような視線。
(うわぁ……いくらなんでも言い過ぎだろ)
俺は思わず青ざめた。篠山はああ見えてプライドの塊だ。いくら合コンとはいえ、あそこまでコケにされ、理不尽にズタズタにされたら、さすがのあいつもブチギレて帰るんじゃないか――。
ハラハラしながら見守っていると、篠山は突如、床にガクンッと膝をつき、深く頭を垂れた。
「も、申し訳ございません……! 俺の計量が甘かったばかりに、お耳汚しならぬお口汚しを……っ!」
(お、おいおい! 土下座スレスレだぞ!? 篠山、お前怒って……)
俺が止めに入ろうと身を乗り出した瞬間、床に這いつくばる篠山の横顔が見えた。
(――い、いや。ちょっと待て。あいつ……)
篠山の肩は小刻みに震えていた。だが、それは怒りからではない。
頬を紅潮させ、鼻息を荒くし、その口元はだらしなく緩みきって……最高に嬉しそうにニヤケてやがったのだ。
「どうかこの無能なカメラ男に、もっと厳しい罰を……! 罵倒をください姫ぇッ!!」
「は? 気持ち悪っ。ちょっと近寄らないで」
(このドMクソロリコンがァァァッ……!!)
よく考えたら、篠山は日曜朝の女児アニメのアクスタをカバンに忍ばせるほどの重度なロリコンである。
小柄で童顔な結衣の外見。それでいて、自分を虫ケラのように扱う圧倒的な女王様気質。結衣の存在そのものが、篠山の奥底に眠っていた歪んだ性癖(ドM×ロリコン)にジャストミートしてしまったらしい。
「ほら、私の番でしょ。ボール」
「ハッ! こちらに!」
結衣が立ち上がると、篠山はひざまずいたままピカピカに磨かれたボールを献上した。
結衣はそれを片手で掴み、スタスタとレーンに立つと、無駄のない美しいフォームでボールを放つ。ボールは完璧な軌道を描き、10本のピンを綺麗に弾き飛ばした。
パーンッ!!
「っしゃ! ストライク!」
結衣が小さくガッツポーズをした背後で、篠山が床に両手をついたまま、天を仰いで感涙を流していた。
「おおおおぉぉぉっ!! 姫のストライク!! なんと神々しく、なんと美しい……!! この奇跡の瞬間、俺の網膜という名のレンズに永遠に焼き付けましたぞォォォ!!」
「……ほんっとうるさい。静かにしなさいよカメラ男」
「ありがとうございますッッ!!」
(意外といい感じに収まりやがって……! 結衣もなんだかんだ満更でもない顔してる……のか? いや、あれは1人で楽しんでる時の顔か……まぁいいや)
絶対に交わるはずのなかった二人の間に、主従関係という名の奇妙な絆が生まれていた。
【新ペア③:真須 & 栞】
そして、先ほどその篠山を「存在が不快です」と葬り去った『委員長』栞の隣には、筋肉サバイバル男の真須が座っていた。
真須は先ほどの葵の『寄生虫論破』のダメージで完全にトラウマを植え付けられており、最初は借りてきた猫のようにテンションが低かった。
栞も栞で、先ほど篠山相手にマニュアルの暴走を引き起こしてしまったため、膝の上で拳を握りしめ、ガチガチに緊張して硬直している。
「あ、あのさ、藤堂さん……。俺の筋肉って、カメラなんかよりずっと実用的で頼りになると思わないか……?」
真須が恐る恐る、様子を伺うように大胸筋をピクッと動かした。
栞はハッと顔を上げた。
(き、来ました、趣味と特技のアピール! ここは絶対にマニュアルの『さしすせそ(肯定編)』で相手を立てなければ……!)
栞は深呼吸し、勢いよく言い放った。
「さ、さすがです!!」
「おっ!? わかる!? だよな!」
栞の予想以上の食いつきに、真須は一気に調子を取り戻した。
寄生虫の恐怖を忘れ、真須は強気に出るべく、先ほど栞とペアだった篠山をダシにすることにした。
「いやぁ、藤堂さんも篠山相手じゃ大変だったろ?」
「……し、あれ?さ?『最低ですね』」
「だよな! あいつ、カメラぶら下げてるだけで全然ワイルドじゃねぇし!」
真須の言葉に、栞の脳内でカチッとスイッチが切り替わった。
(あれ?私何処まで言いましたっけ?篠山さんの時で結構色々使いまわしたから……多分『さ』が終わったとこでしたね?)
「し、『死んだ方がマシです』!」
「おおっ、言うねぇ! ほんと、ロリコンのくせに盗撮が趣味でひょろひょろでさ!」
「す、『救いようがありません』!」
「まったくだ! あんなもやし、俺の筋肉を見習えって話だよな! ははは!」
「せ、『性格も終わってますね』!」
「だろ!? 服装もボウリング場にジャケパンとか意味わかんねぇし、気取っててムカつくんだよ!」
「そ、『存在が不快です』!!」
栞の脳内には、未だに【ネガティブな『さしすせそ』】がロックオンされたままだった。彼女はただひたすらに、マニュアルの「さ行」を機械的にリピートしているだけであるのだが、奇跡的に真須の篠山に対する発言が被ってしまい、いい感じのやり取りになってしまったのだった。
しかし、真須は栞が『自分の篠山ディスりに100%共感してくれている』と完全に勘違いしていた。
(すげぇ! この子、俺の言うこと全部肯定してくれる! 俺の筋肉の価値を分かってくれてるし、ノリも良くて最高だぜ!)
「藤堂さん、お前最高だな! 後で俺の特製プロテイン奢るぜ!」
「さ、『さすがです!!』(ループ開始)」
語彙の暴力と、筋肉バカの勘違い。
一切会話のキャッチボールは成立していないのだが、奇跡的な噛み合いを見せ、このペアもなぜか異常なテンションの盛り上がりを見せていたのだった。
【新ペア④:氷室 & 葵】
さらに驚くべきは、白雪のド正論マジレスによって幼児退行させられたトラウマから復帰した氷室である。
彼の隣には、天然たわわの葵が座っていた。氷室は失われたプライドを取り戻すべく、再び己の暗黒世界(中二病設定)を展開し始めていた。
「フッ……この右腕の疼き。どうやら『機関』の追手がついにここまで嗅ぎつけてきたらしいな……」
懲りずに痛いセリフを垂れ流す氷室。しかし、氷の女王の時とは打って変わり、葵は両手でふくよかな口元を覆って目を丸くした。
「えぇ〜っ!? 大変! 氷室くん、悪い組織に狙われてるんですかぁ!?」
「えっ……あ、ああ! そうなんだ! 俺の命は常に狙われていて……」
「すごーい! 氷室くんって、学校の教室ではいつも一人で静かにしてる日陰者さんですけど、学校の外では組織に追われるぐらい大人気なんですねぇ!」
天然ゆえの、悪意ゼロの無自覚なえぐり込み。
日陰者という事実を笑顔で抉られた氷室だったが、彼は必死に前髪をかき上げて取り繕った。
「ふ、フッ……学園での俺は、ただのかりそめの姿に過ぎないからな。俺の抱える深い闇……この世界に、俺の真の姿を理解できる者などいないのさ」
「理解者ですかぁ? ……あっ! はいっ!」
葵が突然、元気よくピンと手を挙げた。
「理解者、いますよ! 私、今、氷室くんのこと理解しましたぁ!」
「……おっふ」
一切の疑いを持たず、満面の笑顔で放たれた100%の肯定。
そのあまりに眩しい光属性の言葉に、氷室の口から思わず素のキモい感嘆詞が漏れた。
「わ、分かってくれるのか……? 俺の魂の慟哭、つまりアンビエント・デスメタルの真髄を……」
「えっ、デスメタルってあの北欧の? 私、お父さんがそういうの好きで車でよく聴くから、意外と知ってますよぉ。ジャケットの絵がガイコツさんとかで、ちょっと可愛いですよねぇ」
「か、可愛い……だと? まさか、あの退廃的な美学をそんな角度で……!」
まさかの、バンドの話まで通じてしまった。
奇跡的な確率で共通の話題(?)が見つかり、二人の間にはなんだかほわほわとした謎のファンタジー空間が構築されていく。
「あ、あのさ……望月さん」
すっかりペースを乱された氷室は、チラリと葵を見つめ、恐る恐る口を開いた。
「俺のこと……変な奴だとは思わないのか? こんな鎖とかジャラジャラさせてるし、その……ママンのこととか……」
「え〜? 変じゃないですよぉ」
葵は首を傾げ、ふにゃっと微笑んだ。
「好きなものがいっぱいあるのって、とっても素敵なことだと思います! それに、私もお母さんのこと、だーい好きですよ! 家族と仲良しなのは良いことですよねぇ」
「っ……!!」
ドクンッ、と。
氷室の心臓が跳ねる音が、隣のレーンにいる俺の耳にまで聞こえた気がした。
「そ、そうか……。ママン……いや、母さんを大切にするのは、戦士の休息として必要な……いや、うん……ありがとな」
顔を真っ赤にして、完全に中二病の鎧が剥がれ落ちた氷室。
彼の中で、何か新しい扉(ガチ恋)が音を立てて開いた瞬間だった。
【強制終了の足音】
信じられないことに、全員がそれぞれの形で完全に噛み合っていた。
ピアノで心を通わせる俺と白雪、主従関係に目覚めた篠山と結衣、ディスりのループで謎の共鳴を起こす真須と栞、そして天然の光に浄化されていく氷室と葵。
「よーし! これで最後だっ!」
結衣が見事にスペアを取り、俺たちのレーンも無事にゲーム終了を迎えた。
(なんだこれ。最悪のスタートだったのに、結果的にみんなめちゃくちゃ良い雰囲気になってるじゃねぇか……!)
俺はホッと胸を撫で下ろした。これなら合コンは大成功、俺の女児服コスプレ写真がばら撒かれる心配も完全に消滅したと言っていい。
スコアの精算に入ろうとしたその時。
栞との「篠山ディスり」で完全に意気投合し(?)、テンションが有頂天に達していた真須が、ガタッ! と勢いよくソファーから立ち上がった。
「よーし! この調子で、もう1ゲーム行こうぜ! 藤堂さんもどう!? 次はまたペアを変え――あっ」
ドガッ。
身振り手振りを交えて熱弁を振るおうとした真須の丸太のように太い腕が、テーブルの端に置かれていた栞のカバンに激突した。
バサッ!
「ああっ!」
栞が短い悲鳴を上げる。
カバンが床に落ち、中身が散乱してしまった。俺と真須が慌てて拾おうとしゃがみ込んだ、その時。
散らばったペンケースやノートに混じって、一冊の古い本がポロリと滑り出した。
俺は、その本の表紙にデカデカと書かれたタイトルを、はっきりと見てしまった。
『昭和の合コン必勝マニュアル 〜企業戦士の「さしすせそ」で女を落とせ〜』
「…………」
「…………」
全員の視線が、その古めかしいタイトルに釘付けになった。
(……あ、あぁ。なるほど……)
俺は隣に立つ結衣と、無言で顔を見合わせた。
(だから藤堂さん、さっきから壊れたおもちゃみたいに『さしすせそ』の相槌しか打ってなかったのか……)
(……バカね。あんな化石みたいなマニュアル本、本当に信じて持ってくるなんて)
(妙に司会とかしてたのは本を読んできたわけね……実はそんなキャラなの?って思ったけど)
(正直私も、え?こんな感じなの?って思った……。まぁこれはこれで……)
俺と結衣が内心で激しいツッコミを入れていると、当の栞は、その本を見た瞬間、顔面を爆発しそうなほどのトマト色に染め上げた。
「あ……あぁっ……!!」
全身から湯気が出そうなほどの羞恥心。真面目な委員長にとって、ネットの怪しい恋愛マニュアル本をカンペとして合コンに持ち込んでいた事実がバレるなど、社会的な死に等しい。
「こ、こ、こ、これは違いますぅぅぅ!!!」
栞はバッ! と床の『昭和の合コン必勝マニュアル』をひったくるように拾い上げ、ボロ泣きしながら絶叫した。
「わ、私が買ったんじゃなくて! 今日楽しみにしてた、ってわけでもなくて!! 道端に落ちてたのを、たまたま拾っただけで!! わあああああああんッ!!」
「あ、おい藤堂さん!?」
栞は顔を真っ赤にしたまま、真須の呼びかけにも振り返ることなく、凄まじいスピードでボウリング場の出口へと走って逃亡してしまった。
「し、栞ちゃーん! 待ってー!」
驚いた葵が慌ててカバンを掴み、栞の後を追って走り出す。
残された俺たちは、ポカンと口を開けたまま、彼女たちが消えた自動ドアを立ち尽くして見送るしかなかった。
かくして、奇跡的に持ち直しかけていた俺たちの第一回・親睦ボウリング大会は、昭和の遺物の発掘という思わぬアクシデントにより、なし崩し的に強制解散となるのだった。




