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この異世界でかりそめの君と〜最悪の悪魔になった幼馴染を元に戻すため、僕は彼女と世界を壊す旅に出る〜  作者: 鳴尾リョウ


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第6話 取引と旅立ち

『世界を滅ぼす悪魔』赤い瞳をした少女はそう言った。


 シズクであって、シズクでない少女は確かに自分を悪魔だと認めた。


「……本当に悪魔なのか? 信じられない。それよりシズクはどうなったんだ!」


「二つ同時に質問をするな。順番に答えてやる。我は本当に悪魔だ。力が完全に戻ったわけではないから、これくらいのことしかできんが」


 そう言うと、少女は手のひらを上に向け力を込めた。すると、ボウっと音を立てて、手から炎が出た。


「魔法を使えるのか! 前に悪魔は特別な魔法を使えると聞いたことがあるけど。……わかった、とりあえず信じよう。それで、シズクはどうなったんだ!」


「……シズク、この娘の名前か。我は貴様の願い通り、この娘を助けてやった。見ろ。ぼろぼろで今にもくたばりそうだった体は、傷一つない状態に戻してやった」


 確かに、体中にあった傷からの出血は止まっていたし、目の前にいる少女は自分の足で堂々と立っている。だが、


「どうして、シズクの体をお前が乗っ取っているんだ!」


「……こいつは人質だよ。我は貴様が封印を解いたため自由になった。だが、完全に力が戻ったわけじゃない。精霊使いどもの考えそうなことだ。封印がまだ五つある」


 五つの封印。おそらく宝玉のことだ。五つの国に祀られている、かつて悪魔を封印した精霊使いたちが残したと言われる国宝。


「残りの封印を解かなければ、力が戻らない。そして、貴様は我の封印を解けた。つまり、言いたいことはわかるな?」


「……残りの封印を僕に解けっていうのか。シズクはその人質ってわけだ」


「その通り。娘を返してほしければ力を貸せ」


「嫌だと言ったら?」


「もう二度と、この娘と話すことはできないだろうな」


 宝玉を壊すと悪魔は力を取り戻し、再び世界を滅ぼそうとするだろう。それに宝玉には守護者がついている。宝玉を破壊しようとする僕は、彼らの敵となり排除される。問題が山積みだが、僕の答えは決まっていた。


「……わかった。協力する」


 その言葉を待っていたとばかりに、少女はニヤリと笑った。


「それでいい。そうと決まれば、まずはこの国の封印から解くとしよう。どこにあるかわかるか?」


「悪魔の力で封印の位置はわからないのか?」


「ああ。今の状態ではな。本来の力が戻れば、おおよその場所は感知できるが」


 なるほど。封印を解いていくと力が戻り、できることも増えていくのか。


「この国の封印、宝玉と言われているものは城の宝物庫にあるらしいけど……」


「ならばそこに連れていけ。そして、我が封じられていた封印のように貴様が破壊しろ」


 命令ばかりで腹が立った。僕は召使いか。


「わかったよ。でも、僕からも頼みがあるんだけど」


 僕の言葉を聞くと、尊大な態度で少女は応じた。


「何だ」


「……言葉遣いなんとかならない? 『我』とか『貴様』とか、シズクの姿で言われると調子狂うんだよ」


 少女は一瞬固まると、ハハハと声を上げて笑った。


「いいだろう。そのかわり『お前』も『私』に合わせろ。私の名はダリア。シズクではなくな」


「僕はラックだ」


「ふん。短い間だろうが、お互い利用し合うとしよう」


 どこか楽しそうな様子で、ダリアは言った。



 大樹から城に戻り、二階の宝物庫に向かった僕たちは、衝撃を受けることになった。


「……宝玉がなくなっている?」


 台座に収まっていたであろう宝玉はなく、おまけに保管されていた貴重な武器や宝石も根こそぎ奪われていた。


「まさか、泥棒が目的で襲撃を? いや、宝目当てで国を襲うのはリスクが大きすぎる」


 僕があれこれ考えを巡らせていると、見かねたダリアが話しかけてきた。


「とにかく、ここには宝玉はない。何か知っていそうな奴はいないのか?」


 城内は騒然としていた。黒装束たちはすでに去り、戦いは終わっていたが、精霊使いや兵士たちは多くの犠牲者が出て、生き残ったわずかの者と町の住人達は、亡くなった人を運び出したり、重傷者の手当などをしている。町の方も城ほどではないがあちこち壊され、怪我をした住人も多数いるらしい。


 みんな、いっぱいいっぱいだ。話を聞く余裕がある人なんて……。


 そう考えていると、ふとある人物が頭をよぎった。


「そういえば、国王はどこだ?」


 国がめちゃくちゃになっているというのに、一度も姿を見ていない。


「まさか、国王も襲われて……」


 宝物庫を出て、同じ階の部屋のドアを次々に開け放っていく。すると、その中でもひときわ大きいドアの中が王の部屋だった。


 中央にある巨大なベッドに腰掛けて、頭を抱えて震えている国王がいた。


「陛下、無事だったんですね!」


 体をびくんと反応させ、おそるおそるこちらを振り向き僕の姿を見ると、我に返ったように偉そうに王は言った。


「……ふん、なんだ敵ではないのか。お前はこの国の人間だろ。何か用か?」


 何か用か? この非常時にそんな言い方……。国王も動揺しているだろうし、話を進める。


「……はい。私は今日、この国の様子を色々と見てきました。正体不明の者による襲撃。襲われる人々。壊される町。多くの犠牲が出ています。陛下は何かご存じでしょうか?」


 すると、国王はイライラした様子で吐き捨てるように言った。


「知らん! 私も何が何だかわからんのだ。いきなり黒装束の奴らが来て、宝玉の場所を教えろと言ってきた。さもなければ殺すとな。私は抵抗したが、最終的に場所を教えることになってしまった」


 一息でそう言うと、王は少し落ち着いたようだった。国の宝をどこの誰かもわからない人間にあっさりと渡したのか。……いや、だからといって責めることはできない。誰だって命の方が大切だ。


 僕が何も言わないのを自分のことを責めていると思ったのか、国王は語気を強め言葉を続けた。


「大体、こんなことになるなんて兵士たちは何をやっているんだ! 普段からたるんでいるから、大事な時に役に立たないんだ。それに、精霊使いたちも普段から偉そうにしていたくせに情けない。あいつもそうだ。オリバーとかいう精霊使い。守護者などと言われて調子に乗っていたのに、あっさり殺されたじゃないか! 本当に使えない奴らだ!」


 ……ああ、駄目だ。この人は。僕は拳を強く握りしめ、口からこぼしそうになる言葉を飲み込んだ。


 すると、後ろで黙って様子を見ていたダリアが僕の肩を叩き、一歩前に出て王の目の前に立った。


 そして、何をするかと思えば、国王の顔めがけて思い切り拳を振るった。


「……え?」


 めきっ、とか、ぼきっ、とか音を立てて、部屋の壁まで国王は吹っ飛んでいった。


 僕はとっさのことで言葉が出てこなかった。口をぱくぱくさせて、ようやく口に出せたのは、


「……何やってんの?」だった。


 ダリアの方はいらだちを隠そうともせずに、


「こいつは人の上に立つ資格はない。壁にめり込んでるくらいでちょうどいい」


 と、一国の長に対して一切の敬意を払うことなく言い放った。


 そんなことがあり、僕たちはこの国を出ることになった。



 ダリアが王を殴った後、騒ぎを聞きつけた兵士たちに僕たちは拘束された。その際もダリアは、「今の力ではこんなもんか」とつぶやいていたから、肝が据わっている。


 国王を殴ったとあれば処刑されてもおかしくなかった。それでも僕にとっては育ての親であり、シズク(中身はダリアだが)にとっては実の父であるオリバーを亡くした僕たちに同情する声が多く集まり、命だけは助かることになった。


 国王は「処刑しろ」と言って聞かなかったそうなので、無罪というわけにもいかず、国外追放という形にはなったが、この国の人たちには頭が上がらない。


 僕たちが国を出ていくまでの数日間、噂を聞いた人たちが次々に家を訪れてくれ、励ましの言葉をたくさんくれた。門番の老兵士がくれた「ほとぼりが冷めたら帰ってこい。国王には、わしが文句を言わせん」という言葉には、胸が熱くなった。


 国の様子はというと、大きな動きがあった。


 木の国以外の四か国が、壊滅的な被害を受けたこの国の保護を申し出たのだ。


 多くの兵士と精霊使いを失った今では、どこかの国に攻められたらひとたまりもない。そこで、お互いにけん制し合うということによって、抜け駆けを防止する意図があるようだった。


 何か腑に落ちない気もしたが、この国の現状ではそれしか方法もない気もする。少なくとも、国民の生活が元通りになるまでは。


 国王は他国の保護下に置かれることになっても、自分が王であり続けられることがわかると、細かいことはどうでもいいらしく、今まで通りふんぞり返っている。少しは国民に寄り添ってくれるといいのだけれど、期待はできなそうだ。


 襲撃から数日経ち、僕たちが国を出ていく日が来た。旅立ちというのに、薄曇りの朝だった。


 国外追放という身なので、見送りに行くと言ってくれた人たちには断りをいれていたため、ダリアと二人で家を出る。


「まあ、ちょうど良かったんじゃないか。元々、国は出る予定だったんだし」


「いや、自ら進んで出発するのと、国外追放になるのは全然違うよ。……はぁ、先が思いやられる」


 僕は一度だけわが家を振り返り、先を歩いているダリアに追いついた。そして、考えていたことを話すことにした。


「これから僕たちは宝玉を壊し、君の力が封印されている封印を解きに行く」


「ああ。楽しみだな」


 本気で言っているのか冗談なのか、彼女の真意は読めない。


「何か方針、作戦とかはある?」


「お前の力で宝玉を壊す。できなければ、私が気合いで壊す」


 ……期待はしていなかったが、やっぱり無策か。


「……それならまずは鉄の国に向かおうと思う」


「ふうん。どこでもかまわんが、理由があるのか」


「鉄の国にはローレルがいるからだ」


「ああ、この娘の兄だったか」自らの体を指しながら、ダリアは言った。


「そうだ。僕の家族でもある。きっと力になってくれるはず……」


 自分で言いつつ、僕は自信を持てなかった。


「『一緒にシズクを助けよう。そして、世界を滅ぼそう』とでも言うつもりか?」


 体温が一気に上昇し、ダリアに向かって拳を振るいかけた。しかし、シズクの体を傷つけるわけにはいかず、握りしめた拳を解く。


「……言えないな。でも、ローレルには会わないといけない。聞きたいことがあるんだ」


「聞きたいこと?」


「ずっと考えてた。どうして襲撃された時、この国にいないはずのローレルが城にいたのか」


 つまらなそうに聞いていたダリアは、興味が湧いたのかニヤニヤしながらこちらを向きながら言う。


「いたのか、城に。いつだ?」


「シズクが黒装束に襲われたのは家で話したよね。数人の声が聞こえたんだ。その内の一人がローレルだった」


「こいつは面白くなってきたな。兄が妹を殺そうとしたのか」


「そんなこと信じられない。もちろん、国を襲うなんてことも。だからこそ、会って話すんだ」


 木の国の出口が見えてきた。足元の草を踏みしめて、正面の門を見据える。


「ここからが旅の始まりってわけだ」


 ダリアは愉快そうに門へ向かって駆けていく。悔しいことに、その後ろ姿はシズクと少し重なって見えた。僕はため息をつき、追いかけるように門へ走り出した。


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