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この異世界でかりそめの君と〜最悪の悪魔になった幼馴染を元に戻すため、僕は彼女と世界を壊す旅に出る〜  作者: 鳴尾リョウ


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第33話 獣の一嚙み

 力を溜めていたオオカミがバネの様に跳ねて、僕らを襲った。何とか回避し、体勢を整える。


 反撃のため弓に矢をつがえるが、フロアを踊る様に動き回るオオカミに狙いが定まらない。


「駄目だ。これじゃ当てられない!」


 ダリアも攻撃をしのぎながら打撃を加えようとするが、相手は深追いせずに回避を優先し、少しずつ体力を削りに来る。


「カウンター狙いでも、スピードが違いすぎるな。本当に忌々しい」


「炎を出しても効果はないの?」


 ヤギとの戦いでは炎は有効だった。しかし、彼女は首を横に振る。


「野生のヤギとは違うからな。精霊使いの感情のせいか攻撃的になっていて、炎を恐れない」


「そんな。打つ手がないじゃないか」


 このままでは二人ともじわじわとなぶられて終わりだ。絶望的な気持ちの僕に対して、ダリアはこんなこともあろうかとといった様子でフッと笑った。


「そうでもない。用意したものがあるだろう。急げ、テーブルの下に隠しておいた」


「それってさっき持ってきた袋のこと? でも、暴れまわったせいでテーブルもぐちゃぐちゃなんだけど」


 整然と並べられていたテーブルや用意されていた料理も見るも無残なありさまだった。この中から探すの?


「いいからさっさと探せ! あいつは引き付けておいてやる」


 彼女がそう言うとオオカミは僕の方に向かってきた。わたわた慌てていると横からドンと僕を押し、ダリアが促す。


 わかったわかった。僕は彼女が料理を食べていたテーブルがあった場所に走る。


「ああもう、ぐちゃぐちゃでどこにあるのか。多分この辺りだったけど」


 倒れたテーブルにかけられた布を外すと、持ってきた袋が転がっていた。


「あった! それで中身は……」


 縛ってあったひもを解くと、頭に疑問符が浮かんだ。何でこれがここに?


 後ろからオオカミの叫び声や物音が響く。ええい、とにかく急がなくては。


「持ってきたぞ!」


 声を張り上げて、目的の品物を掲げる。


「急いでそれをぶん投げろ!」


 言われた通りにオオカミの方に向かって、リスのぬいぐるみを放り投げた。突然、目の前に飛び込んできた小動物に、野生の本能なのかオオカミは空中で食らいついた。


「ああっ、キューちゃんが!」


 牙が食い込み、中から綿が出ているぬいぐるみを見て、ショックを受ける。無残。


「言ってる場合か!」


 ダリアは動きが止まった隙を突き、こぶしを振り下ろす。床にたたきつけられたオオカミは動きが鈍くなった。すかさず背中の弓を構え追撃の矢を放つと、力が弱まったのか実体化できなくなり消滅した。


「やった!」


 手強い相手だったが、ダリアの準備が功を奏した。ローレルの方を窺うと、信じられないといった表情で精霊が叩きつけられへこんだ床を見つめていた。


「俺のオオカミがやられた?」


「もうやめろ! あれだけの力の精霊を操っていたんだ。もう力は残っていないだろう」


 ダリアが彼に向かって叫ぶ。今の僕なら彼女の気持ちが理解できた。そうであってくれという願望だろう。


 彼女の言葉を聞いたローレルは、再び血が沸騰したように怒声を放った。


「……黙れ! シズクの顔で、シズクの声で、俺に話しかけるな!」


「それは妹を助けられなかった罪悪感からか?」


「お前に何がわかる!」


 ここまで冷静でなくなったローレルは初めて見る。誰よりも才能がありながら、驕ることなく鍛錬を積み、どんな人間にも分け隔てなく接していたかつての彼とは同一人物には思えない。


 僕は今の彼にどんな言葉をかければいいか分からず、ただ二人の会話を聞くことしかできなかった。


「何もわからんさ。だが、こいつは悪魔に魂を売ってでも、この娘を助けようとした」


 ダリアは僕の方に首を向け、自分の胸辺りに手を添えながら言う。


 僕はシズクを助けたかった。それは本当だが、それ以外はどうなってもいいと思っていた。親や妹を犠牲にしてまでも自分の使命を全うしようとしたローレルには、妹を妹でない存在に変えてしまった僕こそが本当の悪魔なのではないのか。


「黙れ黙れ! もういい、消えろ!」


 ローレルが力を溜めるような動作に入ったので警戒していると、城外から戻ってきたであろう兵士たちが、武器や鎧を身に着けてダンスホールに駆け込んできた。


「そこまでだ! 侵入者め。よくも舞踏会を台無しにしてくれたな」


 複数の剣先を向けられ、僕とダリアは動きを封じられた。


「これはまずいかも」「どうするか」


 ダリアと顔を見合わせ考えていると、ローレルに気が付いた兵士たちが彼に呼びかける。


「これはこれは。精霊使い様ではありませんか。もう安心ですぞ。あとは我々に任せて……」


「……手を出すな」


 一瞬、兵士たちの表情は固まった。自分たちに向けられた言葉が彼のものだと思わなかったのだろう。


「いや、しかし……」


「二度は言わない。引っ込んでろ」


「……言わせておけば、若造の分際で! ……ん、何だ? 体が引っ張られる!」


 兵士たちが少しずつローレルの方に引き寄せられていく。その力はどんどん強くなっていき、握られていた剣やたまらず脱ぎ捨てた鎧も空中で一塊となり、加勢に来た兵士たちは無防備になった。


「まずいぞ、一旦離れろ!」


 リーダーらしき男が叫ぶと、兵士たちはちりじりに逃げて行く。


「……まずいよね」


「すごくまずい。暴走しているせいで周囲の鉄に影響を与えているんだろう」


 すると、鉄の塊は意思を持ったように姿を変えていき、ローレルの体を覆う巨大な鎧となった。


「まるで鉄の巨人だな。こうなっては私の炎も通らないか」


 確かにあれほどの装甲には炎も効果がなさそうだ。しかし、封印を破壊する程の力なら……。僕は担いでいる弓を握り締める。


「……試してみたいことがある。一瞬でいいから時間を稼いでくれ」


 ダリアはため息をつきつつも、口元を緩ませ答えた。


「まったく、私は時間稼ぎばかりだな。いいだろう、もうひと稼ぎしてやる。だが、あれ相手では長くはもたんぞ」


 がんばるよ、という返事を聞くや否や彼女はローレルに向かって駆け出した。


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