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この異世界でかりそめの君と〜最悪の悪魔になった幼馴染を元に戻すため、僕は彼女と世界を壊す旅に出る〜  作者: 鳴尾リョウ


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第19話 壊す力の使い方

「ダリア!」


 彼女の名を叫んだが、起き上がることなく動かない。


 その様子を見て、自分でも驚くほどの怒りを覚えた。彼女はダリアだ。シズクではない。それでも、動かなくなった彼女を見て、どうしても城での出来事を思い出してしまう。


 あの時は何もできなかった。血をたくさん流す彼女をただ見ていることしか。そんなのはもうたくさんだ。


 まずは一人倒したことに満足したのか、ヤギはまだ僕の方に向かってこない。その間に改めて弓と矢を構えて、狙いを定める。


 ダリアの攻撃は角にダメージを与えたはずだ。そこにもう一撃加える。僕にできるのはそれしかない。


 敵意を感じ取ったのか、再びヤギはこちらに向き直った。どうにかできる気はしない。それでも一矢報いるくらいはしてやる。そうじゃなきゃ、彼女に合わせる顔がない。


 矢をつがえる手に力が入る。ここまで感情のままに狙いを定めたことはない。盗賊を撃った時でさえ、命を奪わないように気をつけていたくらいだ。だが、どうしても彼女を傷つけた奴を許すことはできなかった。


「うおおお!」


 僕は怒りに任せて矢を放った。ヤギの角めがけて飛んでいくそれは、青白い線を引くように見えた。


 矢を弾こうとしたのだろう。ヤギは直撃に合わせて首を振り、角で矢を振り払おうとした。しかし、矢が触れた瞬間、巨大な角はガラスが砕けるような音を立てて、粉々になった。


 力の源である角が破壊されたからか、青白い光は消え失せ、巨大に見えていたヤギは先ほどの何分の一という小さな本体を露出させた。その動かなくなった姿を見て安堵したせいか、僕の体から力が抜け、高ぶっていた感情も落ち着いてきた。


「そうだ、ダリア!」


 持っていた弓矢を放りだし、地面に倒れている彼女に駆け寄った。


 良かった、気絶しているようだが息はしている。幸い、大きな傷もなさそうだ。意識がない彼女をそのままにはできないため、僕はダリアを背負い、最寄りの山小屋まで向かった。



 彼女が目を覚ましたのは、日が傾きだした頃だった。


「……ん、ここはどこだ? あいつは!」


 飛び上がるように起き上がったダリアは、そばで様子を見ていた僕に聞いた。


「大丈夫。ここは近くの山小屋だよ」


「あのでかい奴はどうした?」


「倒した」


 信じられないといった顔をしているので、続けて話す。


「言いたいことはわかる。僕だってよくわからないんだし。君が倒れた後、怒りに任せて矢を放った。そうしたら、君の力でも壊せなかった角を破壊して、あのヤギは力を失ったんだ」


 ありのままを語ったが、それでもまだ信じられない様子だ。しばらく彼女は黙って何かを考え、思考がまとまったのか口を開いた。


「まずは何から話すべきか……。お前はあいつの正体が何かわかるか?」


 僕が首を横に振ると、始めから期待していなかったようで、彼女はため息をつき、続けた。


「あいつの正体は『精霊憑き』だ」


「精霊憑き、って何それ?」


「精霊憑きはその名の通り、精霊が取りついた生物のことだ。自然界にはエネルギーが集まる場所がある。そう言った場所では、生息する動物に自然発生的にエネルギーが取りついて、精霊のように具現化することがある」


 そんな話は聞いたことがなかった。もしそんなことがあるとしたら、なぜ多くの精霊使いがいる僕の国でそんなことが起きなかったのだろう?


「本当に何も知らないようだな。まあ。無理もない。そもそもめったに起こることではないし、お前がいた国ではなおさらだ」


「どういうこと?」


「精霊使いが精霊を呼び出す際、多くのエネルギーを使い具現化する。だから、そもそも自然発生的に具現化する程のエネルギーは残らないということだ」


 彼女の説明には一理ある。僕の国には多くの精霊使いがいた。その多くが修行のために、日々精霊を呼び出している。シズクやオリバー程実力がある人たちでさえも、普段から修行を欠かさなかった。精霊の力の源が自然のエネルギーだとするなら、他のどの国よりも、木の国はそれを使用していたことになる。


「だから僕の国では存在が知られていなかったのか」


「おそらくな。それとお前があいつを倒せた理由だが……」


「それは僕も考えていた。多分、君の封印を破壊した力と同じだと思う」


 ダリアの話を引き継ぎ僕は言った。彼女も僕と同意見らしくうなずいた。


「前にも似たようなことがあったんだ。森の中で巨大なエルクに襲われた時、とっさに力が出て、エルクの頑丈そうな角を破壊した。その時は素手だったけど、もしかしたら何かを破壊する力は武器にも込められるものなのかもしれない」


 ヤギに向け放った矢には破壊の力がこもっており、その力で角を破壊することができた。一瞬見えた光の線のようなものは、矢に宿った力の痕跡なのではないか。


「ありえるな。お前も精霊使いの修行をしていたのだろう? 精霊を形作る程のエネルギーを具現化ではなく、別の力に変換して使用していると考えれば、力の強さにも納得がいく」


 僕の力が元々は精霊を呼び出すエネルギーと同じかもしれない。それならばなぜ僕は精霊を使えないんだ。何でシズクたちと同じようにできない……。


 唇を嚙んでいると、不思議そうに僕を見て、彼女は言う。


「……? 何がそんなに不満なんだ?」


「君にはわからないだろうね。僕はずっと精霊使いになりたかった。でも、ようやく使えるようになったのは、何かを壊すことしかできない危険な力だ。こんな力じゃ人は助けられない」


 そう答えると、なおさら彼女はわけがわからないといった顔つきをした。そして、僕の目をまっすぐ見て言った。


「人を助けられない? なぜだ? お前の力がなければ、私たちは死んでいたかもしれないんだぞ。少なくとも、お前は二人の命を救っている。お前と私だ」


 命を救った? この力で? そんな風には考えたことはなかった。ダリアを窺うと、嘘を言っているようには見えない。そもそも、彼女が僕に気を遣って慰めるようなことを言うとも思えなかった。


 エルクに使った時、僕はこの力を恐れた。封印を破壊した時は、無我夢中で後先を考えなかった。今でもオリバーが言ったように、力を使うべきではないと思っている。しかし、危険な力でも使い方次第なのだと考えることはできないだろうか。


「……もう少しこの力について考える必要があるのかもしれない」


 僕の言葉に納得したのかはわからなかったが、彼女は思い出したように話し出した。


「ところでヤギに襲われてそれどころではなかったが、目的の植物は見つかったのか?」


「ああ、そうだった。実は……」


 小屋の端に置いていたかばんに近づき、中から花と葉が赤色の植物を取り出した。


「これが朱音草だよ!」


「見つけたのか!」


「うん。君をここまで運んでから、ヤギに襲われたところにかばんと弓矢を取りに戻ったんだけど、その道中で見つけたんだ。一応、必要な分は確保できたと思う」


 これで目的は達成した。後はハントのところに戻って渡すだけだ。


 二人で喜んでいると、急にお腹が空いてきた。ダリアも同じだったようで、さっそくご飯を催促してきた。


「なにはともあれ、晩飯にするぞ」


「今日はお祝いだから、豪華だよ!」


「それはいい! 何にするんだ?」


「さっきのヤギをさばいたから、焼き肉にしよう!」


 そう言うと、彼女の僕を見る目が変わった。心なしかドン引きしているように見える。


「……あんなことがあったのに、意外とお前は抜け目ないな」


 心外な。奪った命に感謝してきちんと頂く。それが一番の礼儀だろう。そう言い返そうとして、やめた。どうせ言ってもわからないだろうし。


「そんなこと言うなら、ダリアには肉をやらないぞ」


「ちょ、ちょっと待て! 食わないとは言ってないだろ!」


 慌てた様子が少し面白かったから、もう少しからかってやろうかとも思ったが、朱音草を見つけられたのは彼女のおかげでもあるので、今夜は二人で夕食を楽しむことにした。


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