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この異世界でかりそめの君と〜最悪の悪魔になった幼馴染を元に戻すため、僕は彼女と世界を壊す旅に出る〜  作者: 鳴尾リョウ


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第17話 精霊の力を宿した体

 山に向かう道はしばらくはなだらかだった。道の両側は草原が広がっており、ところどころ大きな岩がある。天気も良かったので、まるでハイキングのような気分で進むことができた。野生動物が水を飲めそうな池もあり、動物たちも暮らしやすそうな場所だなと思った。


 しかし、そんな気分も長くは続かず、僕は自然の厳しさを痛感することになる。


 山への入り口にたどり着き、『この先エラーブ山地』と書かれている標識を見つけた。


 先の方は歩いてきた道とは異なり、草もあまり生えていない砂地で、勾配も急な坂になっている。登っていくだけで体力を消耗しそうだ。


 目的の朱音草は、山頂の方に生えていることが多いと聞いたが、ここからははるか遠くに感じる。そりゃ、取りに来る人もあまりいないわけだ。


 僕と比べ、身軽なダリアはずんずんと進んでいく。後ろから、はあはあと息を切らしながら追いかけていると、彼女が前方から叫んだ。


「おい、遅いぞ! そんなんでは日が暮れる!」


「そう思うなら、荷物を持つのを代わってくれよ。二人分の食料も入ってるんだから」


 そう言い返すと、彼女はこちらに向かって下りてきて、僕が背負っていたカバンをひったくった。


「しょうがない。特別だぞ」


 やけに素直に引き受けたなと思ったが、口には出さなかった。気が変わっても困るし。


 荷物を持ってもらったので、少し進むペースも早くなった。そのおかげで、何とか日が沈みかかった頃にハントから聞いていた山小屋にたどり着くことができた。


「やっと着いた」


 僕はへとへとに疲れていたが、荷物を代わりに担いでいたダリアは、息を切らしている様子もなく、まだ余裕がありそうだった。中に入り、落ち着いたところで質問をぶつける。


「気になってたんだけど、ダリアは今、シズクの体を借りているわけだろ。どうしてそんなに体力があるんだ?」


 悪魔がとりついているとはいえ、元の体は普通の女の子だ。険しい山道を涼しい顔で登る体力や、盗賊を倒したり腕相撲で大柄な男に勝てるほどの力があるものなのだろうか。


「さあな、人間の体になったことなんてないからわからん。だが、推測することはできる」


「というと?」


「精霊使いたちは自然のエネルギーを使い、それを精霊として具現化し、操っているのは知っているな? 奴らの使う精霊は強力で、私も手を焼くくらいだった」


 昔のことを思い出したのか、そう語る彼女は苦々しい顔をしている。


「うん? それがどう関係しているんだ?」


「そう話を急ぐな。お前も知っての通り、私は結晶に封印されていただろう。その時、私の体はあったか?」


 あの時は必死であまり記憶がはっきりしない。大樹の中には、ダリアが封印されていた大きな結晶が収められていた。しかし、肝心の彼女の肉体は、


「なかった」


「そうだ。私は封印された時に肉体を失った。そして、魂だけの存在になったんだ。実体をもたないエネルギーのような存在にな」


ダリアの話を聞いて、僕は理解した。彼女が何を言いたいのかを。


「つまり、こう言いたいのか、封印後のダリアは『精霊になった』と。そして、実体がなかったからシズクにとりついたってことか」


「その通り。精霊の力は強大だ。同じような存在になった私が器を得て、とりついたとしたら、人間離れした力があっても不思議ではないだろう」


 彼女の話には説得力があった。精霊の力を宿した体。そうだとしたら、今までの人間離れした力も納得できる。


 いや待てよ。今までの話が事実だとしたら重大な問題が残る。


「……君の力の理由はわかった。まだ封印が残っているから、おそらく本来の悪魔の力が出し切れていないってことも。でも仮に、僕が全ての宝玉を壊し、君の力が完全に戻った時、シズクの体はどうなるんだ?」


 ダリアの肉体はもう存在しない。それならば、今のシズクの体こそが彼女の本体だ。力が戻ったからと言って、はいどうぞと返すなんてことがあるのだろうか。


「お前ならそう聞いてくると思った。だが、それも問題ない」


「どうしてそんなことが言える!」


「先ほども言ったが、精霊使いはエネルギーを具現化できる。大概の場合、精霊を呼び出すのは一時的なものだ。なぜなら、完全に具現化するにはエネルギーが足りず、定着させることができないからだ。しかし、より強大なエネルギーを使うことができ、完全に呼び出した精霊を定着することができたとすれば」


「そうか! 実体を持った精霊を、永続的に定着させることができるってことか!」


 僕の返事を聞き、彼女は満足そうにうなずいた。


「まあ、あくまでそれは本来の精霊の場合であって、私の場合は少し違う。現段階で私の魂はこの体の中にあるから、肉体を作り出し、魂を乗り移らせる必要もあるんだが……」


「でも、力が戻ればそれも可能、そうだろ?」


「ああ」


 彼女の話は僕に希望を抱かせるには充分なものだった。僕は今までダリアを完全に信じることは出来ずにいた。かつて世界を滅ぼそうと企てた悪魔。そんな背景もあり、どこかで裏切るかもしれないということが頭から離れなかった。


 だが、今の話を聞いた限り、彼女は僕との取引を反故にする気はない気がする。案外、義理堅いのか。それとも、復活さえ果たしたらあとはどうとでもできると高をくくっているのか。


 つまるところ、僕たちがやらなければならないことは、何も変わらない。宝玉を破壊し、彼女の封印を解く。それだけだ。


 一日中山道を歩いてきた上、新たな情報で頭がいっぱいになり、どっと疲れてしまった。もう今日は早く休もう。そう思っていると、ダリアはかばんから持ってきたパンを取り出し、僕に渡してきた。


「寝るのは食ってからにしろ。明日、倒れられたら困る」


 押し付けたパンを受け取ると、彼女は僕の方から向きを変え、反対の手で持っていたパンをもそもそと食べ始めた。


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