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この異世界でかりそめの君と〜最悪の悪魔になった幼馴染を元に戻すため、僕は彼女と世界を壊す旅に出る〜  作者: 鳴尾リョウ


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第16話 役に立つかと思っただけ

 彼女の言葉を聞いた瞬間、彼は一瞬固まったが、すぐに大きな声で笑いだした。


「ははは、おもしろいなお嬢さん。恋人の敵討ちってところか。いいだろう。サービスで少しハンデをつけてやってもいいぞ」


 どうみても店主はダリアをなめていた。僕はダリアが怒り出すかと思ったが、彼女は冷静な口調で言い返した。


「負けた時の言い訳はそれでいいのか?」


 か、かっこいい! すごい自信だ! しかし、店長はその言葉を聞いた瞬間、目を鋭くした。


「言うねえ。わかった、手加減はなしだ。けがをしても知らねえぞ」


 ダリアは先ほど僕が立っていた場所に行き、店長と腕を組んだ。


「お兄さん、合図を頼む」


 二人の準備が整っているのを確認して、僕は合図を出す。


「それじゃあ、よーい、ドン」


 大役を果たした僕は二人の様子を窺ったが、台の上は変化がない。しかし、彼らの表情は対照的なものだった。


 ダリアはすました顔をして、相手の力量を見極めているような余裕が感じられた。一方、店主はというと、怒りと戸惑いが半々といった表情をしている。彼の方は腕に血管が浮き出ており、ものすごい力を込めているように見える。次第に顔も紅潮してきて、汗も流れてきていた。


「どうなってる? びくともしない」


 僕は彼の気持ちが理解できた。彼の目の前にいる少女は、見た目は普通の十六歳だ。およそ、力自慢の男性に敵うとは思えない。悪魔が体を乗っ取ってると知っている僕でさえ、にわかに信じがたい。


 観察が済んだとばかりにダリアは店主に声をかけた。


「これが全力か。もういい、終わりだ」


「ふ、ふざけ……」


 その瞬間、ダリアは彼の腕をたたきつけ、台を破壊した。


 僕は驚きで声を出せなかったが、彼女は床にへたり込んだ店長に、何事もなかったように声をかける。


「すまん、壊れた。だが、これで弓矢は売ってもらうぞ」


 やりすぎだろ! こんなんじゃ、怒って商品なんか売ってもらえるはずがない。


 すると、彼はすっと立ち上がり、ダリアに言った。


「……すげえ。あんた何もんだ? ははは、全く敵わなかった! いいだろう、売ってやるよ!」


 いいの? 僕はさっぱり理解できなかったが、彼ら二人には謎の結束感を感じる。


 結局、僕が手に入れたのはシンプルな木の弓矢だった。


 店長は「店一番の弓を安く売ってやる」と言ってくれたのだが、台も壊してしまったので遠慮させてもらった。僕が普段使っていたのが木製の弓だったので、そう伝えると、「そんなもんでいいのか?」と不思議そうにしていたが、ダリアのことを気に入ったようで、弓矢を格安で売ってくれたのは正直助かった。


 店長に感謝し、店を出たところでダリアに疑問をぶつける。


「なんで助けてくれる気になったの?」


 彼女はこちらに顔を向けることなく、投げやりに言った。


「お前の弓でも少しは役に立つかと思っただけだ」


 それだけ話すと、彼女はそれきり静かになった。僕も背負った弓矢の重さを感じながら、彼女と歩幅を合わせた。


 

 エラーブ山地への出発の朝、日持ちする食べ物などの確認をしている時、ハントが声をかけてきた。


「ラック君、ちょっといいかな?」


 どこか様子がいつもと異なる気がしたが、「はい」と返事をし、作業を中断する。


「本当に行くんだね。もちろん、僕が言い出したことだけど……」


 どうやら心配してくれているようだった。僕は彼の不安をかき消そうと、明るく務めて応えた。


「はい! 大丈夫ですよ。ダリアもいることですし」


「そうかもしれないが……」


「それにどうしても必要なんでしょう? 朱音草が」


 彼は無言でうなずく。


「実は昔、朱音草で染められたドレスを見たことがあってね。心を奪われたよ。真っ赤に染められたドレスはまるで、炎をまとっているような情熱的なものだった。こんなドレスを僕も作ってみたい、ずっとそう思ってきたんだ」


 彼は一気にそう言葉を言い放った後、「ただ」と続けた。


「それは僕のわがままだ。君たちが危険を冒す必要はない」


 そう言うと、おもむろに二つの仮面を取り出した。


「これを譲るよ。だから、エラーブ山地に行く必要はない」


 彼の手は小刻みに震えていた。この決断に葛藤があるに違いない。それでも僕たちのことを案じて、引き留めようとしてくれている。


「ありがとうございます。でも、僕たちは行きます」


「どうして!」


「僕にもわかるからです。どうしても譲ることができないものがあるってことが。ハントさんにとって、それがどれほど大切かってことも」


 僕の言葉を聞いた彼は、しばらくなにも言わなかった。しかし、答えが出たように口を開いた。


「……すまない、よろしく頼む」


「はい、任せてください」


 ハントとの会話が終わり、荷物をまとめ終えた頃、ダリアが自分が使わせてもらっている部屋から出てきた。


「準備はできたか」


「うん。日持ちする食べ物や水も入れたし、弓矢も用意できた。一応聞きたいんだけど、荷物ちょっと持ってくれない?」


「いやだ」


「だよね」


 もちろん期待してはいなかった。しょうがない、すぐに構えられないけど、弓矢はカバンにくくりつけるか。


 エラーブ山地までは二日もあればたどり着けるという。問題は着いてからだ。山道には道幅の狭い所や、気性の荒い生物もいるという。気をつけないと大けがでは済まないかもしれない。


 何より気がかりなのは、何人も行方不明者が出ていることだった。原因がわからないのは不気味だが、できる限り準備は済ませた。行くしかない。


 僕たち二人はハントに出発を告げた。


「それじゃあ、行ってきます」


「ああ、必ず帰ってきてくれ。まだ十分なお礼ができていないからな」


 彼は僕の手を強く握りそう言った。その言葉を聞いて、少し笑ってしまった。本当に律儀な人だな。


「ダリアさんも気をつけて」


 ハントが言うと、彼女も手をひらひらとさせて応じた。「いってらっしゃい」と言う言葉を背中に受けて、僕たちはエラーブ山地に向かった。


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