第14話 彼がどうしても欲しいもの
食後、キッチンで大量の皿を片付けながら、ハントに尋ねた。
「ハントさん、料理得意なんですね。てっきり職人さんなんで、仕事以外のことは興味ないのかと」
「いやあ、一人暮らしが長いから、自分でやらないと誰もやってくれないからね」
話を聞くと、ハントは若くから職人として頭角を現わし、活動してきたそうだった。それに従い、自分の作品にもこだわるようになり、素材集めにも精を出したのだという。そのため、実家のキャパシティを超えてしまい、広い家に越してきたようだ。
「そうなんですね。でも、こんなに料理がおいしいのに、自分だけで食べるのはもったいないですね」
「そうかもね。あっ、でもたまに友達が来てくれるよ」
職人仲間だろうか。友達について話す時の彼の表情は、よりいっそう優しい気がした。
「いいですね。僕にはあまり同年代で友達がいなかったので」
「僕も友達が多い方じゃないよ。ただ、彼女は幼馴染でね。たまに安否確認なのか尋ねてくれるんだ」
ん、彼女?
「昔からそうなんだ。あまり社交的でない僕のことを気にしてくれてね。いつだったか柄にもなく、『君みたいな友達がいてくれて良かった』と感謝をしたことがあったんだけど、なぜかその時に彼女、すごく怒ってさ。あれはなんだったんだろう」
最後の方は独り言のようにつぶやいたハントを見て、僕は悟った。
この人、全然わかってない。それ絶対、気があるよ。僕は名前も知らないその女性に同情した。
片づけが済み、二人でテーブルに着いたところで、大事な話を切り出した。
「ところで、ハントさんは城に行くこともあるんですよね」
「うん、衣装ができたら直接持っていくよ。それがどうしたの?」
「いやその、僕も見学に行ってみたいと思ったんですが、入ったりできるのかなと思って」
とっさについた嘘にしては悪くない。しかし、彼の反応は芳しくなかった。
「うーん、それは難しいかもね。この国の城は警備が厳重で、関係者以外は入れないんだ」
「それなら、ハントさんの同行者ってことでどうですか?」
「それも無理だね。何年も通っている僕でも、毎回厳しい確認をされるから。素性がわからない君たちは通してもらえないと思う」
僕たちの国のようにはいかないようだ。木の国は、森に囲まれている天然の要塞のようなものなので、僕が知る限り大きな戦いはなかった。しかし、他国が同じであるとは限らない。常に戦いの危機が訪れる国であれば、警備が厳しいのは当然だろう。
どうしたものかと考えていると、ハントが「あっ」と声を上げた。
「そういえば、……あった、これだ」
ハントは腰掛けていた椅子から慌てて立ち上がり、戸棚の方にバタバタと向かった。そして、何やら仮面のようなものを二つ持って、戻ってきた。
「何ですか、それ」
そう聞くと、彼は自信満々に返事をした。
「これは舞踏会に参加するための仮面だよ。この国では、年に数回舞踏会があってね。僕も城に出入りしているから、前にもらったんだ」
なるほど。身元がわかっている人間にだけ配られる招待状でもあるということか。警備をかいくぐって城に入りたい僕たちにとっては、のどから手が出るほど欲しい代物だった。
すると、ハントは思いもしないことを言いだした。
「……これ、あげようか?」
「えっ、いいんですか! 貴重なものなんじゃ?」
「ダンスには興味がなくてね。でも、質問には答えてほしい。なぜ城に入りたいんだ?」
今までとは違い、険しい表情でハントは聞いた。
適当に嘘をつくことはできる。しかし、彼に対してそんなことはしたくなかった。
「……答えられません。でも、必要なことなんです」
そう答えると、彼は深く息を吐き、言った。
「言いたくないか。いや、知らない方がいいということかな。……わかった。これは君たちに譲ろう」
「なぜですか? 質問に答えなかったのに!」
「君たちが悪い人間じゃないのはわかる。だが、条件がある。あるものを取ってきてほしい」
彼が必要としているのは、『朱音草』という植物だった。この植物は葉の部分をすりつぶし、水を加え発酵させた後に乾燥させることで、鮮やかな赤色が出せる染料になるとのことだった。
「どうしても僕が作りたいドレスにはこれが必要でね。どうしても手に入れたいんだ」
そう話すハントはどことなく鬼気迫っており、別人のようだった。
「わかりました。どこにあるんですか?」
「エラーブ山地というところだ。ここからそんなに距離はない。ただ」
ハントは言い淀んでいたが、覚悟を決めたのかはっきりと口にした。
「以前、朱音草を取りに商人がその山に行ったっきり帰ってこない。おそらく、そこで何かに巻き込まれた」
「……危険な場所ということですね」
「そうだ。だから、おすすめはしない。それでも行くかい?」
僕の返事は決まっていた。
「行きます」
ハントはうなずくと、長い息を吐き出した。
「決意は固いようだね。よし、それならよろしく頼む」




