第12話 才能ある服職人
「いやあ。命の恩人だな、君らは」
小屋の中でパンをバクバク食べながら、無精ひげを伸ばした男は言う。
「ドレスの材料を見つけたのはいいが、食べ物が底をついてね。湖の魚でも手づかみで取ってやろうかと思ったんだけど、さすがに無理だった」
男のカバンはぎゅうぎゅうに中身が詰まっていたが、どうやらその材料らしい。
「本当に助かったよ。ありがとう」
そういう間も、男はパンを食べ続けていたので、ついにダリアが声を荒げた。
「いいかげん食うのをやめろ! それは私のパンだ」
いや、それは僕のでもあるんだけど。火に油を注ぐことになるから言わないけど。
「ごめんごめん。僕はハント。ユジーヌで服を作る仕事をしてる」
「僕はラックです。こっちはダリア。妹です」
「へえ、あまりそうは見えないね」
首をかしげながら、ハントは言った。
「よく言われます!ハントさんは服の材料を集めていたんですよね!」
ごまかすために、どことなく質問がわざとらしくなってしまった。
「そうだよ。普通、材料は商人から買い取って作るんだけど、僕は気に入ったものを自分で探したくてね」
「ふん、一丁前なことを言っているが、どうせたいした服は作れんのだろう?」
ダリアは不機嫌そうに言葉を投げかけた。パンを食べられたことを、相当根に持っているようだ。
「手厳しいね。まだまだ未熟だけど、一応、城からの依頼を受けて、ドレスを作ったりはさせてもらってるよ」
「えっ、城からってことは、王室御用達じゃないですか」
服職人といえども、王室の服を作ることができる人間は、多くないはずだ。まだハントは三十代くらいに見える。余程の才能がなければ、不可能だろう。
「たまたま、気に入ってもらえただけさ。それより、君たちもユジーヌに行くんだろう。僕も帰るところだから、一緒に行かないか?」
ハントはそう提案してきた。僕はもちろん構わなかったが、隣のダリアは明らかに嫌そうな顔をしている。しかし、「何かお礼もしたいしね」という言葉を聞いたとたん、「まあ、いいだろ」と態度を変えた。まったく、現金なやつだ。
話がまとまったところで、僕はずっと気になっていたことをハントに聞くことにした。
「ところで、ハントさん。ここの湖には竜がいるって……」
ハントは僕に同情した表情をしたのち、静かに首を振る。肩を落としている僕を見たダリアは「だろうな」と言って、再び笑った。
ハントがいたおかげか、湖からユジーヌまでの間、会話には困らなかった。
僕とダリアが二人きりの間は、ささいなことでいがみ合っていたが、ハントが間に立ってくれるお陰で、もめることなく、あっという間にユジーヌまでたどり着いた。
街は巨大な壁に囲まれていた。僕らの国の壁とは比べ物にならないくらい強固に見える。
「ラック君たちは木の国から来たんだったね。あそこは森が守りにも活かされているから、壁に強度が必要なかったんじゃないかな。大体の国は頑丈な壁で覆われているよ」
そうだ。今までは争いごとに見舞われることもなかった。しかし、状況は変わってしまっている。
「……すまない、国が大変な時に無神経だったね」
僕の様子を気にかけて、ハントは頭を下げる。
「いえ、気にしないでください。鉄の国からも復興のために多くの人が来てくれて、本当に助かってるんです」
「昔はいがみ合っていた国同士らしいが、今は違う。助け合うのは当然だ」
彼の言葉を聞いた僕は、少し目頭が熱くなった。けれど、悟られたくなくて顔を逸らした。
ハントが気づいたどうかはわからない。彼はすぐに明るい声で話し出した。
「さて、さっさと僕の家に行こう。久し振りのお客様だ。腕によりをかけて、ごちそうを用意するよ!」
「それはいい! お前の腕前、試させてもらうぞ」
ハントとダリアは、足早に街へと通じる門へ向かって行き、僕も二人を急いで追いかけた。




