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この異世界でかりそめの君と〜最悪の悪魔になった幼馴染を元に戻すため、僕は彼女と世界を壊す旅に出る〜  作者: 鳴尾リョウ


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第11話 何を得るためお金を使うか

 戦いの後、僕たちは盗賊を倒したその日も宿屋に泊まることになった。正直、あまりお金がないので、二泊するというのは気が引けたが、「何言ってるんですか。フィルを守ってくれた上、盗賊まで退治してくれた恩人にお礼もしないなんて、夫に言ったら怒られちゃいますよ」とトワルさんが譲らなかったので、無料でもう一泊させてもらうことにした。


 ダリアは戦いの後、疲れているようだったが、宿屋で雨に濡れた衣服を着替え、少し休むとすぐに「やっぱり、もう少し食べておくか」と昼食を買った店までパンを買いに行った。


 しょうがないので僕もついて行き、僕がきちんと店員さんにお金を渡したのを確認すると、揚げパンをもらっていた。もらった揚げパンをおいしそうに食べるダリアが、少しだけシズクの姿と重なって見えたのは、きっと僕の気のせいなんだと思う。


 兵士に付き添っていたトワルさんから聞いた話によると、盗賊たちはユジーヌまで連れていかれ、牢屋に入ることになったらしい。これまでにも盗みを働いていたとなると罪は重くなるかもしれないが、過ちを犯したからと言って、人生は終わらない。きちんと罪を償ったら、やり直して人のために生きてほしい。


「それと、村長から明日の朝、旅人さんたちを連れてきてほしいと言われたんですが」


 トワルさんにそう言われ、翌朝、村長の家に向かった。


「いやあ、本当にありがとうございました。あなた方がいなければ、今頃どうなっていたか」


 白髪の村長は、満面の笑みを浮かべてそう言った。ダリアはどうでも良さげだったが、一応、話は聞いている。


 トワルさんは宿屋があるので、フィルに案内してもらい、三人で家にやってきたのだが、ダリアは連れてこなくても良かったかもしれない。


「いえ、あのまま見過ごすことができなかっただけなので」


「なんと立派な! 旅人さん、これはほんの気持ちです」


 村長は重そうな小袋を、僕に渡した。開けてよいか確認してから、中を見ると硬貨がぎっしり詰まっていた。


「これはもらえません! このお金は、村のために使うはずのお金なんでしょう?」


 慌てて突き返したが、村長は受け取らない。


「村の者たちには許可をとっています。それに、あなたの言う通りだ。これは村のためのお金です」


「それなら……」


「だからです。あなたはその子を助けてくれた。あの盗賊たちは、フィルが言うことを聞かなければ、けがをさせたかもしれない。もちろん、私もね。村は人でできている。だから、それを守ってくれたあなたに受け取ってほしいんです」


 村長は真剣な表情をしていた。考えは変わらないようだ。


「いいんじゃないか、もらっておけ」


 家の中の家具や飾りをなんとなく見ていたダリアが会話に入ってきた。


「金というのは、何かを得るために支払うものだろう? そいつは金を払うにふさわしいものを得たということだ。受け取らなければ、それを否定することになる」


「……わかりました。ありがたく使わせていただきます」


 お金を受け取ると、村長は再び笑顔を見せた。


「ところで、お二人はユジーヌに向かわれるのですよね」


「はい。よろしければどういったところか、お聞かせいただけますか?」


「もちろんです。ユジーヌは城を中心にして、その周りにたくさんの工場がある街です。元々、各家庭で材料や道具を準備して、衣服や工芸品を作っていたのですが、工場を作って、一か所で作業させる方が効率が良いようで。この村からも工場の建設や作業のために、多くの村人が働きに出ています」


 トワルさんが言っていた通りのようだ。人が集まるところは活気があるので、さぞ街も発展していることだろう。ある程度情報を聞いた後、最後に村長が、


「そういえば、ユジーヌでは年に何度か、城でダンスパーティがあるみたいです。一般からも参加できるようでしたら、お二人も行ってみたらいかがですか」


 と僕たちを見て言った。


 僕とダリアが? 全く想像できなかったが、「わかりました」と返事をして、僕たちは村長の家を出た。


「お話が長くて、疲れちゃった」


 僕たちのじゃまをしないように、静かに待ってくれていたフィルが話しかけてきた。


「ごめんね。宿屋に戻ろう」


 しかし、ダリアがそれに異を唱えた。


「いや、その前に寄る場所がある」


 いつになく真剣な表情で話すダリアの様子に、僕は困惑する。そんな場所あったっけ。


 ずんずん先を歩くダリアについて行くと、またパンが売っている店にたどり着いた。


「さっきもらった金でパンを買ってくれ」


 こいつ。いいこと言ったと感心していたのに、パンが食べたいだけだったんじゃないのか? ため息をつきたい気分だったが、食料はどのみち必要だったので、買っていくことにした。


「お姉ちゃんはパン、好きなんだね」


 パンを袋に入るだけ買い、気分良さげなダリアにフィルが言った。


「まあそうだな。特にこの揚げパンとかいうのが気に入った。普通のパンでもうまいのに、わざわざ油で揚げて、砂糖までかけてある。このうまさは悪魔的と言える」


「おいしいよね、揚げパン。あたしも好きー」


「しょうがない、お前にも少しやろう」


 すでに袋から一つ取り出していたダリアは、それをちぎってフィルにあげた。


「やったー。……うん、やっぱりおいしいねえ」


 二人のやり取りを、僕は少し意外に感じた。人間なんてどうでも良さそうなダリアが、自分の食べ物を誰かに分け与えるなんて。何か思うことがあったのだろうか。


 宿屋に着き、僕たちは荷物をまとめ、トワルさんとフィルに出発を告げる。


「もう少し、ゆっくりしていってもかまわないんですよ?」


 トワルさんが名残惜しそうに、言ってくれる。僕は後ろ暗さを感じつつ返事をした。


「ありがたいんですが、やらなければならないことがあるんです」


 そうだ。目的を忘れるな。僕の目的はシズクを元に戻すこと。そのために何を犠牲にすることになってもだ。


 目の前にいる二人は、まぎれもなく優しい人たちだ。そんな彼女たちも、悪魔が復活した時にはどうなるかわからない。僕のせいで。


 僕の様子を心配してか、フィルが手を握ってきた。


「大丈夫? こうするとね、何だか落ち着くの」


 不安そうな顔をしながら見つめる彼女に、僕は取り繕うように明るく話した。


「ありがとう。なんだか少し元気になったよ」


 そう言うと、フィルはにこっと笑い、


「良かった。お兄ちゃんとお姉ちゃん、二人でまたおうちに来てね!」と僕らに言った。


 彼女の言葉に返事をできないでいると、ダリアが「ああ、またな」と返した。


 宿屋を出て、二人きりになると、僕はすぐにダリアに聞いた。


「……どういうつもりなんだ。目的を果たしたら、お前は悪魔に戻る。もう僕たちが二人でここに来ることはないはずだ」


「そんなことを気にしていたのか。確かにそうだ。私は力を取り戻したら、この村も滅ぼすだろう」


「それならなんで……」


「……理由なんてない。ただ、あそこではそう言うべきだと思っただけだ」


 僕には理解できなかった。将来滅ぼす村の少女に、再会の約束をする。それは、どんな感情からやってくるものなのか。


 それ以上は何も話す気持ちにならず、お互いに言葉を交わすことなく先を急いだ。



 夕方、村で聞いていた宿泊できる小屋の近くまで来た時、ダリアが話しかけてきた。


「ところで、ユジーヌまではどれくらいあるんだ?」


「トワルさんに聞いたら、歩いて行けば二日、馬に乗っていけば一日くらいで着くらしい」


 僕の話を聞いたダリアは責めるような顔をして、


「それなら、なぜ馬を使わないんだ。また金か、金がかかるからか!」


 そんな金の亡者みたいに言わなくても……。


「……確かにそれもあるけど、今回はタイミングが悪かったんだよ。ほら、盗賊たちを捕まえただろ。その報告に村の兵士たちが、ユジーヌまで馬に乗って行ったんだ。だから馬小屋の馬がいなくなったってわけ」


「あいつら、どれだけ迷惑かければ気が済むんだ」


「まあまあ」


「……お前はなぜか浮かれているように見えるが?」


 意外と鋭いなこいつ。愛想笑いでごまかそうとするが、許してはもらえなそうだ。


「……実は今日泊まる予定の小屋近くの湖で、目撃情報があって」


「何のだ」


「その、竜の……」


 ダリアは一瞬きょとんとしていたが、次第にハハハと大声で笑いだした。


「いるわけないだろ、そんなやつ。誰かが流したホラ話だ」


 僕だって、信じてるわけじゃない。でも、完全にいないとも言い切れないというか、なんというか。とりあえず、そこまで笑わなくてもいいじゃないか。


「うるさいうるさい。先に行くぞ」


 僕はダリアを置いて、湖近くの小屋へと向かった。しかし、やっぱり気になって、湖の方に目をやった。うん? 何だ、あれ?


「ムキになるな、子どもかお前は。……どうした?」


 後ろから追いかけてきたダリアが、僕に尋ねてきた。


「いる」


「何が? まさか本当に竜がいるんじゃないだろうな」


 僕は首を振り、夕日が反射し輝く湖に、急いで駆け寄りながら叫んだ。


「人だ! 誰か倒れている!」


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