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僕は勇者の勇者になる  作者: 三浦サイラス
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24話 ミチヒトとナタラ

「……ミチヒト?」



 ほら、さっさと起きてくれ那谷羅。でないと、燕崎にドヤされるんだよ。



 「……何しにきた?」



 オレは借りを作るのが嫌いでな。借りちまったら絶対に返すって決めてんだ。



 「気にするな。その生命はお前のモノだ」



 この生命はお前のもんだよ。オレの生命じゃない。



 「私はもう……生きる気はない」



 聞いたのがオレでよかったな。燕崎だったら大泣きしたかもしれん。



 「私は使命を果たしている。生きる理由がないんだよ」



 使命、ね。



 「虫や動物が子孫を残すという使命を果たせばその命を散らすように……私はもう死んでいるべきなんだ」



 お前は虫でも動物でもねぇだろ。人間だ。



 「そんなワケない。言っただろ? 私は世界が生んだ人形だ」



 だったらなんで魔王を倒したお前は生きてたんだ? 使命ってのを果たせば命を散らす昆虫と違ってお前は生きてる。モノだってなら、やる事やった後は止まるか壊れるはずだ。なのに、お前にはそんな様子が微塵もない。自覚あるだろ?



 「それはきっと……余力のようなモノだ。ミチヒトに生命をあげなくとも、私はじきに死んでいただろう」



 それにしちゃ長すぎるな。



 「……実感がないだけだ」



 そうだな。そうかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない。



 「…………」



 なあ、那谷羅。お前、死にたいなんて思ってないだろ?



 「……そんなことはない」



 だったらおかしいんだよな。死にたいヤツがバッタとかカエルに目を輝かせたり、気に入った服買ったり、デート楽しんだり、また遊び行く約束したりさ。これ、死にたいヤツの行動か?



 「それは……」



 死にたいヤツってのはな。目なんか輝かせないんだよ。そもそも人と関わったり、好奇心を持ったり、遊んだりなんかしない。誰とも関わろうとせず、たった一人で誰にも知られず勝手に死んでるのが、心の底から死にたいと思ってるヤツなんだよ。



 「…………」



 勇者ディバーンはマルリリク王国から逃げた先にあったこの世界で、那谷羅心梨となって生きようとした。別世界にやってきた真っ当な女の子として、な。



 「……違う」



 違わないね。お前が学校生活を楽しんでるのだってバレバレなんだぞ?



 「違うッ!」



 …………



 「私はミチヒトの世界を楽しみたくなんかいッ!」



 ……怖がるのは無理ねぇよ。お前は一度失敗してるんだからな。



 「……え?」



 自分勝手な妄想だが、お前は魔王を倒した後、王国で楽しく生きたかったんじゃないか? 義務(ノルマ)だとか人形だとか言ってたが、王国を平和にした後を想像してたんじゃないのか? でなければ魔王を倒した後、燕崎と一緒にいないと思うんだよな。本当に世界を救うだけの義務(ノルマ)人形ってなら誰にも知られず消えてるはずだ。



 「…………」



 でも、勇者の使命であり、人々が勇者に求めていた魔王退治はお前の理想を葬った。民衆から非難されて、存在意義を問われて――自分が平和を乱していると判断したお前は別世界に逃げた。逃げた先が勇者の力だけ震う悲しい世界だと信じて。言ってたもんな。



 「……やめろ」



 でも、逃げた先は楽しい世界だった。おせっかいな男と知り合って、女子の友人ができて、嫌われた仲間(パーティ)と仲直りしてさ。こんなの全く想像しなかっただろう。だから、最悪を想像したんだ。



 「やめろ」



 こんな最高で素晴らしい世界にまで拒絶されたら自分は全てを破壊してしまうって。



 「ッ!」



 拒絶に耐えられない心はドス黒い悪意になる。その時、勇者はこの世界を破壊する魔王に変わってしまうんじゃないかって怖くなったんだ。



 「やめろ……」



 自分から世界は否定できない。そんな事ができる強くて弱い心を、那谷羅心梨は持ってないから。だから、死にたくないのに死にたいという矛盾を抱えている。



 「やめ、て……」



 じゃ、こっから本番な。はっきり言うぞ。お前、この正義道人をナメてんだろ。オレがそんな最悪展開にするワケねーだろが。



 「……え?」



 オレはこの世界が残酷って言ってもやんねーし、苦しいことばっかりとか、嫌なことしかないとかも言ってやんねーし、後悔だってさせてやんねーよ。



 「そ、それはどういう……?」



 だからなめんなって言ってんだよ。オレはピチピチの十代で、別世界から来た女子の世話をやけて、その女子の面倒事に巻き込まれても泣き言一つも言わない、偉大で立派な男なんだ。そろそろ理解してもらいたいね。



 「ミチヒト……」



 せっかく知り合ったんだ。だったら、いつまでも那谷羅心理に正義道人という人間賛歌を見せ続けてやるよ。



 「……不思議だ。ミチヒトの言ってる事がハッタリに聞こえない」



 オレは総理大臣になる男だぞ? 当たり前だ。



 「そうだな。さすがミチヒト。私の勇者だ」



 さ、もう行こうぜ。燕崎がイライラしてる頃だ。



 「なあ、ミチヒト」



 なんだ?



 「これからは……私にもその口調で喋ってくれるか?」



 ああ。きっかけが詰多だったのは後悔する所だが。



 「フフフ、そうだな」



 お、笑い顔いいな。みんなにも見せてやれよ。燕崎が鼻血吹き出すシーンみたいし。



 「ミチヒト……これから思い出をいっぱい作ってほしい」



 もちろんだ。



 「…………」



 なんだよ?



 「まあいい。こういうのは時間をかけるべきだと聞いているからな」



 お前、オレが察してる可能性考えてないな?



 「察しているのか?」

 そんなの正直に言えるかッ!


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