第9話 作戦会議
この周回では、新たな攻略候補も見つけられず、ひかりと優花さんに関しても、何も掴めないまま、金曜日を迎えた。
金曜日の放課後、月曜日と同じ喫茶店で凜と合流した。喫茶店の名前は『ドゥ・アメール』。
凛から、店名はフランス語で、日本語で簡単に訳すと『ほろ苦い』という意味だと教えられた。
店内は静かで、小さくジャズが流れている。
外の雨の音と店内の静かな雰囲気が対照的で居心地がいい。
前回と同じ、一番奥の席を陣取る。
凛がノートを開き、シャープペンを取り出す。
「さぁ、一つずつ整理していこう、ね」
静かな口調だが、凛の気合いを感じた。
「まずは、攻略対象の女性について。私以外に、誰か発見してる?」
「うん、一人は」
「……誰?」
「花咲ひかり」
「……ひかりちゃん。納得。確か幼馴染で仲も良かったよね?」
去年は、オレも含めて3人とも同じクラスだった。2年生になり、オレとひかりは文系進学クラスに進み、ひかりは情報クラスを選んだ。
オレはひかりの親愛度のことや、何度攻略に挑んでも、全く親愛度が上がらなかったことを説明した。
ふむふむ、と、凛はノートに情報をまとめていく。
「ひかりちゃんのことはわかった。他に候補や気付いたことは、ある?」
「気付いたことねぇ……そう言えば……」
オレは、優花さんの月曜日の朝のループのことと夜の会話のことを話した。
「……それ、確定じゃない?」
「確定?」
「奏多、にぶい、ね……その優花さんという人、攻略対象で確定、だと思う、よ」
「え?何で?」
「ひかりちゃんと同じようにループしている」
「それだけで、確定?」
「ほぼ、間違いない、よ」
「……じゃあ、やっぱり攻略対象か」
凛の言葉には確信が込められていた。
「でも、夜に話しても親愛度は現れなかった」
「それは、奏多の完全な失敗。いきなり『彼氏、いるの』は、無い。引く」
「うっ」
返す言葉が無い。
「でも、アプローチしたことは良かった、よ。次は違う声の掛け方をしてみるといい、かな」
「そうだね、そうしてみる」
素直に凛のアドバイスを聞き入れた。
「次にひかりちゃんの親愛度について……」
「うん、ひかりの親愛度が『50』から『40』に下がった」
「……おかしい、ね」
少しの間、凛はシャープペンで顎をとんとんしながら考え込む。
「これは仮説だけど……」
遠慮がちに凛が話し始める。
「この世界のゲーム的なギミック……じゃない、かな?」
「ゲーム的なギミック?仕掛け?」
「そう、攻略を難しくするためのギミック。何かの条件でひかりちゃんの親愛度は下がった。ひかりちゃんの攻略は難しく設定されているの、かも」
「条件で下がるってことか。凛を攻略したから、ひかりの親愛度は下がったのかな」
「まだ、はっきりとは、わからない。あくまで仮説、ね」
凛は、ノートに書きつらねていた、ひかりに関する内容の上に“仮説”と大きめに書き、丸で囲んだ。
そして、コーヒーを一口飲んだ後、凛の視線が少しだけ鋭くなる。
「それにしても……嫌だ。『凛を攻略した』って言い方、めちゃくちゃ嫌、だ。ひかり、凛って女の名前を続けて呼び捨てにするのもなんかチャラい、ぞ」
「……うっ!」
「ご……ごめん」
「うむ、分かればよろしい」
「話を戻す、ね……私にも一人、心当たりがある、よ。でも、確証はない。次の周回は、その子を試してみて、ね」
凛の声が少しだけ沈む。
「わかった。来週はその子に集中する」
凛はコーヒーを一口飲んだあと、ノートの前のページを開く。
「あと一つ確認しておくことがある、よ」
「何かな?」
「奏多が月曜日に教えてくれたこの世界のルールに、追加しておくことがある、よ」
「追加?」
「そう、追加。それも重要な追加」
「何?」
「親愛度が『100』になると、リセットされていた時の記憶が蘇る。そして、月曜日になっても記憶は消えなくなる。これ、かなり重要、だよ」
「確かに!」
「今日話すことはこれぐらいだ、ね。作戦会議は、今日はおしまい、ね」
「もう?」
「他に話すこと、ある、でしょ?」
「他に話すこと?」
「気付かないと、怒る、よ?」
凛の目が座っている。
オレは、必死に考える。
「あ!明日、デートしよう」
「ギリギリセーフ」
「ふぅ、危なかった」
「明日はこの町の図書館でいい?凛の定期券で電車使えるし」
「うん、いい、よ。一緒に読書や勉強しよう、ね。お弁当、用意する、よ」
「あ、ありがとう」
「あ、この町だと、誰かに見られるの気にしなくていい、の?」
「月曜日にはみんなリセットされるから、誰かに見られても大丈夫」
そう、誰かに見られても、月曜日には、みんな忘れる。
「そう、だね」
少しだけ間が空く。
「でも……」
「まだ分からないことが多い、ね」
「ああ、そうだね」
「でも、明日は楽しもう、ね」
明日の集合時間と場所を決めて、喫茶店を後にした。
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