第10話 表示されない数字
土曜日。
しとしとと雨が降る中、駅前で傘をさして待っていると、改札口から凛が出てきた。
花柄の半袖でロング丈のワンピースに白いカーディガンを羽織っている。凛に似合っていて、思わず見惚れた。
二人はお互いに傘をさし、並んで図書館に向かった。
今日は、読書ではなく、勉強をすることにした。課題がたくさん出ているからだ。
国語は凛が奏多に教え、数学は奏多が凛に教えた。他の教科は二人で協力して解いた。
ただ二人で、勉強しているだけなのに幸せな気持ちになった。
お昼は、凛が作って来たおにぎり弁当を二人で食べた。
少し整っていないタコさんウィンナーもとてもおいしかった。
デート中は、この世界の攻略についての話は一切しなかった。もちろん、他の女の子の話も。
恋人として、このループしない一度きりの二人の時間を楽しんだ。
昼食を挟んで、夕方までみっちり勉強したおかげで、一日で課題は終わった。
帰り道は、雨が止んでいて、手を繋いで駅まで向かった。
いつもは改札口前で別れるのだが、名残惜しくて、入場用の切符を買って、オレもホームについて行った。
電車の到着を待っている途中で、小さくハグをした。
電車の到着とともに、この日のデートは終わったのだった。
日曜日は、会わずに、通話アプリで話したり、メッセージを交換したりした。
――――――――――
月曜日。
朝、ゴミ置き場の前で優花さんと会い、いつもの会話を交わす。
学校前の交差点で、ひかりと会う。
「お、思春期の少年、おっはよー」
「おはよー。だから、思春期じゃねーし」
前の周の火曜日と同じ会話を交わす。凛攻略後のこの世界では、ひかりとはこの会話がループされるようだ。
――――――――――
昼休み、弁当を食べ終えると、廊下に出て、情報クラスの方へ向かう。
しばらく進むと、窓際に立って、友達と話している女子の姿が目に入る。
明るい声。よく通る笑い方。
中心にいるわけじゃないのに、自然と目を引く。
気付けば、周りの空気まで明るくなっている。
風野 彩芽。
凛が言っていた『心当たりの子』とは、風野彩芽のことだ。
彩芽も去年は同じクラスだった。誰とでも話す明るい子で、当然オレも会話をしたことはある。
奏多に気付いた彩芽が友達と話していたテンションのまま、奏多に声を掛ける。
「あれ、早川くんじゃん。こっちに来るの珍しいね。元気にしてる?」
「やぁ、風野さん、久しぶり。元気だよ。風野さんも、元気そうだね」
「あたしはもちろん、元気モリモリよ!」
笑いながら、力こぶを作って見せる。そんなに筋肉は出てないが。
「それにしても、こっちに何か用?仲の良い男子、こっちにいたっけ?」
「ええ、と。早川さんに用があって……」
「え?あたし?どういう風の吹き回しよ。あ、風野だけに」
言って、自分でケラケラと笑っている。
「いや、あのさ、今日の放課後、一緒に帰らない」
周りの女子たちが驚いた表情をしてざわざわする。
しまった!場所を変えて話すべきだったか。
動揺するオレとは対照的に、彩芽は明るい笑顔のまま、
「うん、いいよ。一緒にかえろっ!」
即答だった。
近くにいた、関係ない男子たちも騒めく。
彩芽は、そんな周囲の雑音など気にならない様子だった。
――――――――――
放課後、待ち合わせの昇降口前で、待っていた。
朝から降り続けていた雨は嘘みたいに止んでいた。
まもなく彩芽が姿を見せた。
「かなたん、おっまたせーー!!」
「はぁ?かなたん!?」
「奏多だから、かなたんじゃん!」
「いや、そういう問題じゃなくて……今までそんなに話したことないし」
「そんなの気にしてるの?大衆の面前で堂々と誘っておきながら」
昼と同じようにケラケラと笑う。こちらも明るい気持ちにしてくれる、そんな笑い方だ。
「まぁ、好きなように呼んでくれていいよ。じゃ、帰ろうか、風野さん」
「はぁ?風野さん??」
両手を大袈裟に広げて「そりゃないよ」とわざとらしい溜息をつく。
そして、何か思い付いたように手のひらをグーで叩いた。
「ひらめいた!かなたんはかなたんだからぁ……あたしは、あやめん!!」
「あ、あやめん!?さすがにそれは……無くない?」
「あたしも無理!」
そして、お腹を抱えてケラケラ大笑いしている。
ほんとによく笑う子だ。
オレも抑えきれずに、声を出して笑った。
「かなたん、やっと笑った。なんか一安心。あたしのことは好きなように呼んでいいよ」
「うーーん、あやめんはセンスを感じないから……あやむん?」
「ぶはっ!あやむんて何だよ。むん、はどこから来た?てか、あやむんもセンス感じねー」
ケラケラとまた大笑い。
オレも一緒に大笑いした。
「あははははは、あやちゃん、昇降口前からずっと動けない……このままここで夜明けを迎えそう」
「お、今夜は野宿か。それもありだねーー」
お腹を抱えて二人でひとしきり笑ったあと、ようやく歩き始めた。
「かなたんもなかなか面白いな。去年、もっと話しとけば良かったなー」
「あやちゃんワールドに引き込まれただけだよ。こんなに笑ったのいつぶりだろってぐらい、笑わせてもらったよ」
「しめしめ、作戦通り。あやちゃんワールドはアリ地獄のように、もうかなたんを逃がさないぞ」
「まぁ、楽しいからそれでもいいや」
ずっと楽しく会話を続けながら歩いているうちに、オレのマンションの前に着いた。
「ごめんね、回り道させちゃって」
「ぜんぜん大丈夫。いやー、ほんとに楽しかった」
「こちらこそだよ。明日はお腹、筋肉痛になりそう」
「あはは。普段クールな、かなたんがたくさん笑ったからね。……ね、かなたん。よかったら明日も一緒に帰らない?」
「いいよ、明日も一緒に帰ろう」
「やった!なんか超うれしい!」
「そんなに喜んでもらえてオレも嬉しいよ。じゃあ、明日の放課後も昇降口前でね」
「うん、わかった。また明日ね」
「「バイバーイ」」
二人一緒に手を振る。
家路に着いた彩芽をオレはしばらく見送った。
それに気付いた彩芽は嬉しそうに手を振る。
本当に楽しい時間だった。
これだけ楽しい時間を過ごしたんだ。
――確かな手応えがオレにはあった。
それなのにーー
彩芽の頭上には、
何の数字も表示されていなかった。
……ありえない。
まるで、『対象じゃない』みたいだ。
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