第7話 二人で進む世界
500メートルの道のりは短い。
凛と放課後に改めて話すことを約束しているうちに、正門前に到着した。
凛はいつものように、オレから離れ、クラスの女子たちの輪へと入っていく。
それを見届けているオレに声がかかった。
「……奏多、おっはよーー!」
花咲ひかりの声だ。
思わず、息が止まる。
「……何、ぼーっとしてるの?早く行かないと遅刻するよ」
――ループしているけど、何か違うような……
何かが引っかかる。
ほんのわずか。
説明できない違和感。
それでも、オレはいつも通りの返事を返す。
「おう、おはよっ。てか、別にボーっとしてねーし」
「嘘ばっかり。美女に見惚れてたでしょ?このひかり様の目はごまかせませんことよ」
そして、
「おほほほほ」
と、高笑い。
そこには、さっきの違和感はなかった。
――気のせいか?
そう思いながら、何気なく視線を上げる。
ひかりの頭上。
そこにあるはずの数字を、
見た瞬間――
思考が止まった。
……ありえない。
『40』
え!?
目を疑う。
何度も見た数字。
前回まで、確かに『50』だった。色も黄色かったはずだ。
それが今はーー
緑色の『40』。
――な、何が起きた!?
なんで……下がってる?
今まで下がることなんて一度もなかった。
「ほら、行くよ」
ひかりがオレの腕を引く。
そのまま流されるように校舎に向かう。
――――――――――
放課後。
オレと凛は、駅から少し離れた喫茶店にいた。
古びた扉。落ち着いた照明。
凛は電車で学校に通っている。帰りの電車に乗り遅れた時、この喫茶店で本を読んで次の電車を待っているそうだ。
学校で話さない方がいい、という凜の判断で、この場所を選んだ。
実際に来てみて、凛がこの場所を選んだ理由がよくわかる。
誰にも邪魔されない。
ーー話すには、最適だ。
席を案内され、オレが先に座ると、凛が隣に座って来た。迷う様子もなく。
内心、戸惑ったが、口には出さなかった。
オレは話したいことが山ほどある。注文を済ませると、早速、話し始めようとしたオレを、凛が、
「ちょっと、待って」
と、言って止める。
そして、カバンからシャープペンと真新しいノートとを取り出して広げる。
「準備できた、よ。まずは、『この世界』について教えて」
凛に促されて、まずはこの世界について、オレが『知ってる』ことを話すことにした。
――そう、『知ってる』だ。
誰かに聞いたわけではない。
目覚めた時に、ただ知っていたのだ。
新学期、最初の月曜日。
朝、目覚めた瞬間に、オレは『知っていた』。
オレは順に説明した。
季節は過ぎるが、他の人のオレに関する記憶や出来事は一週間でリセットされ、ループすること。
相手はわからないが、5人の女性の親愛度を『100』にしなければならないこと。
親愛度が一度『100』になった女性の親愛度はリセットされないこと。
それともう一つ、
「……期限がある」
「期限?」
「そう、期限……来年の3月31日までにクリアできなかったら、この世界での出来事は、全部なかったことになる」
シャープペンを持つ凛の手が止まった。
「……全部、なかったことに……なる」
「……やだ」
「奏多と仲良くなれたこと……なくなるのは……やだ、よ」
考え込む、凛。しばらく沈黙が続く。
そして、意を決したように一度唇を噛み締めたあと、凛は再び語り始めた。
「……納得はいっていない。奏多が他の女の子を好きになるなんて……許せない」
「でも……なかったことになるのは……もっと、やだ、よ」
「……だから、協力する」
「二人……じゃなくて」
「……みんなで、4月を迎える」
少し間を置いて。
「そのために……私は、協力する、よ」
「あ、ありがとう」
オレはそれ以上、返す言葉が見つからなかった。
「……でも、約束して、ね」
「約束?」
「……そう、約束」
「他の誰かを好きになっても……私のこと……好きで……いてほしい」
凛の顔は真っ赤になっている。
葛藤の末に、凛が下した決断。
「……約束する」
「オレは凛のことが好きだ」
「この先、何回ループしても、変わらない」
「……約束……破ったら……許さない、よ」
「ああ」
オレは短く、答えた。
この世界のルールも、例外も、まだ見えないものだらけだ。
でもーー
一つだけ、はっきりしていることがある。
オレは、もう一人じゃない。
隣には凛がいる。
同じ記憶を持ち、
同じ世界を見て、
同じ先を目指す存在。
これからはーー
――二人でこの世界を進む。
ここまでが第1章になります。
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