第6話 変わった世界、変わらない君
月曜日の朝。
布団に包まれ、目を覚ます。
――いつもの……月曜日?それとも……
目の前には、いつも通りの天井がある。
「奏多、早く起きなさい」
母の声。
いつもと変わらない?
次の言葉を生唾を飲んで待つ。
「……今朝は少し冷えるわよ」
――変わった。
いつもは――
「朝ごはんできてるわよ」だったはずだ。
小さな違い。
でも、確実な違い。
制服に着替えてリビングに向かう。
「おはよう、奏多」
ここまでは同じ。
「今日の玉子焼きおいしいぞ」
――やっぱり、変わってる。
いつもは「遅刻するなよ」だった。
先週までの月曜日と違う朝を迎えることができたんだ。
――――――――――
マンションのエントランスを出てゴミ置き場にさしかかる。
そして――
そこには優花さんがいた。
「おはようございます」
これまでと同じように元気よく挨拶をする。
「あら、奏多君おはよう!奏多くんも高校生かぁ。大きくなったねー」
その言葉に、オレの息は止まった。
いつも通りの優しい声。
柔らかい表情。
――同じだ。
なんで……
父も母も変わっていたのに、
優花さんだけは、何一つ変わっていない。
不気味なほどに、完璧に『いつも通り』だった。
「そういう優花さんも、女子大生になっちゃったじゃないですか」
「うふふ、そうね。あ、遅刻しちゃったら悪いからこのくらいにしとくね。元気に学校がんばっておいで。奏多くん、いってらっしゃい」
笑顔で手を振る。
全く同じ。
言い回しも、間も、表情も、仕草までも。
この世界は――
何かがおかしい。
――――――――――
通学路をいつもと同じ、凛と会える速さで進む。
考えなくても、身体が完璧に覚えている。
角を曲がる。
いつもなら、前を歩いている凛の姿が見えるはずだ。
――いない。
そう思った瞬間。
「おはよう、奏多」
そこにいたのは――
水無瀬 凛。
いつものように本を片手に、前を歩いているのではなく、待ち構えていた。
一瞬、言葉が出ない。
「……どうした、の?」
凛が、オレの顔を覗き込む。
でも、決定的に違うものがあった。
「……覚えてるのか?」
思わず、口に出していた。
凛は一瞬だけ目を細めて、
それから小さく息を吐く。
「……うん」
静かに、でもはっきりと。
「全部、覚えてる」
この世界は、変わっている。
そして――
――オレと凛は、前に進んだ。
「……凛、良かった」
オレは思わず抱きしめたい衝動に駆られるが、学校は目の前。多くの生徒が歩いている。
抱きしめるのは我慢した。
オレの心を見透かしたように、
「……ふふっ」
と、凛が静かに笑う。
そして、一歩、こちらに近づく。
「……もう私を『攻略』する必要はない、よ」
「わ、わかってる」
凛は、すぅっと息を吸い込む。
「……奏多も昨日のこと覚えていて良かった。奏多が忘れていて、また攻略しようとしてこないか、心配だった、よ。私はまだ記憶も心も整理ができていない……記憶に心が追い付かないという方が正しい、かも」
「だから……」
「……ちゃんと、話を聞きたい。この世界のこと、奏多が知ってること、全部、教えてほしい」
まっすぐな目で、そう言う。
オレは、ゆっくりとうなずいた。
「ああ」
もう、『一人で進む世界』じゃない。
その実感が、確かにあった。
凛が隣に並ぶ。
自然に、歩き出す。
凛が隣にいる。
それだけで、十分だ。
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