第60話 ありのままの笑顔
1月1日。
オレは地元で一番大きな神社の鳥居の前にいた。
多くの参拝客が、オレの前を行き来している。
その人混みの中、近づいてくる彩芽を見つけた。
彩芽は、オレより先に気づいたようで手を振りながら、駆け足でやって来た。
「かなたん、お待たせー。待ったでしょ?」
「いや、全然」
「うそだー。待っててくれてありがと。道が混んでてさ」
「そんなことより……髪飾り……」
「お、さすが、かなたん、気づきましたか。かなたんからもらった髪飾り、もらった時以来のお披露目でーす」
今日の彩芽は、イヤリングも付けず、シンプルに髪を下ろしていた。それもあって、花柄の髪飾りがとても綺麗に彩芽の髪の上で、本当に一輪の花のように咲いていた。
「ね、似合ってる?可愛いでしょ?可愛い以外、選択肢ないでしょ?」
「選択肢、あるよ」
「えっ、いまいちとか言わないでよ」
「あやちゃん、めちゃくちゃ可愛い」
「結局、『可愛い』じゃん!」
「『めちゃくちゃ』が大事なんだよ。なんで今まで付けなかったの?山登りの時とか」
「えー!!山登りの時に付けられるわけないじゃん!!私だけかなたんからの髪飾り付けて行くなんて、そんな恥ずいことできないし!!」
「えー、そこで付けてくるのがあやちゃんじゃない?」
「できなーーい!!」
言って、彩芽はケラケラと笑う。つられるようにオレも一緒に笑った。
鳥居に向かって一礼した後、くぐる。
参拝の列は、鳥居のすぐ手前まで長く伸びていた。
オレと彩芽はその最後尾に並んだ。
割とスイスイと列は進んでいく。
参道の両脇には、たくさんの露店が並んでいる。
「ねぇ、かなたん、参拝した後、イカ焼き食べない?」
「え、イカ焼き?オレはりんご飴食べたい」
「えー、りんご飴?」
「オレ、甘いの好きだから」
「あはは、知ってるし。なら、イカ焼きとりんご飴ね!」
「いや、りんご飴とイカ焼きは同時に食べれないでしょ?まずはりんご飴だけね」
「な、何だと!?なら、イカ焼きが先でいいじゃん!イカ焼きの後のデザートでりんご飴」
「うーん。りんご飴から食べたい」
二人は、笑い合いながら、他愛もない会話で盛り上がり、あっという間に参拝の順番が回ってきた。結局は、彩芽案を採用し、イカ焼きを二人で食べてから、りんご飴を1個ずつ買うことで決着した。
いよいよ参拝の順番が来た。
二人で一本の鈴緒を握り、二人で鈴を鳴らした。
礼と拍手の後、手を合わせ、心の中でお願い事をした。
参拝の後、彩芽が聞いてきた。
「ねぇ、かなたん。かなたんはどんなお願い事したの?」
「え、オレはいろいろ」
彩芽は意味ありげに目を細める。
「いろいろねー。そりゃ、たくさんの女の子たちがいるから、願い事も多くなりますよねー」
「そ、そんなんじゃないし!」
彩芽はケラケラ笑う。
「そ、そういう彩芽は、どんなお願いしたんだよ?」
「あたしは一つよ。来年もかなたんと初詣に来れますようにって」
「来年も……」
「そう、来年も」
彩芽と一緒に初詣に来る来年を、オレたちは迎えることができるのだろうか……
少しオレの顔が曇ったのかもしれない。
彩芽は明るく言ってきた。
「あ、『二人きりで』とは、お願いしてないからね!凛ちゃんたちと一緒でも全然構わないからね。この色男!!」
彩芽はまた笑った。
彩芽は、学校の廊下で会ったときからよく笑っていた。そして、一緒に帰る帰り道でも、ひたすら笑っていた。
なのに、親愛度は全く現れなかった。
オレは、繰り返すうちに、彩芽の笑顔は周りを心配させないための笑顔、自分を守るための笑顔であることに気づき始めた。
それに気づいたオレは、彩芽の心に土足で踏み込もうとして完全に拒絶された。
「……なんか残念。かなたんとは仲良くやっていけると思っていたのに」
「ううん、いいよ。かなたんの優しさだったと思うし。じゃあ、今日はこれで帰るわ。学校で会ったら、また楽しく話そうね。バイバーイ」
そして、受け止めることの大切さに気づいた後の、プールでのデートを経て、次の日の彩芽の笑顔はそれまでと違っていた。
今は自然と見せるようになった柔らかい笑顔。
誰かを心配させないためでもない、自分を守るためでもない、ありのままの笑顔。
彩芽は今でも、過去のことや、今苦しんでいることをオレに話すことはない。
でも、それでいい。
いつか話したいと思ったら話してくれればいい。話したくないなら、話さなくてもいい。
オレはただ、ありのままの彩芽を受け止める。
オレたちはお守り売り場に移動した。たくさんの人でごった返している。
「ねぇ、かなたん、おみくじ引こっ?」
「うん、いいね」
お守り売り場の正面にあるおみくじコーナーを見る。子供おみくじ、恋愛おみくじ、たくさんのおみくじが並んでいる。オレたちは普通のおみくじを引くことにした。
「せーの、で同時に引くよ」
「待って、よく選ぶから」
「いくよー」
「「せーの!」」
二人同時に掴んだおみくじを引き上げる。
「ではでは、かなたんから開いて!」
「え?そこは同時じゃないの?」
「だってドキドキするじゃん!」
「オレから開いたらドキドキしないの?」
「先にかなたんの大凶見といたら安心じゃない?」
「はぁ?何それ?てか、大凶は出ないだろ?」
「まぁまぁ。とにかく開いてくださいまし」
納得はいかないが、彩芽に促されるまま、おみくじの紙を開いた。
そこに書かれていたのは……
ーー凶。
「う、うわぁ」
「ちょ、ちょっと引き直していい?」
「ダメに決まってるでしょ。かなたんの今年の運勢は凶に決定でーす」
彩芽はケラケラ笑う。
「じゃ、じゃあ、彩芽も開いてよ」
「あはは、かなたんの凶の後は気持ちが楽だわー。あたしが大吉引き当てて、かなたんにも運を分けてあげる」
「お、おう。よろしくな」
「それでは開きまーす!」
彩芽は、目を輝かせながら、おみくじを開く。
おみくじの結果は……
ーー凶。
「……」
「……」
「まぁ……」
「と、とりあえず……」
「りんご飴食べよ?」
「イカ焼き食べよ?」
この後、二人が何を食べるかで再び揉めたのは、言うまでもない。
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