第56話 ひかりの軌跡4
かなたは彩芽の攻略を繰り返していた。
今年の梅雨は本当に梅雨らしく、雨の日が続いた。
私が6回目の「雨もしたたるいい女」を演じた翌日から、曇りはするものの雨は降らなくなった。もう、あの台詞を言わなくて済む。
かなたが彩芽と下校するようになって5周目だった。
この週は木曜日で終わりではなく、金曜日もかなたは彩芽と一緒に下校した。
この日は、雲一つない晴天だった。
二人は、会話を弾ませながら、適当な道順で帰る。
二人は、かなたのマンションの近くまで来ると立ち止まって会話をしていた。
最後に、二人はお互いに手を振って別れた。
何か胸がざわめいた。
土曜日、かなたの後を追跡した。
かなたは、駅へ向かったので、凛ちゃんとのデートかと思っていた。
だが、駅前で待っていたのは、彩芽だった。
はしゃぎながら、彩芽はかなたと腕を組む。
そのまま、電車へと向かっていく。
私は、脳が追いつかないまま、後を追い、同じ電車の別車両に乗る。
二人がたどり着いた先はレジャープールだった。
このレジャープールもかなたと一緒に遊びにきたことがある。
小学生になってから4年生まで、毎年、どちらかの親に連れられて一緒に遊びにきた。
怖がるかなたをスライダーに乗せるのが楽しかった。
私は、中に入ることはせず、家に帰った。
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日曜日、私はまた、かなたのマンションの前に潜む。
かなたは、マンションから出てきて今日も駅の方に向かった。
昨日と同じ場所で、今日はかなたが待つ。
すると、彩芽が駆け寄ってきた。
いつものように明るい彩芽だった。
でも、昨日のように腕は組まず、手も繋がなかった。
二人並んで、駅前のショッピングモールに入っていく。
迷ったが、私は後をつけた。
二人は、洋服を見たり、雑貨屋を覗いたり、クレープを食べたりした。
彩芽の様子が普段と違うと感じた。
明るい笑顔はいつも通りなのに、どこか落ち着いていた。
二人は軽食をとり、午後もデートを続けた。
私は、空腹を感じなかった。
夕方になり、二人は近くの公園に移動した。
当然、追跡する。
ベンチに寄り添って座る。
しばらく二人は無言だった。
その後、静かに会話が始まった。
二人は、会話を続ける。
夕焼けに染まっていた彩芽の顔が、ふと一段と赤くなる。
その後、何かが起こった。
彩芽は大きく目を見開いた後、しばらく固まる。
その後、優しい顔になった彩芽は何かを語り始め、泣き出した。
私が見ているのは、二人が結ばれる瞬間なんだと直感で分かった。
彩芽は、かなたの肩に頭をもたれかける。辺りが暗くなってからもずっとそのままでいた。
私も、ずっと立ち尽くしていた。
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翌日、7月15日、月曜日。
朝の通学路、私はかなたに声をかける。
この時点でかなたの頭上の数字は『40』のままだった。
「お、思春期の少年、おっはよー」
もう何度目か数えてもいない。
「おはよー。だから、思春期じゃねーし」
かなたは変わらず返事をする。
雨が降らないから、「雨もしたたる」はもういらない。
ループさせないといけないことを意識しながら、昇降口までかなたと歩いた。
そして、かなたは、私の頭上を確認した。
ああ、いけない。
かなたは、見てはいけないものを見ている。
私は、何も言葉にできなかった。
私の思った通り、かなたの頭上の数字は下がり始める。
『39』『38』『37』……『31』『30』
数字は『30』でピタリと止まった。
私の心がまた傷ついたのが、自分でもわかった。
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昼休み。
教室でぼーっとしていた。お弁当を食べる気にはなれなかった。
すると、廊下からかなたの声がした。
彩芽と話している。
私は動かずにはいられなかった。
楽しそうに彩芽と話すかなたに、
「順調そうね」
私はそんな言葉を口に出していた。
「……何が?」
かなたが返す。当然の疑問である。
私はなんと返すか一瞬迷う。
「学校生活、かな」
そう返すのが精一杯だった。
私は、逃げるようにその場から歩き去った。
かなたから逃げた私はそのままトイレに駆け込んだ。
そして、個室に入り、嘔吐した。
今朝は小さいロールパンを一つ食べただけだった。
吐瀉物は、そんなに多くなかったが、吐くものがなくても胃液が上がってきて、かなり苦しかった。
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その日の放課後は、体調が優れないため、かなたの尾行はせずに帰宅した。
そして、かなたからのメッセージも来なかった。
火曜日から、かなたの尾行を再開したが、登下校時には何も起こらなかった。
土曜日。
かなたは、朝から凛ちゃんと図書館デートをした。二人はもう慣れた様子で、自然と手を繋いで歩いていた。
日曜日。
朝からマンションの前で張り込む。
そこに、来たのは彩芽だった。
黄色いTシャツにショートパンツという派手な服装だった。
エントランス前で彩芽が待ち構えていると、かなたが出てきた。
かなたの驚いた様子からすると、サプライズだったようだ。
二人は楽しそうに駅の方へ向かい、アクセサリー店に入った。
しばらくして、二人が出てきた。
彩芽の髪の毛には、さっきまでなかった大きな花柄の髪飾りがつけられていた。
彩芽は嬉しそうにはしゃいでいる。
私もかなたからプレゼントをもらったことが何度かあるし、かなたにプレゼントをしたこともある。
高校合格後、頑張ったご褒美だと言って、ちょっとしたブランドのラウンドポーチをプレゼントしてくれたのが記憶に新しい。ライトブルーの生地で、花柄のエンボス加工がされていた。ロゴ入りの金具がアクセントで、とても可愛い。今でも大切に使っている。
そんなかなたが、今は恋人にプレゼントを贈っている。
しかも、恋人は二人いる。
昨日と今日、別の女性とデートをしている。
あり得ない。
この世界は、間違っている。
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