第55話 ひかりの軌跡3
その日の夜8時過ぎに、かなたからメッセージがきた。
『今日はどうだった?』
何に対して『今日はどうだった』のかさっぱりわからないメッセージだ。
だが、それがかなたらしい。
かなたは特に意味もなく、『何してる?』『今日は何かあった?』など、疑問形のメッセージを送ってくる。リアクションは人任せだ。
私は、すぐに返事を送る。
『いきなり何?』
『今日は……』
『幼稚園から知ってる男子が、朝から鼻の下伸ばして、女の子に見惚れてたぐらいよ』
全部、すぐに既読になった。
『思春期じゃねーよ、ばーか』
『いや、かなたが、ばーか』
普段通りのメッセージの応酬をした。
かなたはいつも通りだった。
親愛度が『40』に下がった影響は感じられなかった。
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6月4日、火曜日。
登校時、この日も雨が降っていた。
私は、かなたに見つからないように、後ろを歩く。
心持ち、いつもよりかなたが現れるのが遅く、歩く速度もゆっくりのように感じた。
案の定、いつもの交差点で、かなたは凛ちゃんと合流しなかった。
これは、意図的なもののように感じた。
私は、迷ったが、かなたと話をしたかった。
私は、後ろから声をかけた。
「お、思春期の少年、おっはよー」
「おはよー。だから、思春期じゃねーし」
かなたは、傘ごと私の方を向き、普段通りの調子で答える。
私は、調子が出る。
「それにしても、よく降る雨ねー。雨もしたたるいい女とは私のことよ。おほほほほ」
ノリノリの私で返せたことが、私自身も嬉しい。
昇降口まで会話は弾んだ。
でも、かなたの親愛度は『40』から変化がなかった。
この日から木曜日まで、登校時間だけでなく、放課後もかなたが凛ちゃんと一緒にいるところを見ることはなかった。
金曜日の下校時。かなたは、いつもの交差点を反対に向かい、駅の方に向かった。
見慣れない通りに入る。そこには、凛ちゃんが待っていた。
かなたと凛ちゃんは古びた喫茶店に入って行った。
二人は会っていた。別々に移動してここに来たのも意図的だろう。
まるで密会のようだ。
私は、二人が出てくるのを待たずに、帰宅した。
翌土曜日。
この日も雨だった。
私は傘を差して、かなたのマンションの前にまた来ていた。
案の定、かなたがマンションから出てきた。
傘を差したかなたは駅まで歩き、凛ちゃんと合流した。
凛ちゃんは丈の長い花柄のワンピースにカーディガンを羽織っていた。花柄のワンピースが凛ちゃんの美しさを引き立てていた。
二人は並んで、近くにある図書館へ入って行った。
二人はデートをしている。学校から近い図書館で。
昨日は密会していた。
でも、学校では距離を置いている。
事実を並べてみても、何かが霞んでいるようで、一つの線に結び付かなかった。
距離を置くのは、周囲の目を気にしてのことだろう。
喫茶店に別々で行ったのも、人目を忍んでのことに違いない。
でも、今日は堂々とデートをしている。
私は、この時点では、見落としていることがあることに、気付いていなかった。
ーーーーーーーーーー
6月10日、月曜日。
梅雨らしく、雨の日が続いている。
通学路で、かなたを見つける。
交差点には、凛ちゃんは現れない。
私は、先週のことを思い出し、かなたに声をかける。
「お、思春期の少年、おっはよー」
「おはよー。だから、思春期じゃねーし」
「それにしても、よく降る雨ねー。雨もしたたるいい女とは私のことよ。おほほほほ」
私は、会話を終えた後に気づいた。自分がしたミスに。
この会話は、先週の火曜日にしたものだ。月曜日の夜のメッセージのやり取りを受けて。
あのメッセージがなければ、この会話は成立しないはずだった。
しかし、かなたは、「おはよー。だから、思春期じゃねーし」と普通に返した。
演技をしているかなたは、私の演技に気づかなかった。
かなたは、私がループしていると完全に信じているのだ。
私は、安堵したとともに、寂しさも覚えた。
かなたにとって、私はループの一部になってしまっている。
ループの演技をしている私にも責任がある。
でも、ここまで続けた演技を急にやめられない。
この日の昼休み、私は教室でお弁当を食べていた。
友達と食べる日も多いが、今日は一人で食べていた。
早めに食べ終わった生徒たちは、教室や廊下で友達と会話を楽しんでいる。
そんな中、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「やぁ、風野さん、久しぶり」
かなたの声に違いない。
私が聞き間違えるはずがない。
私は、弁当箱を一度閉じて、入り口付近まで行く。
「ええ、と。風野さんに用があって……」
嫌な予感がした。
かなたは、凛ちゃんを攻略した一週間後には、もう次のターゲットを探している。
「いや、あのさ。今日の放課後、一緒に帰らない?」
風野と呼ばれた女子生徒、風野彩芽は、クラスメイトだ。
2年生になってから、コース選択で同じ情報コースを選び、同じクラスになったのだ。
彩芽は明るくて人懐っこい性格だ。
この後の流れも予想できる。
「うん、いいよ。一緒に帰ろっ!」
彩芽は予想通り、あっけらかんと快諾した。
それから、月曜日から木曜日まで、かなたと彩芽は一緒に下校した。
毎日、経路を変えながら、本当に楽しそうに二人は帰っていた。
金曜日は違った。
金曜のかなたは、彩芽と帰らず、例の喫茶店に向かった。
そして、土曜日。今週もかなたは凛ちゃんと図書館デートをした。
そして、そのルーティンは翌週も続いた。
さすがに、私は嫌になった。
かなたは彩芽を攻略しようとしながらも、週末にはしっかりと凛ちゃんとデートをしている。
私がこの前、霞んで見えていたものが今ははっきりと見える。
二人は、この世界のルールを把握して、デートを楽しんでいる。
彩芽の攻略は、木曜日までに進展がなかったら、次の周回にやり直せばいい。
土曜日にデートを目撃されても、皆の記憶は、月曜日の朝にはリセットされるのだから。
ああ、これはやっぱりゲームなんだ。
かなたは、ゲームのルールを活用して、この世界を楽しんでいる。
自分と凛ちゃんだけが特別なのだと思っていることだろう。
私が全てを見抜いてるなんて思ってはいないだろう。
私は、かなたのことが誰よりも好きだ。
でも、この世界でゲームを楽しむかなたは、好きではない。
こんなの、本当のかなたではない。
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ようやく連載を再開できました。22話を一部変更しています。ご確認ください。
月曜日と木曜日の21時に投稿します。引き続き、お読みいただければ嬉しいです。
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