第53話 ひかりの軌跡1
4月8日月曜日。
朝、目覚めると私は『知っていた』。
この世界が変わったことを。
誰かに聞かされた訳ではない。
ただ『知っていた』。
私は制服に着替え、朝食をとり、学校へ向かう。
学校へ向かう道、私の前方を歩くかなたが見えて来た。
離れていても、しっかり見える頭上の黄色い数字。
『50』
それが今のかなたから私への親愛度らしい。
私はこの『50』を『100』にするだけでいい。
そうすれば、私はかなたと結ばれる。
何て簡単なゲームなのだろう。
かなたと私の関係は長い。
幼い頃から一緒に過ごしてきた。
時間だけじゃない。
積み重ねて来た思い出だって、誰にも負けない。
私は、かなたの後方からしばらく様子を見続けた。
学校手前500メートルの交差点、ここで、登校する多くの生徒が合流する。
かなたに、そろそろ声を掛けようかと思っていた時だった。
かなたが、一人の女子生徒に声をかけた。
私はその女子生徒を知っている。
水無瀬凛。
今年の3月までクラスメイトだった。そこまで仲が良い訳ではないが、『凛ちゃん』『ひかりちゃん』と呼び合うほどの仲ではあった。
整った顔立ちで神秘的な美しさを持つ。休み時間はいつも読書をしており、少し近寄りがたい雰囲気もある。男子と雑談してるところは、ほとんど見たことがない。
そんな凛ちゃんに、かなたから声をかけている。
かなたも、そんなに積極的に女子へ声をかけるタイプではない。
かなたも同じクラスだったが、二人が授業以外で話しているところを見たことはなかった。
そんなかなたが、凛ちゃんに声をかけて、楽しそうに話をしている。
何か違和感を覚える。
正門前まで来たところで凛はかなたから離れて、駆け足でクラスの女子と合流した。
立ち尽くして、凛ちゃんの後ろ姿を見ているかなたに私は、普段通り声をかける。
「かなた、おっはよー!何、ボーッとしてるの?早く行かないと遅刻するよ」
「おう、おはよっ。てか、別にボーッとしてねーし」
挨拶を返すかなたも普段通りだった。
私は安心して調子が出る。
「嘘ばっかり。美女に見惚れていたでしょ?このひかり様の目はごまかせませんことよ」
右の手のひらを左の頬に付けて、
「おほほほほ」
高笑いした。これが、いつもの私だ。
その後もボケありツッコミありのいつもの雑談をした後、一緒に校舎に入った。
今日から、クラスがバラバラなのは寂しかった。
一方で、かなたと凛ちゃんは同じクラスである。今後の二人が少し気になった。
この日の夜から、かなたからのメッセージは変わった。
今までのような他愛も無い馬鹿話ではなく、『好きな人はいるの?』『オレのことどう思う?』など、探りを入れるようなメッセージばかり届くようになった。
私は、『何言ってるの?熱でも出た?』『おさななじみのかなたくん』など、これまでの私を通した。
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4月9日、火曜日。
この日も、登校時、かなたは積極的に話しかけていた。
それは、10日も11日も12日も、毎日続いた。
4月15日、月曜日。
朝の母親との会話で、私はこの世界がループしていることを確認した。
そして、登校時、別の事実を確認することになる。
先週と同じように私の前を歩くかなた。
どこかそわそわしているように見える。
交差点まで来ると一度止まり、タイミングを見計らうように凛ちゃんに声をかける。
先週と同じ反応をする凛ちゃんに対し、明らかに先週より慣れた調子で会話をするかなた。
私は、感じ取った。
かなたは、凛ちゃんを攻略しようとしているんじゃないかと。
正門前で私は迷った。どうかなたに声をかけるか。
そして、私は選んだ。ループしているフリをすることを。
私は、ドキドキしながらかなたに声をかける。
「かなた、おっはよー!何、ボーッとしてるの?早く行かないと遅刻するよ」
かなたなら、私の演技を見抜くかもしれない。
そう思うと胸が張り裂けそうだった。
「おう、おはよっ。てか、別にボーッとしてねーし」
しかし、心配は杞憂で終わった。
「嘘ばっかり。美女に見惚れていたでしょ?このひかり様の目はごまかせませんことよ、おほほほほ」
私は、最後まで演技を続けた。
ここでループしているフリを選択したことが、後に大きな後悔を生むことも知らずに。
かなたは、探るように返事を返す。
ここまでくれば、私にもわかる。
かなたは私のことも攻略しようとしている。
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かなたは、その翌週も翌々週も、月曜日のリセットを繰り返しながら、凛ちゃんを攻略しようとし続けた。
私は、ループしているフリを続けた。
5周目ぐらいになると、明らかに凛ちゃんへ声の掛け方け方は、明らかに慣れたものになっていた。火曜、水曜と積み重ねる中で、みるみる凛ちゃんは心を開いていく。
私の中で疑念が生まれる。
これは、本当にゲームかもしれない。ゲームのように言葉巧みに攻略していくかなたの凛ちゃんへの思いは本物だと言えるのだろうか?そこから、本当の愛は生まれるのだろうか?
演技を続けている私には何もすることができなかった。
この頃から、かなたの私への連絡は、大幅に減った。
ターゲットを凛ちゃんに絞ったのだろう。
かなたが最初の攻略に選んだのは、私ではなかった。
そりゃあ、目に見えて変化のある女の子の方が、攻略し甲斐もあるのだろう。
それでも、私はショックだった。
かなたが他の女の子に夢中になっていることに。
5章スタートです。最終章になります。
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