第52話 早めのクリスマス会(後編)
宅配ピザが届き、いよいよパーティーが始まる。
部屋は赤や金のモールで華やかに彩られている。
クリスマスツリーの電気も点灯している。
窓側の壁には、彩芽が作った横断幕が飾られている。
そんな中、4人の女性がサンタの衣装でテーブルを囲んでいる。ふわふわした衣装に、帽子もお揃いだ。
恥ずかしそうにしている凛と真央も、すっかりその気になっている優花さんと彩芽も、4人とも本当に可愛かった。
そして、4人に囲まれたオレは、トナカイの着ぐるみを着ていた。
「かなたんのトナカイ、最高なんだけどーー!」
言いながら彩芽が写真を何枚も撮る。
「赤鼻、外したらダメ、だよ」
凛は笑いをこらえながら、変な念押しをしてきた。
「先輩、似合っています!エンターテイナーです!」
真央はテンションが上がっているのか、よくわからないことを言っている。
「うふふ。私のチョイス、良かったでしょ?さぁ、パーティーを始めましょ」
オレたちのグラスにシャンメリーが注がれていく。大人用の甘さ控えめのやつだ。
そして、優花さんのグラスにだけ、本物のシャンパンが注がれる。
「それでは、『ちょっと早いけど、まおまおおかえり!クリスマスパーティー』の始まりー!」
「「「「「メリークリスマース!!」」」」」
5人の声が重なり、その後、グラスを合わせる音がした。
オレたち4人は、グラスに口を添える。フルーティーで甘さ控えめでおいしい。
一方の優花さんは、勢いよくシャンパンを飲み干した。
「うふふ、奏多くん、おかわり注いでくれるかしら」
「優花さん、早いよ」
「だって、このシャンパン、おいしいんだもん」
可愛く甘える優花さんのグラスにオレは、二杯目を注いだ。
テーブルを彩る料理に目を向ける。一人一人の皿にてりやきローストチキン、ポテトサラダ、添え野菜がのっている。コンソメスープ、グラタンもある。中央にはピザが置かれている。
「このお肉、おいひい」
彩芽が、チキンにかぶりつきながら言う。
「ポテトサラダ、いつもと味が違うね」
「今日は、優花さんに隠し味を教えてもらったから、ね」
「そうなんだね、おいしいよ」
「……良かった」
凛は安堵の声を漏らしながら、グラスの飲み物に口を付ける。
「先輩、楽しいです。こんなクリスマス会初めてです。本当に皆さんに感謝です」
「うん、楽しいね。改めて、真央、おかえりなさい」
「ただいまです、先輩。しばらくは、ゆっくりトレーニングや受診をしていくので、のんびりやっていきます。たまには会ってくださいね」
「がんばって世間の目をかいくぐるよ」
そんな会話を真央と交わしていると、三杯目のシャンパンを飲み干した優花さんが、頬を染め、目をとろんとさせて声をかけてくる。
「奏多くん、楽しんでいるかしら?」
「うん、楽しいよ。料理も美味しいし、みんなのサンタ姿も可愛い」
「あら、それは良かったわ……ところで、奏多くん?」
「ん?」
「奏多くん、誰のサンタクロースが一番可愛い?」
赤鼻のトナカイ姿のまま、オレは突然の質問にシャンメリーを吹き出してしまった。
優花さんは、妖艶に微笑んだまま、返事を待っている。
いつの間にか、女性陣みんなが注目している。
「かなたん、あたしも聞きたいなー」
「聞きたい、ね」
「先輩、私も気になります」
「ねぇ、奏多くん、早く答えて。誰のサンタが一番可愛い?」
4人の可愛いサンタクロースがじりじりと迫ってくる。
赤鼻のトナカイは追い詰められていく。
に、逃げ場がない。
「こ」
オレは、やっとの思いで声を出す。
「答えられないよーー!!」
オレは叫んだ。
ーーーーーーーーーー
食事を終えて、テーブルを一度片付けた。
さっきの場面は、サンタたちが大爆笑して、収まった。
お皿とスプーン、あったかい紅茶が運ばれる。
最後に彩芽がケーキを持ってくる。
ケーキが箱から出される。
大きなリース型のクリスマスケーキが出てくる。
真っ白なムースの輪の上に、真っ赤なイチゴやラズベリー、ブルーベリーが彩りよく並ぶ。リース型の中央には笑顔のサンタクロースが座り、雪の結晶のチョコレートが飾られている。
「すごい、ね」
「わぁ、ほんと綺麗なケーキね」
「樫木さん、マジ、ナイスすぎーー!」
「あとで樫木さんに伝えておきます」
優花さんが、ケーキの周りに並べられた5つのキャンドルに火を灯していく。
凛が部屋の照明を落とす。
部屋がオレンジ色の灯りだけになる。
五つのキャンドルが、5人それぞれの顔を照らす。
しばし、火の揺らめきにみんな魅入る。
誰も言葉を発さない静かな時間が流れる。
その静寂を破るように、真央が静かに歌い始める。
そっと英語の歌詞を口ずさむ。
英語版の『サンタが街にやってくる』だった。
真央の繊細な歌声がみんなを包む。
透明感のある歌声が、キャンドルの火と重なる。
すごい。
英語の歌詞は自然と部屋へ溶け込む。
聞く人の心を惹き込む、温かい歌声だった。
4人とも真央の歌声に浸る。
真央が歌い終わる。
誰もすぐには言葉が出なかった。
遅れて、大きな拍手が部屋いっぱいに広がった。
真央は照れ笑いしながら、
「あっ、火を消さないといけないです」
と言った。
「じゃあ、みんなで消すよ」
彩芽が号令をかける。
「せーの!」
「「「「「ふーーっ!!」」」」」
部屋は真っ黒になった後、すぐに凛が照明を点けた。
「「「「「メリークリスマス!!」」」」」
紅茶のカップを持ち、みんなで声を掛け合った。
ケーキを食べた終えると、自然と合唱会が始まった。
定番のクリスマスソングをみんなで歌った。
歌の途中、彩芽がタンバリンを叩き始めた。
「先輩、ほんとにタンバリン用意してたんですね」
「もちろんよー。パーティーには必須でしょ」
「あやむんなら、普通、だよ」
そんな会話を挟んだ後も、タンバリンのリズムに乗りながら、みんなで歌った。
みんな笑顔だった。
可愛い4人のサンタクロース、オレ一人、赤鼻のトナカイ。
笑いながら、楽しく歌う。
真央の再出発を祝いながら。
5人の幸福を願いながら。
夜は更けていった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
第4章完結です。次の第5章が最後の章になります。最後までこの作品を楽しんでいただけると有り難いです。
月曜日と木曜日の21時に投稿します。
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