第42話 山登り(後編)
登山道まで続く針葉樹林の林道を4人は進む。
彩芽が先頭を歩き、凛が斜め後ろに続いている。少し間があって、オレと優花さんがのんびり歩いている。
傾斜もまだほとんどなく、木陰の中を歩いていく。
「ルンルルン、ルンルルン♪」
彩芽は鼻歌を歌いながら歩く。
「まだまだ、楽勝、だね」
凛も余裕を見せている。
「まだ登山道に入ってないからねー。楽しみながら歩こうね」
優花さんが優しく言葉を掛ける。
「優花さん、あやちゃんの服装は正解なの?」
「全然、大丈夫よ。ちゃんとウィンドブレーカーだし、靴も歩きやすい運動靴、完璧よ。しかも、見た目が超かわいい!」
「わかってるねー、ゆかたん。可愛いが一番!……だけど、ちゃんと山登りのことも考えてきてるよ?偉いでしょ!」
「さすがだ、ね。あやむん」
「うーん、あやむんが定着してきてるのが気になるけど、まぁ、いいか。りんりんは清楚系で正統派の山登りの服装って感じだねー」
「うん。山登りだから、機能性重視、だよ」
「靴が登山用の靴みたいだけど、ピンク色が可愛いね」
「うん……奏多が選んでくれた」
「うわっ、いいな。かなたーん、あたしのも何か選んで」
「え、あやちゃんは前に髪飾りを買ってあげたじゃん」
「えっと……私は何も買ってもらったことないけど、お祭りでも何も食べてないし……どういうことかな、奏多くん?」
「えっ、それはその……これから……」
「うふふ、冗談よ。これから、期待してるね」
そんなやりとりをしながら道を進むと、やがて林を抜けて、草原が広がる。
そして、草で金色に染まる、高い山が目の前にそびえていた。
「さぁ、ここからが本番よ。気合いを入れて上りましょうね。基本、石段があるんだけど、崩れてるところもあるから、足元には気を付けて上ってね。そうねぇ、先頭が私で、最後尾が奏多くんがいいかな?」
「わかったー。ならあたしが2番目で盛り上げるねー」
「私は、3番目でついて行く、よ」
「それじゃあ、いよいよ登山開始ぃー!!」
「「「おー!!」」」
盛り上げ役の彩芽の掛け声で登山を開始した。
道は、石段になっていて、2、3人なら並んで登れそうな幅があるが、下山する人も多いため、一列で上る。
普段着で、下山してくる海外の人も多く「ハロー」と声をかけてくれるが、息は荒れている。
曲がりくねった石段を、彩芽を中心に雑談をしながら、登っていく。
15分ほど、登ったところで、少し広くなっているところで、一度休憩する。
そこに到達する頃には、彩芽も無口になっていた。
「ちょっとこれ、思って以上に息が苦しいんだけど」
「うふふ、まだ始まったばかりよ、あやむん。凛ちゃんは大丈夫」
「うん、まだ、だいじょうぶ、だよ」
「オレもまだまだいけるよ」
「あ、あたしも大丈夫だもん」
「なら、このまま登りつづけようね。凛ちゃんとあやむん、入れ替わってみようか」
「うん、そうする。かなたん、背中押して!」
「それは無理」
再出発前に、後ろを振り返った。出発地の駐車場や草原が小さく見えて、奥の山々に囲まれて箱庭のように見える。3合目ぐらいだが、十分景色は良かった。
再出発してからは、ほとんど無言で上っていく。
4人の息の音が、聞こえてくる。
体力的に凛を心配したが、大丈夫そうだ。
彩芽もはしゃぐ余裕はなくなってきたようだが、まだ足取りには余裕がある。
先頭の優花さんは足取りが安定している、時々後ろの3人を確認したり、声を掛けたりしながら、オレたちを先導してくれる。
途中もう一度、休憩する。体は温まり、暑い。
飲み物を各自飲み、息を整える。
「あと15分ほどで頂上よ。最後までがんばろうね」
15分という時間以上に、山登りのきつさを3人はもう十分身に染みていた。
「よし、あやちゃん、凛ちゃん、がんばろうね」
「うん、根性でがんばる」
「がんばる、よ」
二人も覚悟を決めたようだ。
並びは変えずに、三度歩き始めた。
荒い息遣いが重なり合う。
空気は少し冷たくなったかもしれないが、それ以上に体が熱い。
黙々と歩き続けると、ついに石段が終わった。
「着きましたよ、みなさん」
優花さんが拍手を送る。
「はぁはぁ、着いたの!?やったーー!!」
彩芽が大喜びする。
「たどり着いた、ね」
凛は静かに喜ぶ。
そして、4人は周りを見渡す。
圧倒的な景色がそこには広がっていた。
山々に囲まれた草原の箱庭とその向こうに広がる小さな街並み。
少し左にずらすと、火山が火口付近まで見え、煙が出ている。
さらに、左にずらす。山と山の間から、平野地が広がる、その奥には街並みがある。オレたちが住む街だ。
誰も何も言わなかった。
風だけが山頂を吹き抜ける。
「……すごい」
最初に口を開いたのは彩芽だった。
「ほんと、すごい景色、だね」
「うん、すごいとしか言いようがない」
初めて見る壮大な景色に3人はただただ感動していた。
優花さんが、そっと言葉を添える。
「何度見ても、この景色は圧巻だよ。もっと空気が澄んでる日は、向こうの海まで見えるんだけど、街まで見えるのは当たりだよ」
彩芽が何か思い付き、目を輝かせる。
「ねぇ、ねぇ、記念写真撮ろうよ!」
「いいね、撮ろう」
オレが話にのる。
「こっちの看板があるところがいい、かな」
凛は冷静にロケーション選びをする。
優花さんは……髪を止めていたゴムを外し、髪を手櫛で整える。
「ゆかたん……きれい。反則なんですけど」
「優花さん、きれい、だね」
「……うん」
「うふふ、折角の記念撮影だからきれいに写らなきゃね。ね、あやむん」
「も、もちろん、私も負けませーん!」
4人、体を寄せ合い、彩芽が持ったスマホで撮影をした。
その後、オレのリクエストで、女性3人だけでの写真も撮ってもらった。
記念撮影が終わると、彩芽が用意したレジャーシートに座り、凛が用意したお弁当を広げる。
白い大きな弁当箱に、おにぎり、玉子焼き、ウィンナー、唐揚げ、ポテトサラダが入っている。
ウィンナーは昨日一緒に選んだオレの好きなメーカーのものだ。
「わっ、おいしそう!りんりん、ありがとねー」
「凜ちゃん、朝早くからありがとうね、大変だったでしょ?」
「いえいえ、優花さんに迎えに来てもらえたのでゆっくり作れました、よ」
「それじゃあ、食べよう」
「「「「いただきまーーす」」」」
オレはウィンナー、彩芽は唐揚げを箸で取る。凛はその様子を見ている。優花さんは人数分のお茶をついでくれていた。
「うん、おいしい」
「この唐揚げ、うっまー!りんりん、下味どうしたの?」
「玉子焼きもおいしいよ」
3人が美味しそうに食べている様子を見て、安堵の表情を浮かべながら、凛はおにぎりを食べ始めた。
そして、4人でおいしく、楽しくお弁当タイムを終えた。
下山の前にオレは、自分たちの街が見える方の景色を写真に撮る。
そして、真央に送った。
『今から下山するよー』
すぐに返事がくる。
『すごくきれいですね、先輩』
『私も一緒に登りたかったな』
『いや、なんでもありません』
『素敵な写真ありがとうございました』
『真央、いつか一緒に登ろうな』
『先輩、それはできません。真央はスーパー芸能人なんです』
『それなら、いつか、こっそり、どこか海外の山を登ろうか』
『(笑) その方が現実的かもしれませんね』
『普通の高校生ができないのは、少し寂しいけど』
『先輩がいてくれるから、大丈夫です』
少し間が空く。
『あの、告白じゃありませんよ』
『え、告白でしょ?今の』
『せんぱーい、困ります。笑』
そんなやりとりを日曜日の昼に真央とした。
この周の真央の記憶は明日には消えている。
また、真央との積み重ねの一週間が始まる。
真央は忘れても、オレは今の真央とのやりとりを忘れない。
真央の親愛度はまだ一度も見たことがない。
それでも、何度も積み重ねるうちに、少しずつ真央のことがわかってきた。
焦る必要はない。
たとえ何周かかってもいい。
オレは必ず、真央の『答え』を見つけ出す。
「奏多、下山する、よ」
凛の声掛けで我に返る。
オレはスマホをしまい、3人のもとへ駆け寄った。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
月曜日と木曜日の21時に投稿します。引き続き、お読みいただければ嬉しいです。
ブックマーク、リアクション、評価、感想等、とても励みになります。いただけたら有難いです。




