第4話 2回目の初デート
金曜日は穏やかに過ぎた。
登校時に小説の進捗を確認し合い、休み時間はもちろん、昼休みも一緒に弁当を食べながら、二人で黙々とページをめくっていった。放課後の勉強会もなく、帰り道で明日のデートの待ち合わせ場所を確認した。
――そして、土曜日の朝を迎えた。
凛との初デート。でも、オレにとっては“2周目”の凛との初デートだ。
前回は土曜日に何か失敗した。親愛度は84で止まり、日曜日は会うこともできずに一週間が終わった。
今回は終わらせない。明日につないで見せる。
強い決意を胸に、オレは待ち合わせ場所の駅へと向かった。
――――――――――
5月末の朝の空気はまだ少しひんやりしたが、日差しは柔らかく、風が心地よく頬をなでる。
駅の改札前で待っていると、凛が少し早足で改札口から出てきた。
「……今日は公園、だね」
乗り換えのバスに向かう道中、凛は少し緊張した面持ちでオレに声をかける。
水色の半袖ワンピースに、クリーム色のカーディガンを羽織った凛。清潔感のある服装が、彼女の神秘的で透明感のある美しさをより一層引き立てていた。
「うん、行こうか」
凛の緊張感に気づかないふりをして、オレは自然に答えた。
バスの中では小説の話をした。凛の緊張も取れて来たようで、次第に会話は弾んでいった。
公園に着くと、若々しい緑の木々が二人を出迎えた。
「わぁ……緑が、いっぱい」
凛は息を弾ませ、目を細めて笑った。
二人は並んで緑の中を歩いていく。木は桜が多く、花見スポットで有名な公園だ。
オレは歩きながらそっと凛の手を握った。
親愛度はオレンジ色のまま『80』から『84』へと変化した。
――ここまでは、正解……
公園を1時間近くかけて一周したあと、中央の噴水広場へと向かう。水しぶきが日差しに反射して、まるで小さな宝石のように煌めいていた。
ベンチに腰をおろすと、凛が切り出した。
「……あの、サンドウィッチ、作ってきた、よ。」
モソモソとバッグの中を漁り、タッパーを取り出す。
「……初めて作ったから、美味しいか自信ない」
目を閉じて両手でタッパーを持ち、オレに差し出した。
「凛ちゃん、ありがとう」
オレも両手で受け取り、ふたを開けた。
レタス、ハム、卵が挟まれ、不揃いにカットされたサンドウィッチ。素朴だけど、丁寧に作ったのが伝わってくる。
――ここが分岐点だ!
前回は、ここで失敗した。
前回は、「めっちゃ美味しそう!」と、言ったのだった。
そのあと、凛のテンションは確実に下がった。そこから、帰るまで親愛度は上がることなく、前回の公園デートイベントは終わりを告げた。
……どう言うのが、正しい?
「一生懸命作ってくれたんだね。ありがとう、凛ちゃん」
これで、どうだ!
「……お、おいしそうじゃないよね。無理に食べなくても、いい、よ」
「そんなことないよ。凛ちゃんが作ってくれたんでしょ?それだけで十分だよ」
「……嘘だ。また話を合わせてる。奏多は、話を合わせる天才だから」
オレは凛の言葉に応戦することはせず、サンドウィッチに手を伸ばす。
「……うまい」
「……本当?嘘じゃ、ない?」
「ほんとのほんとだよ。本当においしい。ほら、凛ちゃんも食べて!」
オレはサンドウィッチを口にくわえ、空いた手で一つ取り出すと、凛の口元に持って行った。
オレが手に握ったままのサンドウィッチを、凛は勇気を振り絞るように、パクリと食べた。
「な、うまいだろ?」
「……う、うん。美味しい」
凛の目には涙が浮かんでいた。
「私が作ったサンドウィッチ、おいしい。チーズを隠しておくのがポイントってお母さんに伝授された」
「うん、チーズが入っててびっくりした。隠しチーズ作戦、大成功だね」
「あはは」
「えへへ」
二人は笑い声を重ねる。
サンドウィッチを食べ終えると、少し沈黙の時間が流れた。
それを破ったのは凛だった。
「……わたし、こんなに早く、誰かと……こんなに仲良くなったこと……なかった」
凛の目にはまた涙が浮かんでいる。
「……嘘なんじゃないかって思うときある……幻なんじゃないかって家に帰ったあと、毎日思う……時間が過ぎてしまうと消えてしまう魔法……」
ポロポロと涙がこぼれ落ちる。
「でも、奏多と食べたサンドウィッチ、おいしかった。」
「月曜日から毎日、奏多と話して……とてもとても……とてもとても楽しかった」
涙を流したまま、凛はオレの方を向く。
「ねぇ……幻じゃないよね?現実だよね?」
――幻にさせない。
「幻じゃないよ、全部、本物だよ。毎日話す楽しい時間も、二人で食べたアイスも、凛が、がんばって作ってくれたサンドウィッチも……全部、本物だよ」
「……ほんとに本当?」
「ほんとに本当」
「なら……明日も会えるかな……明日も会いたい」
「うん、会えるよ。明日も会おう」
「……うん。約束、だよ」
「うん、約束」
その日の別れ際、凛が帰っていくのを見送りながら、親密度を確認した。
『90』
赤く染まった数字が、静かに浮かんでいた。
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