第3話 積み重ねる手応え
火曜日の5限目の休み時間。
ふいに凛がオレの横に来て、小さな声で言った。
「……今日の放課後、課題手伝ってくれる、かな?」
「おう、いいよ。数学は任せて」
今日の課題は、数学がメイン。オレの得意分野だ。
逆に国語は圧倒的に凛が強い。英語はオレの方が少し得意だが、そんなに変わらない。これまでの周回で確認済みだ。
放課後の図書室の隅で、二人並んで課題に取りかかった。質問に答え合ったり、課題を分担して解いたり。時間はあっという間に過ぎていった。
『52』
親愛度の色は『50』を超えた時点で、ひかりと同じ、黄色に変わった。
「……ありがとう、奏多くん」
「どういたしまして、凛ちゃん。二人でやった方が早いし。明日もやる?」
「……明日も、する」
凛のしゃべり方はいつものそっけない感じで変わらないが、表情は昼にふと見せていたやわらかい表情が、今はオレの前でずっと続いている。
順調に最短ルートを進んでいる。
確かな手応えを感じながら、この日は途中まで一緒に下校した。
――――――――――
水曜日。
朝の登校から昼のお弁当、放課後の勉強会まで、レールの上を走る汽車のように順調に進んでいった。
親愛度も、朝『53』 → 昼『57』 → 放課後『61』 と、上がっていった。
それは、小さな積み重ね。
消しゴムを貸す。
ノートを見せ合う。
相槌を打つ。
その積み重ねが、親愛度を確実に上げていった。
その帰り道、西日が通学路と二人をオレンジ色に染めていた。
「ねぇ、明日の帰り道、小説の新刊を一緒に買いに行かない?」
「……うん。買いに行く」
オレの方に少し顔を向いて、控えめなはにかんだような笑顔で凛は答えた。
親愛度は『70』まで跳ね上がった。
木曜日も、登校から放課後までいつもと同じ流れをこなし、二人で学校の近くの本屋に向かった。
お目当ての小説は、人気の新刊なので分かりやすい場所に並んでいた。
オレと凛は一冊ずつ本を取り、レジに持っていき、お揃いのブックカバーをしてもらった。
『76』
よし、もう一押し。
「今日、少し暑いし、アイスでも食べていかない?」
「……おお、アイス、いい、ね」
凛の声は少し弾んでいた。お気に入りの小説の新刊を、急接近したオレと一緒に買えて、気分も上がっているのだろう。
オレたちは本屋から歩いて五分ほどのアイス専門店に入り、二人でショーケースを眺めながらあーだこーだと言い合って、アイスのフレーバーを選んだ。自然と会話は弾んだ。
「……アイス、おいしい」
「うん、おいしいね」
「……私のアイスの方がおいしい」
「いや、オレのほうが絶対うまいし!」
「あはは」
「えへへ」
声を重ねて笑い合うだけで、距離はますます近づいていく。
「……奏多くんのスプーン、貸して」
「なら、凛ちゃんのスプーンも、貸して」
二人でスプーンを交換して、自分のアイスをスプーンで取る。
「はい、あーーん」
オレはスプーンを返さず、凛の口元に持っていく。
「……え……あ、うん。……私も負けない」
どういう対抗意識か、そう言うと、凛もスプーンをオレの口元に近づけた。
二人同時に、目の前に差し出されたアイスをパクリと食べる。
――その瞬間、凛の頭上の数字がオレンジ色に変わった。
『80』
とうとう親愛度は、『80』に到達した。
ここまで来たら、デートに誘うことができる。
アイスを食べ終え、バス停まで凛を送る途中、オレは切り出した。
「あのさ、凛ちゃん。今度の土曜日、一緒に出かけない?」
凛の瞳が、驚きで大きく開く。
「……え。あの、それは、つまり……」
「つまり、デートのお誘い」
真っ赤になった凛の顔を覗き込む。
「……顔、近い、よ」
「お答えは?」
「……行く、よ」
「っしゃーー!!」
大げさにガッツポーズを作るオレに、凛は小さく吹き出す。
「場所はどこに……」
オレが言い終える前に、凛が言葉をはさむ。
「公園……公園に行きたい。緑いっぱいの公園を……奏多と歩きたい」
はにかむ凛。
ここまで来たのはこれで二回目。
一度見てるとは言っても、ここでのはにかんだ笑顔はやっぱり可愛い。
土曜日のデートが決まった。
必要な条件は全て揃っている。
――『正解ルート』はさらに加速する。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
明日も21時に投稿します。
良かったら読みに来ていただけると嬉しいです。




