第39話 修行僧じゃん!!
その日の夜に、優花さんにメッセージを送った。
『凜もあやちゃんも、ハイキング、楽しみにしてるって言ってたよ』
『ほんと?それは良かった』
『お弁当は凛が任せてって。あと、盛り上げは、あやちゃんが任せてって。笑』
『それは心強いわね。笑 山登りって無言になりがちだから』
そんなやりとりをしてると、真央からメッセージが届く。
『ボーカルの先生、怖かった。笑』
『でも、私の歌声で黙らせました。笑笑』
『お、おつかれさま。今日はもう休めるのかな?』
『そうですね。ダンスの自主トレを少しして寝ます』
『ほんとに少しで済むの?』
『少しです。笑』
『がんばってね』
『ありがとうございます』
そして、いつものウサギが、お辞儀した「ありがとう」と書かれたスタンプが来た。
週末は、凛、彩芽とそれぞれデートを重ねた。
その間も、時間を見つけて真央とのメッセージのやりとりは続いた。
――――――――――
そして、新たな月曜日を迎えた。
朝、優花さんとゴミ置き場で挨拶を交わす。今日もおしゃれな秋コーデだった。
下校の時間、補習から解放された彩芽と一度合流する。
その後、彩芽には少し離れた場所で見守ってもらう。
正門を出て、左側。
その場所に……
この周でも、苦しそうにうずくまっている少女がいた。
オレは前周の月曜日と同じように、駆け足で近づく。
眼鏡にマスク姿の少女は苦しそうに、息を荒げている。
オレは声をかけ、呼吸が落ち着くのを待ち、水を渡した。
「それ、まだ開けてないから。良かったら飲んでね」
真央は遠慮がちに受け取る。
そして、何かを言おうとする。
やはり、声は出なかった。
スマホを取り出し、文字でお礼を伝えて来た。
その後、友達登録を済ませると、真央は迎えのワゴン車に乗って去って行った。
車を見送ったオレに、彩芽が近づいてきた。
「かなたん、これって……」
「うん、前の周と同じ。ループしている」
真央は、やはり攻略対象だった。
帰り道、彩芽に状況を説明した。でも、真央の正体はまだ語らなかった。
真央がRe:inのMaoであることは、この周でもきっとオレにだけ打ち明けてくれる。
でも、そのことは他の人には話してはいけない秘密のような気がした。
彩芽と話しながら歩いていると、メッセージが届く。
『先程は、ありがとうございました。声が出るようになったら、改めてお礼を言いたいです。また、連絡します』
『うん、わかりました。お大事にしてくださいね』
やりとりを覗き見しながら、彩芽が、
「ここから、凛ちゃんが言ってたニヤニヤが始まるんだねー」
と、茶化してきた。
「ニヤニヤしてないし」
「いや、今夜からニヤニヤでしょ?きっと。かなたん、楽しいんだろうなぁ」
「何だよ、その言い方」
「今夜、ずっとかなたんとの通話、ずっと繋いどこうかな」
「それは困る」
「あはは、冗談だよ、冗談。がんばってねー。かなたんのニヤニヤ観察日記始めとくから」
彩芽は笑いながら言ったが、何か意味深だった。
夜、2週連続テレビ出演Re:inの歌を鑑賞した。先週とは違い、速いテンポのデビュー曲だった。
爽快感がある曲で、『a ray of light』とは違う魅力があった。
今夜はラフな服装で、真央はダメージジーンズに、シルバーのタンクトップ、デニム素材のショートジャケットを羽織っている。
そして、声はしっかり出ており、ボーカルパートを今夜も力強くも繊細に歌い上げていっていた。
オレは、真央の声が出ていることに安心した。昼間、苦しそうにしていた女の子と同一人物とは思えないほど、真央は堂々とステージに立っていた。
この日も、出演の30分後にメッセージが届き、通話して「星野真央」という名を聞いた。
―――――――――――
火曜日の2時間目の休み時間が来た。
真央からのメッセージは届いている。
『先輩、おはようございます。学校はどうですか?私は朝のレッスンを終えて、この後、打ち合せです』
『おはよう。授業も特に変わりなく、平凡な高校生活だよ。真央ちゃんは忙しそうだね。がんばってね』
『平凡な高校生活…少し憧れます。先輩は、私の正体、気付いてますよね?』
『髪の色が、黒からブラウンと水色に変わってて驚いたよ』
『先輩、そこですか?スプレーですよ』
『新曲、素敵だったよ。真央ちゃんのパート、カッコよくて感動した』
『……ありがとうございます!私は、もっともっと頑張って、もっとすごい歌手になります』
『今でも十分すごいけど』
『そんなことないです。まだまだ修行がたりません』
ここから返事を変える。
『そうだね。滝に打たれて、トップシンガーに近づきそう』
『は?』
『どんな荒行ですか?私、修行僧じゃありません』
『だから、火の上を歩くぐらいにしときます』
『修行僧じゃん!!』
オレは、ツッコミをいれた。
『先輩、面白いですね。移動先に着いてマネージャー待たせてます。また連絡します。では、いってきます』
『うん、行ってらっしゃい。打ち合せ中、寝ないようにね』
ウサギが目を閉じてまくらに寄りかかり、『スヤスヤ』と文字の入ったスタンプが届いた。
この子、ノリいいな。前の周までの礼儀正しくて可愛い後輩という印象から変わった。
そんなギャップが少し面白かった。
チャイムが鳴るまで、笑みを浮かべながら、真央との履歴を眺めていた。
もちろん、昼休みには、凛から前の周より鋭い言葉をいただいた。
そして、逃げきれなかった。
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